“推しが同じ”女ふたり、17年間暮らしてみたら
ここに短い会話文を示す。
わたし「おはよ、ねぇ、いま来てるよ」
同居人「えっ、日本かな?」
わたし「たぶん!」
私が同居人に「推しがファンクラブ内のチャットに、現在進行形で降臨していること」を報告した際のやりとりである。
「主語って知ってる?」
と突っ込みたくなるかもしれない。
ちなみに同居人が言った「日本かな?」は、
「(彼は日本で撮影があると少し前に言っていたし、彼が住んでいるマレーシアではなく)日本(からチャットに書き込んでいるの)かな?」
の略である。私も人のことは言えないが、非常に大胆なカットが施されている。
こういうとき私たちは、互いの表情・声のトーン・時間帯・昨日までの会話──様々な情報を加味して、ガリレオの音楽を脳内で響かせる。結果、うっかり会話が成立してしまうのだ。
同居人とは10代の頃にGACKTのイベントで出会って、17年前から一緒に暮らしている。
かつて私は「他人と暮らせる訳がない~」と息巻いていた人間だった。それがどういう訳か同ジャンルのオタク、女ふたり暮らし。
さて、彼女を同居人と呼び続けるのは、なんだか味気ない気がするし寂しい。なので、ここからは同居人のことを「たーちゃん」と呼ばせていただこうと思う。
彼女がやたら伊能忠敬を尊敬しているので「ただたか」から拝借した。(当時55歳という年齢で日本一周して地図を書き上げたという功績が最高に痺れる!とのことである。)
GACKT VS 膝
先日、GACKTのライブBlu-rayを購入した。特典に40ページのフォトブックレットが付いた限定版だ。たーちゃんが、先にブックレットを開き、
「ぬゃッ!」
だかなんだか厳密には仮名で書けないような声をあげて、床に転がった。もはや言語情報ゼロである。彼女は倒れ込んだまま、うっすら微笑みながら私に向かってブックレットを差し出す。私はそれを受け取って片目をつぶり、恐る恐るページをめくった。
「ひにぁ!」
世界観と美しさに殴られた。とても一気には見られなかったので、たーちゃんと1ページごとに交換しながら見た。もし、ひとりで鑑賞していたなら、見終わる頃には二足歩行もままならなかったかもしれない。たーちゃんがいてくれたお陰で、膝と命が助かった。
神様の言うとおり
コンロの上の小さな電球が切れた。次に出掛けたときに買いに行こうと言っておいて、ふたりして毎回忘れる。「かくなる上は楽天市場の5と0のつく日に買おう」と宣言するが、いざその日になるとやっぱりふたりして忘れている。
もともと「大雑把な私」と「几帳面なたーちゃん」という性格の違いがあるのだが、こういう無くてもそこまで困らないものに関しては、両者ともに脳がサボりを決め込む。
しかしある日、たーちゃんが天啓を受けたかのように「電球!」と叫び、その場で私が商品を注文した。この機を逃したら、次は半年後かもしれないと思った。
三ヶ月ほど薄暗がりで料理をしていたが、焼き目を勘で判断する生活にようやく終止符が打たれた。ヨドバシ.comの神様のお陰で、我々は文明の光を取り戻したのだ。
0がひとつ減る
私が「明日、スタバ行ってもいいかなあ」と言うと、たーちゃんは「一昨日も行ったよ、ちょっと行きすぎかも」と、現実的な金銭感覚で私の浪費をとめてくれる。
推しのライブツアーが決まり、私が「全日程申し込む?」と言うと「私もそう思ってた」と、オタク仕様の金銭感覚を発揮してくれるので、非常にありがたい。
人と言う字は
私はパンケーキを飲み物だと思っている。どんなにお腹いっぱいでも、パンケーキ用の別腹が搭載されているため吸引可能だ。一方たーちゃんは「お腹いっぱい…」とパンケーキを途中ギブアップすることが多い。私の三段重ねのパンケーキはいつも大抵四段になり、私は喜び勇んで食べている。
けれど、私は一人前のラーメンを食べきれたことがない。それでも食べたい。それも背脂が八月の海水浴場くらい密集している家系ラーメンがいい。ご飯ものだけにする、など健気な選択が私にはできない。
ここでたーちゃんが大活躍する。三枚目のパンケーキで弱音を吐いていた女とは思えない余裕の笑みで私のラーメン鉢を受け取り、麺を啜る。
いつもお互いの腹具合を見越して注文するので、どちらかに食べきれないものがあっても最終的にはお皿は空っぽになる。
私たちはパンケーキと家系ラーメンでバランスを取って、支え合いながら生きている。
ある時は推しの尊さにふたりしてスッ転がったり、PMSにやられてお互い苛立ったり、ごめんねをしたりしながら毎日を過ごしている。
よく「これから先どうするの?」というようなことを聞かれるが、きっと私たちはこれからも変わらず一緒に暮らしていく。
現状、それ以外の答えは見つかっていない。
ふと見ると、たーちゃんがソファに腹這いになり「1ゲトーーーズザーーー」といにしえのコピペの真似をしていた。おもしれー女である。
