見出し画像

「見える」女子高生たちの非日常的な日常 第3話 祓わない霊

【今回はその昔別のところで書いていた創作の物語の続きです】

「あなた、もう大丈夫ですよ」

そんな風に、彼は少し得意げな顔で言った。

そのとき私は、彼がしきりに私の首筋や肩のあたりを見ていることに、ちゃんと気づいていた。きっと「見えて」いたのだろうと思い、特に気にもせず放っておいたのだけど
「彼はわきまえている」と思っていたのでまさかそんな台詞が飛び出すとは思わなかった。

「悪霊が憑いていましたので、祓っておきました。……なんで気がつかなかったんですか? 式守の跡取り娘ともあろうものが」

彼は、やりきったような顔で言う。

私はため息をひとつ、静かに吐いた。

「うん、ありがとう。……でもね、彼は確かに……見た目も雰囲気もやってきたことも“悪霊”かもしれないけど、別に悪いことをしようとしてそうなったわけじゃないんだ」

もともと胸もないし重くもない肩がさらに軽くなった。
私は、首を軽くまわしながら続ける。

「現代の人間の“善悪”ってやつが、よく分からないみたいでさ。本人は良かれと思ってやってることでも、いつも失敗して、あちこちで追われて……で、たまたま通りがかった私に頼ってきた。『しばらく匿って、いろいろ見せてほしい』って」

それで、私は放っておいたのだ。

幸い、私にも周囲にも危害はなかったし、あと数日もすれば禊(みそぎ)が終わって、どこか空きの祠にでも納まってもらおうかと思っていたところだった。

「今までのことは誤解と言えども、これからは償いとして人の助けになりたい」
その言葉は本当だと思ったから。

それを聞いた彼は、少しバツが悪そうな顔をして謝ってきた。

でも、私はもうあまり気にしていなかった。悪意があるにせよ、ないにせよ、
見える人からすれば、彼は確かに「祓うべき存在」に見えたのだろう。

親友の斎宮さんは、初めて見たときすごく怖がってたもんね、私は感じたり聞こえたり、においは分かるけど視覚的には霊的なものはあまりよく見えないから怖くは感じなかったけど。
ここで祓われたというのも、彼にとっては一つの決着だったのかもしれない。

「まあ、何にしても心配してくれてありがとう。でも今度からは、祓う前にちゃんと事情を聞いてくれると助かるな。人にも、憑いてる側にもさ」

最近、本当にこういう“辻ヒーラー”というか、“スピリチュアル辻斬り”みたいな人が多くて困る。

仕事でもないのに、ふらっと来て「あなた、何か憑いてますよ」「今、軽く祓っておきましたから」なんて……。

ありがたいっちゃありがたいけど、そういうのって、大抵何かしらの意味や事情があるものなんだよね。

私は仕事のお祓いの案件が来ても、10回に9回は「不要ですよ」って断ることの方が多い、何にも憑いてなかったり、別に悪いものじゃなかったり、上から物がやたら落ちてくるとかあってもそういうのを注意を向けさせて避けさせてくれるよい霊だったり、しばらくしたら危害も加えず離れていく霊だったり、いろんな理由はあるんだけど。

だから、できれば見て見ぬふりをして避けていただきたい。無闇に手を出しても、誰のためにもならないことのほうが多いのだ。

それに――

「だってさ、それ、霊的存在にも失礼だし、こっちにとっても……お金にならないんだよ?」

数日後、彼は帰ってきた……
「なんだよ、あいつの祓い、思ったより大したことないじゃんか」

私は肩をすくめて、今日もため息まじりに“非日常”をやり過ごす。

つづく

【物語の背景】
架空の千葉県、物理的物語世界では南房総の、賀茂川(鴨川市)、勝占(勝浦市)、夷隅(いすみ)、がほど近い場所。()内は実在の地名
かつて朝廷で神官として仕えたものの中臣氏や土御門氏の台頭により中央政界より姿を消した忌部氏の子孫が隠れ住んだ里を発祥とする四方木村(よもぎむら)という非実在の架空の集落を舞台とする。

忌部氏は、数々の神事や祭祀のほかに大麻栽培や綿花栽培を日本中に伝えた一族であり、特に南房総の先端にある国「安房(あわ)」と現在の徳島の旧国名である「阿波(あわ)」が同じ名前であるように、阿波から黒潮に乗って移住してきた一族である、その祖霊は賀茂川の安房神社や勝占の富咲神社などで祭られている。

