10ドルのショッピングカートは高すぎる
妻のアメリカ赴任に3歳の娘と一緒に帯同し、主夫になりもうすぐ1年が経つ。
日本とアメリカでは違うことばかりだ。
初めましての人もみんな友達みたいに話しかけてくれる。
ピザはビックすぎて半分食べるのも精一杯。
チップは何%を選べばよいか悩んでしまう。
でも、どちらが良い悪いではなく、文化の違い。
こんな異文化を体験するのも楽しい。
だけど、一つだけどうしても許せないことがある。
それは、ショッピングモールにあるキャラクターカート。
これが10ドルもする。高すぎる、さすがに。
イオンなら無料で乗り放題だ。
文化の違いで済ませる話ではないだろう。
これは搾取だ!
娘は当然乗りたがるが、家計を守る主夫として断固戦わなければならない。
ショッピングモールに行くたび、娘は遠くからじっとカートを見つめているが、世の中にはしょうがないこともある。
ある日曜日の夕方。
急な買い物で、一人でそのショッピングモールを歩いていた。
すると、長いコンコースの向こう側から、一組の家族が向かってくる。
パパとママ、そして10ドルカートに笑顔で乗る3歳くらいの男の子。
パパはAuntie Anne'sのプレッツェルを頬張りながら、ハンドルを夢中で回す男の子を見て、豪快に笑っている。
ママはそんな2人の写真をスマホで撮っている。
3人とも、この上なく幸せそうな、絵に描いたような休日の家族の姿だった。
その光景を見た僕は、その場に立ち尽くす。
脳裏に浮かんだのは、カートを遠目でじっと見つめていた娘の横顔だった。
その日の夜、夕食を食べながら娘に切り出す。
「ショッピングモールのカート乗りたい?」
「のりたい!!」
「じゃあ保育園で、おむつじゃなくてパンツを履けたら、今度の日曜日に乗ろうか」
それからの娘の集中力はすごかった。
次の日には目標を達成し、約束の日曜日。
いつもは素通りするカード置き場に向き合う。
喜んで搾取されてやろうじゃないか。
クレジットカードをかざし、ガチャンと重々しい音を立ててチェーンが外れる。
その日一日、娘のテンションは最高潮だった。
どこに行くにもカートに乗り、景色が変わるのを全身で楽しんでいる。
僕は娘のハンドル捌きに合わせてカートを動かす。
気が付くと、娘の大好きなクレーンゲームがあるゲームセンターに誘導されていた。
やられた。完敗だ。
お金ばかりに囚われていると、目の前にある大切なものを取りこぼしてしまうのかもしれない。
でも、何でも買い与えれば良いわけじゃないから難しい。
今回はトイトレのご褒美という形にしたけれど、それが正解だったのかも分からない。
すると、僕の迷いを察したのか、娘がカートを降りる時に言った。
「パパ、楽しかったね。今度また特別な日に乗ろうね!」
何て優しい子に育ったのだろう。
何が正解なのかいつまで経っても分からないが、毎日を楽しく過ごしていこう。

