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俺のグルメブログ修行~おにく 花柳~

「ホオズキって食えんの!?まじっすか!?」
「かってぇえ!食える所だと思ったらこれ、皿の上の皿?」

コース料理に対しては、この程度の経験値。
それが私。それが俺。

三十を過ぎた俺はこっから経験値をジャビンジャビン溜めて、記事をBANG BANG書いてゆこうと思う。そんな決意と手汗とPAY PAYカードを握り締めて、記念すべき第一回。


はい、ばん!



おにく 花柳


↑ミシュラン一つ星。

星がどーのこーのって、タイヤメーカーに何がわかんのよ。
などと思う方もいらっしゃるのかもしれない。私もその一人であった。この日までは。


店に入り、先ず私は何を思ったか。感じたか。


「おにく」きゃわあああ.🥰🥰🥰


そう感じた。

平仮名がかわいい。

そう思った。

なるほどねえ。

平仮名かわいい✅


妻と私は口裏を合わせ、外套を預け、オープンキッチンのカウンター席に着席。

オープンキッチンに飽和する和敬清寂が私をどこまでも小物に感じさせる。まるで虫ケラ。これは「静寂」の仕業だ。
すると、「和」「敬」あたりだろうか、スタッフの手厚い歓迎が私達を主役として受け入れてくれる。
気づけば虫ケラのまま主人公。なんだこれ。バグズ・ライフじゃん。


いや、バグズ・ライフではないよ……
滑ってんじゃん……
そんな事を考えていると


「いらっしゃいませ」


スー・シェフ(というのだろうか?シェフの右腕っぽい人)が先ずは挨拶。

数秒後、満を持してテレビで「合格」「不合格」をやっているあのシェフ:片柳シェフが登場。


HPより。


挨拶、メニュー紹介、食べれないもん有るか無いか問診が手慣れた感じで進む。スムースな段取り。決まった動線。場数が違う。私は気付く。


あゝ、手練れだ。


あーはいはい。いつものこれか🍸
私はこーやって流れに身を任せて、なんとなく空いている隙間を埋めるの🚬
いいや、隙間から目を背けているだけ……か💄


なーんて私の中にいる御姉さんが、シェフの手練れっぷりによって覚醒したかというと、そんな事は全然ない。

私はただ、このシェフの落ち着きと丁寧と自信が織りなすアトモフフィアの虜になっていた。

シェフは今宵振る舞う牛のブロックを未調理のまま披露してくれる。
「御写真どうぞ」と。


とは言え私も物書きの端くれ。一々写真を上げて終わらせていればいい所、文を当てはめ脈絡を作ってこそ、文脈で体験を共有してこその物書きってもんで、だいたいこの——




はい、どん!!


シェフは↑の塊肉を串に刺して「それ意味あんの?」ってぐらい炎からめっちゃ遠いハンガーに掛ける。
(徐々に火を通す低温調理的なヤツだと思う)

コース中盤には、こんなにも火が通っていた


シェフは続けて、その他の肉を温度管理しながら解体。いい感じに包丁を入れながら、何肉を何分冷蔵して、どこでどうどれくらい火を入れるか、職人の回路で演算している様子。

しかしこの丁寧さ、この自信、この笑顔、どこかで知っている。

そう!片柳シェフの丁寧と自信、オモテナシが想起させるのは、高校時代のバレンタインデーだ。


「ミゾッチは絶対甘い方がいいよね」
「ビターとか知らないでしょ」
「童貞だもんね〜❤️」

「お前絶対チョコくれんじゃん」
初めて確信させてくれたあの子のツンデレ問診だ……


否!シェフはそれ以上に丁寧で、自信に溢れていた。


そしてなにより、私にはそんな高校時代の思い出、全くなかった。


そう。ただの妄想。


気付けばカウンターは予約した全員で埋まっていた。


わたくし、どうやらいい歳こいてフォーマルな御食事で、御妄想をこじらせてしまっていた。
てへへ。

——恥ず。こっちみんな。


いい所のリーマンおじさん二人が酒をトクトクやっていた。

その隣りの三人組は、何やら業界人が何やらの業界の英語話者をオモテナシとして連れて来たらしく、秘書の御姉さんもまた、英語が堪能な御様子で、御自宅がフランスだとかなんとか。ワインセラー(箱ではなく部屋)の設備管理の話をしている。

——なんだその会話🙄

そしてその隣りにはソロでやって来た英語話者。

——役者は揃ったか……
(私はなるべく格好をつける)

するとどうだろう、英語話者達に案内をするチャッキチャキな英語が聞こえてくるのだ。

「飲みもんはどういたっしょう」
「あいよ」「てやんでい」
「アレルギイは?」「合点承知」

日本語にしたらばこんな所。フランスだろうか?パツヨロの訛りが入っている気もするチャキチャキ英語なのだ。こんなイケメンな英語、どなた?

そこに立っていたのはスー・シェフ


そう。彼は、✨チャキチャキニキ✨だったのだ。




尊い体験であった。端的に伝え切るには私は未熟である。だから一つだけ。

皆様は、ロース肉を生で食べた事があるだろうか?