今も四方木村では国の管理と許可のもと神事用・医療用(一部繊維として)の大麻栽培がおこなわれている

主人公(式守さん)とその親友(斎宮さん)は同じ学校に通っている女子高生。斎宮さんはいろいろなものを引き寄せてしまう体質のため、式守さんは都度都度面倒を見たり、同じ山のふもとの高校で起きた霊的呪的な事件に「仕事でもないのに(お金にならないのに)」と嘆きつつも巻き込まれる体質である。

式守は村の中にいくつかある有力な祭祀をつかさどる家の一つ
他に「卜部家」「木村家」など8つの家柄があり、微妙なバランスを保っているが、この山奥の村は古代日本からの秘祭や習俗、記紀神話とはまた別の日本神話体系を多く残しているばかりではなく、古くより綿花と大麻栽培の里であり、かつて中央から追われた歴史からか、平氏の落人、迫害された鎌倉時代のお坊さんなど多くの訳ありの人物を温かく受け入れてきた集落でもある。

本来なら限界集落になりそうなこの里が連綿と続く理由こそが、神事に必需であるために許可された(戦時中は軍需物資でもあった)大麻の栽培であり、同時にそれゆえに危険視問題視されることも多い村でもある。(定期的に厚生省のマトリが監査的に訪れたりもする)

当然ながら、村人のほとんどは有力な過去の神職の子孫ということもあり、何らかの異能者であり、身内には隠していないが対外的には隠していることが多い、これもまた問題で、そういう人物が多くそろっているせいで、観光地でもないのに村の中の祠や滝が配信者に「房総半島最強心霊スポット」として扱われたり、スピリチュアル信者に「房総半島で最も神聖な山のすぐ裏に隠された滝と祠のある神聖な集落」と紹介されたり、割と(苦笑い的な意味で)地元民には困られている。

が、村民的にも国家機関的にもあまり表に出てほしくない村であるため、極力情報が出回らないように腐心されている村でもある。

【キャラクター紹介】

主人公の式守さんは術師としての力は強いし気配は分かるが「霊的なものが目で見えることはない」し「何らかの存在に取りつかれることもない」程度には強い。胸はない。男女とか言われたりもするが、クラスの隣の席の男の子は実は熱狂的な隠れファンだったりする。
村の同年代の「次世代を担う家の後継者たち」からはとにかくライバル視されていたり、親の世代からは「胸は小さいがぜひうちの息子の嫁に」「胸が無いですけどいいんですかうちの娘で?」などのとても失礼で高度に政治的な会話がなされている。

斎宮さんは、代々巫女など神に仕える存在を生み出す家系。あまりにも霊的な存在から「おいしそう」に見えるらしく「世が世なら最高の人柱だねえ」と式守さんに良くからかわれるが、式守さん自身が斎宮さんを「おいしそうなので機会があれば食べたい」と深層心理的には思っているほど霊的(+性的?)な魅力が強いため「食べてしまう夢」を見たりして朝気まずくなることがあるほど。
霊的な力はほどほどだがいろいろなものが解像度高く深く、そしてその背景まで見えてしまう「目」を持っている、のと、依童ともいわれる強い霊媒体質が問題であり、式守さんに守られつつも逆に言うと式守さん的には便利に使われることもある(見てもらったり、神仏をおろす器になってもらったりなど)。髪の長い美人さんで、胸も式守さんの真逆サイズである。

【前回までのあらすじ】
第一話「その四辻のこと」
斎宮さんはクラスメイト達の「とある交差点に行くと子猫の声が必ず聞こえるが、子猫の姿を探しても見つからない」という噂を聞き式守さんとお弁当を食べていると、式守さんは心当たりがあるようで「あー」と答え、「じゃあ放課後行くか?」という、そこには交通事故で車に轢かれた子猫の霊がずっと鳴いていて、排水溝で亡骸になったまま放置された子猫の死骸を、式守さんは弔って埋めたのだった、「放っておくと多くの交通事故を引き寄せるような悪霊になってたかもしれない」
すると、少し遠くの物置から母ねこらしき猫がじっと見つめて、式守さんたちにお辞儀をしたようだった、そして去って行った
以来、そこで子猫の鳴き声が聞こえることは無くなった

第二話「必ず当てる占い」
斎宮さんは最近同学年で話題の「必ず占いが当たる」という隣のクラスの女の子の噂を聞く、式守さんは聞くなり必ず当たる占いという概念には「いくつかのよろしくない心当たり」があり「あー、絶対関わり合いになりたくねー!」というが、成り行き上結局関わってしまう、彼女の占いが必ず当たる理由は何か?
その謎と辛かった運命を認めて癒しつつも、結果的にその娘は式守さんにとても懐いてしまう。
斎宮さん的には「なんか仲のいいお友達が増えた気がするけど、妙に納得いかないもやもやする」気分になって終わる。

いいなと思ったら応援しよう!