中国不動産バブルが相場を動かさない本当の理由 ——《第1部》見えない爆弾の話
💣 プロローグ
中国のどこかの都市で、建設途中のまま放棄された高層ビルが群をなして立ち並んでいる。
草が生え、鉄骨が錆び、人の気配がない。
そんな映像を見たことがある人は多いはずだ。
不動産バブルは明らかに弾けた。
なのに世界の株式市場は、債券市場は、為替市場は、なぜ何事もなかったように動いているのか??
普通に考えておかしくないだろうか。
先に一つだけ数字を置いておく。
リーマンショックの損失は約200〜300兆円だった。
世界経済をあれだけ揺さぶった数字だ。
では中国の地方政府融資平台、LGFVが抱える隠れ債務はいくらか?
広義の推計で最大なんと2000兆円規模!?とされている。
リーマンの7倍から10倍だ!
この数字が今、表に出ていない。
相場に織り込まれていない。

廃墟のビルが立ち並んでいるのに、世界は何事もなかったように動いている。
なぜか?
それをこれから解明する。
💣 損失は消えたのではなく、隠された
🔑 結論から言う。
相場が動かないのは、問題がないからではない。
問題が見えないように設計されているからだ。
通常の市場経済なら、悪材料が可視化されれば価格に反映される。
企業が倒産すれば株価が下がり、不動産が暴落すれば銀行の不良債権が表面化し、投資家が損失を被る。
痛みを通じて市場が浄化される。
これが資本主義の正常な新陳代謝だ。
中国ではその回路が、意図的に遮断されていた!
三つの層で。
🔑 第一層は情報統制だ。
不動産市場の実態を報じるメディアは封じられる。
若者の失業率が21%を超えた時点で、中国当局は統計の発表を停止した。
不都合な数字は、存在しないことにされる。
🔑 第二層は価格発見機能の喪失だ。
中国の株式市場には機能する空売りメカニズムがない。
相場が下落すれば国家隊と呼ばれる政府系ファンドが買い支え、暴落を許さない。
価格が経済の実態を映す鏡ではなく、政治的安定を維持するための道具になっている。
🔑 第三層が最も巧妙で、暗黙の国家保証だ。
ここを理解するには、シャドーバンキングという仕組みを知る必要がある。
💣 シャドーバンキングとは何だったのか
中国政府はかつて、不動産バブルの過熱を抑えるために銀行から不動産会社への直接融資を規制した。
🔑 ところが規制が抜け道を生んだ。
銀行は信託会社や証券会社を間に挟み、「理財商品」という高利回りの資産運用商品を設計した。
個人投資家が「預金より利回りがいい」と飛びつく。
集まった資金は迂回路を通じて不動産会社や地方政府へ流れる。
銀行の帳簿には載らない。
規制をかいくぐって、融資枠を事実上無限に拡大する仕組みだ。
これがシャドーバンキング、影の銀行システムの正体だ。
銀行には手数料収入が入る。
不動産会社には資金が入る。
個人投資家には高利回りが入る。
三者全員に短期的なメリットがあった。
誰も止めなかった。
程よい量なら機能する仕組みが、臨界点を超えるまで加熱し続けた。


💣 「あら不思議!?」のメカニズム
2021年、中国最大の不動産開発業者・恒大集団が経営危機に陥った。
負債総額は約50兆円。
理財商品を通じて資金を流し込んでいた個人投資家たちは、大損するはずだった。
🔑 ところが口座を確認すると、元本が戻ってきている。
「あら不思議!?」だw
🔑 国家が損失を肩代わりしたからだ。
国有銀行が穴を埋め、地方政府の融資平台(LGFV)に債務を移し替え、人民銀行が流動性を供給した。
表向きは何事もなかったように見える。
だが重要なのは損失は消えたわけではない。
形を変えて転移しただけだ。
その転移先の規模が、桁外れだ。
LGFVが抱える債務残高は、広義の推計で最大2000兆円規模に達するとされている。
リーマンショックの損失が約200〜300兆円だった。
その7倍から10倍の数字が、中国という主権国家の貸借対照表の中に、静かに眠っている。
リーマンは民間金融機関の連鎖破綻だった。
FRBもIMFも介入できた。だが主権国家の貸借対照表に埋まった損失に、外部から介入できる機関は存在しない。

💣 痛みを感じなかった者は、学習しない
この「あら不思議!?」には深刻な副作用がある。
痛みを感じなかった投資家は、リスクを学習しない。
だからまた同じ商品を買う。
国家はまた損失を肩代わりする。
🔑 モラルハザードの永久機関が回り続ける。
そして国家が抱えた損失は、別の形で国民全体に転嫁される。
給料は変わっていない。
口座残高も変わっていない。
でも実質的な購買力は下がっている。
インフレ税、通貨希薄化税とでも呼ぶべき、見えない収奪だ。
豊かになった気がしないから消費しない。
消費しないからデフレになる。
デフレになるから企業が投資しない。
習近平がどれだけ「消費拡大」と叫んでも内需が死んだまま動かない本当の理由が、ここにある。
廃墟のビルが立ち並んでいるのに相場が平然としている。
その異常な光景の正体は、損失の隠蔽と転移のシステムだった。
では、その損失はいつ、どんな形で表に出るのか、誰にもわからない。
第2部では、中国シャドーバンキングとそっくりな構造を持つ、もう一つの時限爆弾を解剖する。プライベートクレジットファンド、その設計思想の危うさについて。
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参考文献
本稿の論拠となる主要なデータや概念のソースを整理したものとしてご活用ください。
中国の債務とLGFV(地方政府融資平台)に関する分析: IMF(国際通貨基金)およびBIS(国際決済銀行)による中国の隠れ債務推計報告書、ならびに各経済シンクタンクによる最新の経済動向調査。
シャドーバンキングの構造: 中国人民銀行(PBoC)および国家金融監督管理総局(NFRA)が公表する金融規制関連資料、および不動産市場のデレバレッジ政策に関する当局の発表。
比較経済理論: リーマンショック時の金融システム崩壊プロセスと、現在の中国経済の流動性供給メカニズムとの対比に関する経済学的な知見。
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