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SAMの杉本博司展のオープニングに行ってきた件

SAM(Singapore Art Museum)で杉本博司の大規模な展覧会が開催中

Hiroshi Sugimoto: Form Is Emptiness と題した杉本博司の東南アジア初の回顧展がSAMで29 May 2026 – 4 Oct 2026のスケジュールで開催されている。今回は、小田原文化財団の絡みで、オープニングレセプションに参加してきたので、その備忘録。

Form is Emptiness

今回の展覧会のテーマである「Form is emptiness」とは、大乗仏教の代表的な経典『般若心経』の有名な一節「色即是空」の英訳である。すべての形あるもの(Form)は、本質的な実体を持たない空(Emptiness)であるという意味を持つ。杉本によると、「キリスト教の本質はLove、仏教の本質はEmptiness」。彼は英語で説明し、正確には、本質ではなく Key concept と言った。 
それでは、Emtptinessとは何なのか。「空」は、何もないという「虚無」の状態とは異なる。すべての現象は、互いの関係性や因縁によって成り立っているが、この実態を持たない関係性の真理・縁起が、まさに空なのだと言う。
こうした仏教的な考え方は、私にとって Steven Jobsの「Connecting Dots」や「量子もつれ」(Quantum Entanglement)と似ているように思える。
形をもつ作品群は、それぞれがなんらかの因縁や関連により、つながっている。その繋がりを、彼の過去50年にわたる作家活動から選ばれた11シリーズ63点の作品から読み取ってみよ、と言うアーティストからの命題かもしれないと思った。

会場レイアウト

今回の展覧会の目玉は3つあると私は考えている。
一つは、ソニーやJAXAらとの共同プロジェクトのアウトカム。一つは2年前に北京で発表された暗室書法による「般若心経」。そして最後の一つが、彼の作品を辿る旅を可能にする会場のレイアウトである。
杉本自身がデザインした展示レイアウトは、マンダラのような回遊型をとっている。定められたルートに従って進むのではなく、来場者は戸惑いながらも自分のペース、自分の順序で展覧会を巡る必要がある。ルートは分岐し、ループを描き、再びつながり、複数の方向への移動を誘う。これが非常に印象的だった。また、どこに何が展示してあったかを正確に思い出すのがなかなか難しかったため、再訪した際にしっかりメモをとってみた。その後、モデルのスライドを見せていただき、自分で文字を追加したのが下図である。

会場レイアウト

STAR SPHERE(スタースフィア)

STAR SPHEREとは、ソニーがJAXA、東京大学と共同で取り組んだ 宇宙からの視点を一般に開放する宇宙感動体験プロジェクト。杉本博司が2022年に、宇宙カメラを用いた創作活動のパートナー第一号に選出された。その宇宙カメラの撮影映像 - 宇宙から見た地球の姿を写真屏風として、今回初めて公開された。
関係者曰く、本来設定していた角度とは異なる角度で撮影されたが、結果として月が映り込み、その軌道が美しく円弧を描いていることに改めて気付かされたと言う。

Spacescape


屏風の裏側の唐紙は、杉本がデザインしたウミユリのモチーフである。杉本が、来場者に対し、裏を見ないとダメだよと語っていた。

屏風の裏

般若心経

2年前に北京で発表された暗室書法による「般若心経」。残念ながら北京には伺えなかったし、国内ではサイズがデカすぎて展示が難しいらしいので邂逅できずであった作品である。松濤美術館で見た《いろは歌(四十七文字)》と比べ、般若心経というコンテンツも、漢字というメディアも、持つパワーの絶対値が圧倒的に高いことに気づく。印画紙に現像液と定着液を浸した筆で文字を書くと、筆を動かす瞬間には文字は表れず、時間を置いてからその文字が浮かび上がる。現像液で描いたいろは歌と異なり、般若心経は定着液を使用しているため、漢字が白く浮き上がるのも強さ一因かもしれない。
書の前に佇み、空と言う字の数を数え、色即是空、空即是色と想いを巡らす至福のひとときであった。

回顧展のようで回顧展ではない

回顧展とは、その芸術家や美術団体の歴史や作品の展示を通じて、芸術家の芸術的な過程や足跡をたどるものであるが、私は今回の展覧会はその先を行くものだと考える。すなわち、杉本の歩みを時系列に俯瞰するだけではなく、彼が扱ってきたテーマや視点に寄り添いながら、来場者の価値観へと変換するプロセスなのだと思う。
こうした回顧展の形式をとった杉本の企みは、今年、フランスのスーラージュ美術館に始まり、シンガポールのSAM、そして日本の国立近代美術館へと続く。彼の企みをどれだけ読み解けるか、あまり自信はないが、とっても楽しみな時間が続く。

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