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オタク高校生が救われた「推し以外」の理由

私が通っていた高校には、おもしれー男とおもしれー女がやたら多かった。

ピアスばちばちのギャルが全国模試で数学4位だったり、写真部の友人がハーフ顔の男子に猫耳を装着させて、猫耳ブロマイドを学祭で売りさばいたりしていた。あと、成績が学年1位だった男子の鞄からは、食べ終わったミカンの皮が出てきた。

ぶっ濃い面々がたくさんいたので、成績が中の下で、特記事項「推しで頭いっぱいオタク」の私が、一目おかれることもない。漫画で言うところのモブである。犬も歩けばオタクに当たるような高校であったことも、私をモブたらしめた。

さて、漫画あるある的なところで言えば、「生徒会長」が「軽音部」で「バンド」の「ボーカル」だったりした。校内の小ホールで執り行われていた「定期ライブ」では女子に囲まれ、すこぶるモテる。

ひとつ下の弟にこれを話したら、


「そんなん現実にあるん…?」


と虚ろに宙を見つめていた。弟の高校には軽音楽部がなかったので、彼が選んだ部活は合唱部。どれだけいい声だとて、千の風になったとて、合唱中に弟が黄色い声を浴びる可能性は限りなくゼロに近いだろう。ままならないものである。

ちなみに、生徒会長だった彼のほうは受験間際にチャリ通学中に転んで顎を骨折してしまい、そのあとインフルエンザにかかる泣きっ面に蜂状態で、結局浪人することになってしまったらしい。無慈悲。神様、そんなところで帳尻合わせなくてもよくないですか?

ある生徒は授業中、机にずっとスラムダンク調のイラストを描いていた。学年主任でベテランの女性の先生はそのイラストを見るなり「上手いもんやね~」と感嘆していた。その子は漫画やイラストの専門学校に進学した。

クラスメイトに、ふだん遅刻と欠席の常習犯で、演劇部所属のM君がいた。彼は学祭の準備期間、クラスの出し物である劇の練習にだけ顔を出した。彼が演出を手掛けた「新説・白雪姫」は体育館を沸かせ、結果グランプリに選ばれた。
先生たちも最初こそM君に手を焼いていたけれど、最終的にはその個性を面白がっていた。

そんな彼が一言発すれば、いつも爆笑をかっさらっていく。地理の授業でタピオカの原料であるキャッサバを試食したとき、M君も珍しく出席していた。先生から「M。演劇部の表現力で感想を伝えてくれ」と無茶振りされた彼が発した一言が、今でも忘れられない。


「(モグモグ…ゴクン)長靴いっぱい食べたいですね」



嫉妬した。
バケツでは月並みなところ、彼がイマジナリー容器に選んだのは長靴。加工前のキャッサバはとても固く食べられたものではない。けれど「食べたいですね」には、微塵のためらいもなかった。あの完璧な「間」を、私の力量では表現し尽くせないのが悔やまれる。

何を食べればそんな想像力とユーモアが身に付くの?キャッサバか?

私は主人公たちの面白エピソードを栄養にして過ごしていた。子どものころに好きだったアニメのワンシーンを懐古するかのように、みんなのことをふと思い返す。

卒業アルバムにクラス全員で互いの寄せ書きをしたとき、私は各個人のハイライトを覚えている限り書いた。大して絡みもなかったモブクラスメイトが語るエピソードにしては、いささか細かすぎてドン引きだったかもしれない。今さらに心配になっている。どうか時効ということにしてほしい。

あのころ、「好き」や個性が受容される環境であったことが、とても心地よかった。自分の好きも、誰かの好きも。鞄からミカンの皮が出てくる男の子も、もちろんみんなの人気者だ。

そういう場所で過ごせたことを、たとえモブでもちょっと誇らしく思ってしまうのは、高慢が過ぎるだろうか。















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