そう。あの、焼肉に行ったら絶対に注文する、ロース肉だ。

「これはね、ロースです。普通は生肉で食べたら脂っこくて気持ち悪い。この但馬玄タジマグロのロースは刺身で食べられるんですよ。本当にいい牛です。」

片柳シェフは自信満々でそう教えてくれた。


「え、ロースって、牛角でいつもたのむやつだよね?」

「うんうん。いつも焼くやつだよね?」


妻と目を合わせて困惑する。そこには、夫婦にしかできない超小声のやり取りがあった。食えるホオズキとはベクトルの違う困惑。

そして今度は握りだ。




皆様は回らない寿司に行った事があるだろうか?私はない。
握りは普通、きっと、テーブルの一段上の……この、一段上テーブル?……に置かれるのだと思う。写真では分かりずらいが、この時もそうであった。

で、だ。


「……このデカ皿丸ごと自分んテーブルに取んの?」

「それとも寿司だけ?」

妻と私の疑問は、一字一句、ため息と発汗と心拍数も含めて、完全に同期されていた。


「手、で?」


「箸、じゃね?」


私達がこれから共にする人生を、艱難辛苦を垣間見た気がする。
握る手汗は増え、出てくる言葉は減り、隙間と余白だけが増える。
これはもはや、ただの静寂。二人で体感する静寂は一人の時よりも長く、虚しい。

長い静寂の中で、色々考えた。そして私は天啓を得たのだ。
要するに、二人ならなんとかなるのかもしれない。そんな気がした。

つまりそーゆー事なんですね!片柳シェフ!チャキチャキニキ!
二人が頷いてくれている気がする。

「大丈夫。どんな食べ方だってマナー違反ではないさ」

「そうだよね。楽しもう!味わおう!」

私がデカ皿に箸を伸ばそうとしたその時……



「手で、一口でいってくだせえ」
という英語を察知。


え……

手なの……


……って、え、まさか!?


ばっ!
私は一段上テーブルの更に一段上を見上げる。

そこにいたのはそう!英語話者に丁寧に、そしてざっくりと寿司の食べ方とブランド牛:但馬玄を紹介する男!



チャーキーチャーキー😍😍😍




今日ほど英語が喋れる事を喜んだ日はない。妻に肘を打ち、
「手でいくんだってさ。一口で」as 静か as 囁き女将の囁き。
as soon as その囁き。すかさずに私は手で行く!バッと掴んで、人差し、中、薬の三本指でホイッと口に押し込ば、





手で行くんだってさーーー\(^_^)/






俺の手汗ってこんなにウマかったの?

まじ、骨んなるまで自分ん指吸いつくしてやろうかと思う。思います。
今日は帰ったら自分ん指舐めときます🙋‍♂️

宣誓しかけたその時、シェフはもう次の工程に進んでいた。
サッと奥厨房へ戻り、指示を出し、ササッと戻ってきてなにやら何かをこさえている。

ははあああああん。私は気付いた。


さてはこれ……



俺の指の味じゃないな。



シェフの腕前だわ。ここがゴールではないのだ。この柔らかさ、この硬さ、この……溶けさ?……
要するに!この口当たりをこの時間に提供するために、コースの始まりに肉を切り、放置したり陰に引っ込めたりしていたのだ。

俺は……凄いと思う。
凄い✅


いや、凄いどころではない——

しかし初対面のオジサンにこんな事思ったらダメだ!頭ではわかっている。理性はまだ……
ギリッギリ働いている……でも……


あゝ、もうだめだ。欲望が、俺の意志の弱さが言ってくる。
「でも、テレビに出ているオジサンだよ?」
「いーんじゃね?」と。


完敗。認めざるを得ない。私はこのオジサンに、思ってしまっておる。


いいからもっと握って欲しい💕


否!シェフの腕前、それだけではない。それは、肉の質、店の和敬清寂、オープンキッチンの……その、なんか……いい感じ。英語話者、チャキチャキニキ、私の囁き、囁かれる妻、全てが揃ったからこそ味わえた今、この時、この瞬間こその、モメンタリな美食体験だったのだ。

つまり粋な味覚レポなど、使用がないのだ。言うならば、

「これら上記の条件が揃った時の味」です。




その後も、「この肉ウマイ!」以外に言い方がわからない料理に次ぐ「この肉ウマイ!」料理。「ウマイ!」「やーらかい!」「もっと食いたい!」それしか言えないバカを露呈させてくるフルコースだったのだが、だってバカなんだからバレたって仕方がない。

はい。バカって事でいいです。バカを認めます。だからもっと下さい。シェフ!あの塊肉もう焼けてんじゃない?もう強火でいっちゃおう!

気付けば中腰で立ち上がって、私は半分カウンターに乗り出していた。

シュッ🫷……無言と職人の掌で私を律するチャキチャキニキ。

アッ🫢……そうだ!我を失っていた。

途端、店内の和敬清寂が、隣りのイケてるMr./Ms.が私に文明を教えてくれる。

私としたことが、舞い上がり、ヨダレを垂らし、マナーを捨ててただ「おにく」を求めるだけの肉奴隷に成り下がっていた。

ありがとうチャキチャキニキ。

頷き一つで席に戻すチャキニキ。

マナーが人を作るとはよく言ったものだ。

妻を見ると──やれやれ。 彼女はもう一線ラインを超えていた。

そして私もまた、すぐにその後を追うのであった。


糖質と幸福と少々のアルコールで夢見心地の我々を現実に引き戻してくれたのは花柳シェフの粋なジョークだった。

「御主人!魂が!」
夫婦揃ってハッ!と覚めれば、シェフは自信たっぷりの笑顔で続ける。
「御満足頂けましたか?」

そりゃあもう最高でした。
否。そんな言葉では足りない程に最高であった。


「もう、腹一杯になってって下さい。牛丼のオカワリもございます」


そんなシェフの自信と笑顔を前に、私は思うのだった。




やっぱり高校でバレンタイン貰ってねえわ。




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