わたしはみんなのジュースやさん
先日、妻が体調を崩して、会社を早退した。
ベッドで少しぼんやりしている妻の横で、
娘と一緒に、妻のお気に入りのバナナスムージーを作った。
バナナと牛乳とヨーグルトを入れてジューサーで混ぜる。
娘はジューサーが回る「ガガガッ」という大きな音にびっくりしながらも、小さな指で何度もボタンを押す。
ゆっくりとコップに注いで、こぼさないように注意しながら妻に手渡す。
妻はゆっくり歩く娘を見守りながら、「ありがとう」と笑った。
バナナジュースを飲んで喜ぶ妻を見た娘は、胸を張って、「わたしはみんなのジュースやさん♪」と歌いながら、くるくると踊っていた。
娘は甘い飲み物があまり好きではないので、飲むのは妻と私だけだ。
自分が飲むわけでもないのに、誰かのために作って、喜んだ顔を見て笑っている。
その様子を見て、なんだかこちらも嬉しくなった。妻も、娘の踊りを見ながら「元気になれそう」と小さく笑っていた。
アメリカに来てから、我が家ではお菓子作りやパン作りなど、色々なものを一緒に手作りするようになった。
主夫になる前は、お菓子作りなんてほとんどやったことがなかった。
きっかけは、ただ時間があったからだと思う。
それに、アメリカの家には大きなオーブンがあるからかもしれない。
主夫になって日中は子どもと一緒に過ごす時間が増えたが、冬は寒くて、気軽に出かけられる日ばかりではない。
自然と家で過ごす時間が増えて、一緒に何かを作って食べるようになった。
何を作るかを一緒に考えて、
材料を買いに行って、
一緒に混ぜて、焼いて、食べる。
子どもと一緒にやると、思ったよりも時間がかかる。
でも、その時間がとても楽しい。
『バムとケロのおおそうじ』に出てきたドーナツを作ろうか、
生地から手作りして好きな具をたくさん乗せたピザを焼こうか、
バナナが余っているからバナナパンにしようか、
そんなふうに話している時間も、
スーパーで材料を探している時間も、
全部ひっくるめて、ひとつの遊びみたいになっている。
妻の誕生日には、妻に内緒でマンゴーレアチーズを作った。
娘と一緒に美味しそうなマンゴーを求めて、スーパーを5軒も探し回った。
小さな手で一生懸命にクッキーをつぶして、生地を混ぜ、余ったマンゴーをつまみ食いして、「これが一番おいしいよね」と二人で笑いあう。
冷蔵庫にケーキを入れて固めている間、
「ケーキと一緒にお休みしようか」と言いながら、布団でうとうとお昼寝をした。
目が覚めると、「もうケーキ見ていいかなぁ...」と半分寝ぼけたような声で聞いてくる。
そんなことをして気がつくともう夕方になっていた。お外を少しだけ散歩する。
不意に娘が歌う、英語と日本語が入り混じったメロディーが好きだ。
家に戻って一息ついていると、ちょうど妻が仕事から帰ってきた。
娘が「ママのケーキ作ったよ!」と駆け寄ると、妻は驚いたように目を見開いて、すぐにやわらかい笑顔になった。
仕上げに、娘がロウソクを3本飾る。
なぜかケーキの右側ばかりに立てられたろうそくを見て、みんなで笑う。
こんなふうに何事もなく過ぎる時間が、一番楽しいのかもしれない。
次は、娘に内緒でクッキーでも焼いてびっくりさせてみようかな。
いや、やっぱり一緒に作ったほうが楽しいか。
