【創作コント】 これは俺が幼い頃に父が蒸発した時の話...
あるところに、お肌のうるおいを守る「グリセリン」という名前の小さな子どもがいました。
グリセリンはちょっぴり恥ずかしがり屋で、体が重く、いつも地面にじっとしています。
そんなグリセリンの手を引いて、いつも引っ張ってくれていたのが、父親の「エタノール」でした。
お父さんはいつもサラサラしていて、おまけにちょっぴりお酒の匂いがします。
「さあ、いくぞ!お肌をキレイにする任務だ!」
お父さんはグリセリンの手をギュッと握り、2人はシュッと勢いよく、乾燥した人間の手のひらに飛び降りました。
「わあ、ひろいね、おとうさん!」
グリセリンがまわりを見渡した、そのときです。
ふっと、あたたかい風が吹きました。それは人間の手のひらが持つ、じんわりとした体温でした。
「お、おい、グリセリン……!」
お父さんの声が急に遠くなりました。つないでいたはずの手の感覚が、みるみるうちに薄くなっていきます。
「おとうさん? てが……はなれちゃうよ!」
「すまない、グリセリン! 俺たちの宿命なんだ……!」
エタノールは、熱が加わるとすぐに気体になってしまう揮発性の塊。
人間の体温に触れた瞬間、お父さんの体はシュワシュワと透明な気体に変わり、空へと浮かび上がってしまったのです。
「おとうさーーーん!!」
手のひらには、お父さんが消えたときのスーッとした冷たい感触だけが残されていました。
あんなに頼もしかったお父さんは、もうどこにも見当たりません。
ひとりぼっちになったグリセリンは、手のひらの上でポツンと立ち尽くし、涙をこらえました。
でも、ふとまわりを見ると、カサカサに荒れた皮膚のすき間から、たくさんの水分たちが「助けて……干からびちゃう……」と泣いていました。
グリセリンは、お父さんがいつも言っていた言葉を思い出します。
『お前は、水分をつかまえて離さない、優しい力を持っているんだ』
「おとうさん……ぼく、がんばるよ」
グリセリンは涙をぬぐうと、たくさんの「-OH」という小さな手をいっぱいに広げました。
逃げようとする水分をやさしく抱きしめ、乾いたお肌の中へ「ここにいていいよ」と語りかけます。
水分たちは安心したようにグリセリンのそばへ集まり、お肌は少しずつ、しっとりとうるおいを取り戻しました。
空の上では、気体になって風に乗ったお父さんが、静かに微笑んでいました。
「立派になったな、グリセリン」
.........
「父さんはあの時姿を消しても、俺のことを誇りに思ってくれていたのだろうか...」
