初めて親知らず抜いてから初めてダンスバトル観戦行ってソウロウ
先日、DTM業界の友人からボカロダンスバトル観戦に招待された。
人生初のダンスバトル。まったく知らないボカロ。はじめましての業界の関係各位様のパーティー。行くしかないだろう!
しかしこの日私にはミッションがあった。「ヌく」というミッションが。何をヌくか。ヌくと言ってもシュシュシュっとやって三擦り程度でダー😩💦ドクドクドクッつって消チン。昔はもっとこう、ドッピューって感じだったよな。そんなふうになにかの衰えを鑑みたりするのは、この一発に費やした全てのリソースが無駄に思えて思えて仕方が無いから……
って、そのヌくとは関係がない。親知らずだ。親知らずをヌきます。
なんだって三十過ぎてから生えてくるのだろう。エロ倶楽部なの?デモなの?婚活サイトなの?こっちはもう良い大人よ。子育てしてる奴とか全然いるぜ。なんなら子供が大人の歯生えてる奴だっているぜ。いるんよ。よお先生、一体全体こりゃなんなんだよ。文句を言いながら歯科医師に口を開けば、
先生はえっへっへ「一日4本だってヌく人いるよ」
やっぱエロなんじゃねーか!
なんて冗談は、ヌく段になって言っていられなかった。
メキ!メキメキメキ!バキ!「やっぱりメス取って!」「はい先生」シャッ、シュパッ、バシッ!って抜歯。
音の割にぜーんぜん痛くないが、口の中にめっちゃ血が広がる。
ドッピューって感じで。血が、ドクドクドクドク。全盛期のドピュを余裕で超えてきた。
そこの下にそんなに血が溜まってたんですか?まじですか?これ止まるんですよね?疑問も一緒にドクドクドク。まるで噴火したマグマ。
マグマってディズニーシーでしか見た事ないけど。
センター・オブ・血・アー——「はい!とれたよ〜」
先生の声で私「え、もう終わり?」
正直な感想としては、意外とすぐでびっくりした。
あの日、あの子も確かにそう言っていた。
「——これ。大きいね。」
「立派だ。立派。」
そんな事は一度も言われた事がないなーなんて思って、「え!なんのはなしですか!」って起き上がって先生を見れば、
でっか!
え、俺の、デカ🫣
「綺麗に取れたよね。これ」
「持って帰るかい?」
「あ、ちょっとまってこれ噛んどいてね」
止血の綿を噛みながら俺は決めた。このデカイノ持ってこ。
男ってのは、何か一つデカイノを持っているだけで、何事への態度もなんかちょっとかわる。俺のマチズムがズムズムしていた。
ーーそれも、会場でダンスを観るまでの話。
バトルが始まれば、口を開けたまま、ただただ見惚れて、ポッケに隠したデカイノにたまにテノヒラ当てて確認してニコッとかして、ダンサーに拍手してーーそんな刹那の絶頂を越えてパーティーと私のマッチョタイムの絶頂はチルっていった。
決勝が終わり、フリーダンスタイムに突入すると、私はフロアの薄暗いライトの下で友人にデカイノを出した。見てほしかった。今やこの会場ではちっぽけになった、俺のデカイノを。
友人の感想は、「キモ」でも「バカじゃねーの」でもなく、「ふーん」だった。
あれから数日。血は止まり、穴と違和感だけが残った。食事の度に、絶対に2、3の米粒が穴を埋める様に詰まる。それを歯ブラシで掻き出す。
この違和感は私の口腔史上でも実に類稀だ。皿を貰うためのポイントのために割引シールついたイらん菓子パン咀嚼する先月までの私のそれよりも、不摂生で口内炎肥大させておいて激辛麻婆豆腐食うあなたのそれよりも、もっともっと大きくて、次元が違うもの。奥にできたこの空洞が、もどかしい。
もうじき31歳になる。まだまだ未経験のもどかしさが私にはあった。もっともっと空っぽを作る余地が私にはあった。一見の大きい小さいではなく、違和感や空洞の積み重ねを指標に生きていく事もできるのかもしれない。
さっき聞いた話では、あの友人は親知らずをヌいた事がないらしい。
ふーん。
ぽっかり空いた隙間を噛み締め、あの夜、ダンスフロアのライトの下にあった親知らずをもう一度見つめる。全然大きくない。
なんかちょっと、青く輝いている気がする。
