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春が来た

3月30日、ヨーロッパはサマータイムに切り替わった。春の鼓動が聞こえる。

小春日和。春一番。春爛漫。
日本には春の到来を喜ぶ言葉が沢山ある。
幼い頃から、一番好きな季節を聞かれたら春と答えてきた。桜が街を華やかに色付け、新生活を応援してくれる。新生活のスタートは、昨日までの悪事を勝手にリセットし、がんばるぞと前向きにさせてくれる。そんな春が、昔から大好き。
春が嫌いって言う人はどうせ花粉症。花粉症さえなければ、どう考えても春が一番素晴らしい。

そして、私の春好きはヨーロッパに来て桁違いなものとなった。
ヨーロッパの冬は日本の3倍地獄で、ヨーロッパの春夏は日本の5倍最高。つまり、日本で生まれ育ち、ヨーロッパの冬で地獄を見た私にとって、ヨーロッパの春は天国、楽園、桃源郷である。


私は2023年9月にヨーロッパに来た。
日本からの15時間のフライトは、緊張からか一睡もできなかった。18時頃、到着した私を部署の先輩が迎えに来てくれ、今からごはんに行こうと誘われた。

19時からテラスでご飯を食べた。雲一つない快晴で、外はまだ明るい。日本時間にして深夜1時。食欲は全くなかった。21時半(日本時間3時半)ごろ、眠気がピークになった。初対面でこれからお世話になる人たちなのに、だめだ、眠い。眠すぎる。早く帰りたい。と思いながらふと気づいた。外がまだ明るい・・・。何この国・・・。最高・・・。

「9月はもう下り坂だよ、冬はきついよ。1回目はまだいいけど、2回目の冬はまじでしんどいよ。」などと諸先輩方にマウントを取られつつ、夏の夜の外飲みに初日から魅了された。

その後、ほどなくして冬が来た。11月には雪が降っていた気がする。
ヨーロッパの冬は、『寒い・暗い・晴れない』の三拍子が揃っている。何よりも暗さ(日の短さ)には驚かされる。日の出は9時、日の入りは17時。冬の太陽は公務員である。

一回目の冬は、マウント先輩方のおかげで色々覚悟できていたので、あまり辛いとは感じなかった。それよりも、新生活へのワクワクが勝っていたのかもしれない。

2024年3月31日。サマータイムに切り替わった。春の訪れを意味する。
サマータイムに切り替わる直前の金曜日、欧州に6年以上住む上司が言っていた。「明日からサマータイムだ~!という今日が一番幸せ。サマータイムが始まると、終わりを考えてしまってもう病んでくる。」と。この人は重度の季節性サザエさん症候群を患っている。

そして、私もヨーロッパで最高の春夏を経験した。
気温は20-27度くらいで過ごしやすく、毎日快晴。日の出は5時、日の入りは22時。夏の太陽は社畜だ。

テラスでの外飲みが本当に気持ちいい。金晩は外で飲まなければいけないという強迫観念すら感じた。青空が『早く仕事終えてこっちにおいで』と私に呼びかけてきた。

仕事を21時に終えても明るいので気を病むことがない。22時にご飯を食べても、19時くらいに食べている感覚になる。夏は平日も心が明るかった。休日・旅行はもちろん最高。海に入ったり、ビーチで朝から晩までゴロゴロしたりした。人々も明るく活気づき、「天気最高だね!」と知らない人と歓談した。夏は心が軽やかで、毎日が楽しかった。

そして、再び冬が来た。
寒くて日が短く、ずっと曇りか雨。一度冬を経験した私は、『ヨーロッパの冬はそういうもの。』と理解していたので、怖くなかった。つまり、油断していた。

『2回目の冬はきつい』マウント先輩方からの教えはいつも正しい。

人間というのは、一度生活レベルを上げると戻せない。贅沢な暮らしをすると倹約生活には戻れない。それの天気バージョンが起きる。天気の月手取り150万円から15万円に下げられる感覚。社畜から公務員になれば仕方ない。

