【読解:人と空間】なぜ人は、壁に向かってスマホをいじるのか?「半径10cmの避難所」#001
駅の脇で、なぜか壁に向かってスマホを見ている人。
よく考えると、ちょっと不思議だ。背中を壁につけるならまだわかる。でも、わざわざ壁のほうを向く。しかも、そういう人って意外と多い。

登場人物
西倉:建築士・リサーチャー
湯汲:経営コンサルタント
谷口:OAOのスタッフ
この場所はどんな場所?
今回の事例は、品川駅前の人通りが多い通路脇にある、少し奥まった小さな空間だ。
もともとは短いスロープの入口ですが、存在感が薄く、通行者には「通路の一部」よりも“使い道のよくわからないへこみ”のように見える。
今回は、この曖昧な余白が、なぜ人の立ち止まる場所になっているのかを見ていく。
以下、対談本編。
これは「無駄なへこみ」なのか
西倉:最初に面白かったのは、みんな通路の本線じゃなくて、この少しへこんだ場所に吸い寄せられていたことです。立ち止まってスマホを見る人が、かなりいたんですよ。
湯汲:でもそれ、そもそも何のスペースなんですか。休憩場所には全然見えないですよね。
西倉:もともとはスロープの入口です。ただ、目立たない。だから通路の一部として強く読まれていないんだと思います。
湯汲:なるほど。
……でも、ぱっと見でわからないスロープって、普通に設計としてダメじゃないですか?
西倉:そこが単純じゃないんです。必要な人が見つけられれば機能する、という考え方もある。
しかも、目立たないからこそ、不特定多数がどんどん入り込まない。結果として、ちょっと立ち止まれる余白が残っているとも言えます。
谷口:それ、面白いですね。
本来は“通過のための場所”なのに、実際には“ちょっと逃げ込む場所”として使われてる。
西倉:そうなんです。意図された主用途とは少しズレているんだけど、そのズレがむしろ効いている。
補足:こういう屋外空間は、建物本体より大きいスケールで設計されることがあります。
そのぶん用途が一義的に固定されにくく、意図せぬ「余白」が生まれやすい。今回のへこみも、まさにそうした余白の一つでした。
なぜ人は通路側ではなく「壁側」を向くのか
谷口:僕がいちばん引っかかったのはそこでした。みんな通路側じゃなくて、壁とか植栽のほうを向いてるんですよね。直感だと逆じゃないですか。
湯汲:わかる。
背中を壁につけるならまだわかるけど、顔を壁に向けるのはちょっと変なんですよね。
西倉:でも、あれはかなり本質的だと思います。
たぶん人は、壁そのものに守られたいというより、手元の周りに小さな私的空間をつくりたいんです。
谷口:小さな私的空間?
西倉:はい。スマホの周り半径10cmくらいが守れれば、人ってかなり落ち着けるんですよ。
そのために、へこみ、植栽、自分の身体、この3つを使って即席のシェルターをつくっているように見えます。
湯汲:あー、なるほど。
壁を見てるんじゃなくて、“手元の砦”を守ってるのか。
西倉:そうです。
しかも面白いのは、身体そのものまで壁として使っていることです。自分の背中側で人流を受けて、正面側に小さなプライベート空間を確保している。
谷口:それ、めちゃくちゃ腑に落ちますね。
“広い居場所”が欲しいんじゃなくて、“スマホのまわりだけ静かならいい”ってことか。
西倉:かなりそうだと思います。
だからこの場所は、広場ほど開いていないし、個室ほど閉じてもいない。その中途半端さがちょうどいいんです。
スロープ脇の余白は、なぜ居場所になったのか
谷口:つまりここって、「完全に隠れたい」じゃなくて「ちょっとだけ外れたい」にぴったりなんですね。
西倉:その通りです。電車が着いて人波が増えるたびに、少しだけ本流から外れられる場所が必要になる。
しかもここは、視界はそこそこ開いているのに、巻き込まれにくい。そのバランスがすごくいい。
湯汲:面白いな。
目的のわからないへこみが、都市の避難所になってるわけだ。
西倉:しかも、大げさじゃないのが重要です。座るほどでもないし、長居するほどでもない。
でも数分だけ身を置くにはちょうどいい。都市って、そういう“ちょうどよさ”がすごく効くんですよ。
谷口:たしかに、ちゃんと休む場所じゃないからこそ、逆に使いやすい感じもありますね。
西倉:ええ。
「休憩してください」と明示された場所より、こういう曖昧な余白のほうが、自分の都合で入り込みやすいことがあるんです。
この事例から見えてくること
この場所が教えてくれるのは、人は広い場所を求めているのではなく、「少しだけ守られる条件」を探しているということです。
大きな広場より、少しへこんだ場所。
完全な個室より、半分ひらいた避難所。
そして、そこで守りたいのは身体全体ではなく、まず手元の小さな世界。
街で壁に向かってスマホを見ている人を見かけたら、次はその人自身よりも、その人をそうさせている数十センチの空間を見てみてください。
「あの人、なんであそこにいるんだろう」ではなく、
「この空間、どうやってあの行動を引き出してるんだろう」と見始めると、街はかなり違って見えてきます。
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本記事のような、人のふるまいや、建築・都市空間の観察に興味のある方は下記ポストの詳細をご覧ください。
https://x.com/MinoryArts/status/2086370417074389159?s=20
【OAOフィールドワーク2026夏in京都】
— 西倉美祝 MinoryNISHIKURA / MACAP+OAO (@MinoryArts) August 9, 2026
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※春のフィールドワークについては、次のポストのオンライン記事などをご参照ください。
京都のオーバーツーリズムを題材として、… pic.twitter.com/2zwANQNbDG