起きる時も、仕事に行く時も、仕事から帰る時も暗い。たまにランチで外に出ても曇りか雨。仕事は繁忙期に入り、家とオフィスの地下駐車場を往復するだけの日々。太陽を何か月も見ていない気がした。

12月頃から、壊滅的に朝起られなくなった。何時間寝ても関係ない。7時に起きようとしても、夜中3時に起きようとする時のしんどさ。ベッドから這い上がろうとしても、ベッドと体が磁石のようにくっついて離れない。もともと低血圧気味の私に、毎日爆弾低血圧が襲ってきた。アラームを鳴らしているはずなのに聞こえない。目を覚ますと、動き始めるべき時間を過ぎているのに、体が重すぎる。何とか会社を休めないかと考えるものの、繁忙期で仕事が溜まりすぎて厳しい。洗面所まで這って行き、最低限の身支度、すっぴんで会社に行く日々を送った。休日は夕方まで寝続けた。外に出る気にはなれなかった。

今振り返ると、気分もかなり落ち込んでいた。毎日が生理前だった。
毎日18時頃には気力も体力も気力も尽き、それでも仕事は21時までやらねばならず、帰ったら力尽きてソファで寝落ちしてしまう。そんな中で少しでも嫌なことが起きると、この世の終わりかのように落ち込んでいた。

太陽が恋しい。

ヨーロッパに住んでから、ホームシックに一度もなっていない私だったが、太陽にだけはめちゃくちゃメンヘラになった。

冬に健康診断を受け、ビタミンDの値が基準値を下回っていることが分かった。ビタミンDの不足は鬱を誘発する。サプリを飲みだしてから、少しだけ朝のしんどさがマシになった気がする。それでも太陽が出ない日々は変わらない。青空と日光が恋しくて仕方なかった。

3月になると、徐々に晴れる日が増えてきた。
晴れたらベランダに出て日光浴をした。本当に気持ちがいい。日焼け止めも塗らず、ただただ無心で太陽を浴びる。お隣のおばあさんも、裸みたいな恰好で日光浴をしている。お互い素顔で「Hello」と挨拶。このHelloには、『久々の太陽嬉しいね~!今日くらいは目一杯太陽浴びようね~~!』の意が含まれている。

ヨーロッパの人々は、少しでも太陽が出るとタンクトップになる。私がコートを着るような肌寒い日でも、タンクトップの人が結構いる。寒くないんかと疑問だが、それよりも太陽を浴びたい気持ちが強いのだろう。

朝、起きる時間には太陽が出ている。それだけでこんなにも目覚めは良くなるのか。
目覚めが良いのが嬉しくて、休日もちゃんと早起きしちゃったり。ベランダで昼からビール飲んじゃったり。幸せすぎる。

そしてついに、サマータイムに切り替わった。日の入りは20時半頃まで伸びた。
青々と茂る緑と青空のコントラストに胸が弾む。ソメイヨシノはないが、こちらにも少し濃いピンクの桜がある。黄色い花をつける雑草がかわいい。カラフルな植物たちが風に揺れられて躍るのを見て、私も一緒に踊り出しそうになる。春が来た。

昨日は19時半から公園でピクニックしちゃった。おにぎりとビールでまったりして、夕焼けの下でバドミントンなんかしちゃって。太陽と、太陽の下で生き生きする植物たちと、太陽を楽しむ人々。春を織りなす全てが愛おしい。

私は春が大好き。


先日、上司との面談があった。
帰任時期について、どうしたいか希望ある?と聞かれてこう答えた。
「冬になる前に帰りたいです。」

この前の冬がヨーロッパで過ごす最後の冬だったかもしれない。
それでもいい。この春夏を沢山楽しんで、あの恐ろしい冬が来る前に日本に帰りたい。今はそう思っている。

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