一生分の恋をした
お付き合いした彼は、不器用で、優しい人だ。
今まで好きになった人とは全く見た目も中身もタイプが違って、好きになる人がタイプってこういうことを言うのかと思った。
「俺が好きなの、気づいてるでしょ」
「…私を?」
「他に誰がいるの」
「知らなかった、今知った。ずっと確信は持ててなかった、…んで、なあに?(笑)」
「……好きだから、付き合ってほしい、です」
とまあ、こんな人。面倒くさそうだよね、わかる。
これといったキッカケは全く覚えていないから、多分自然と好きになったのだと思う。同じ趣味で出会ったけど、初めの方は一緒にいてもお互い一言も話さなかった気がするし。
彼は面倒見のいい人で、年上だけど、多分年上じゃなくても面倒見の良さは感じていたのだろうなと思う。
俺のこれ貸してあげるから使いなと、人に貸すのは普通渋るであろう値段の私物を貸してくれたり、私のアレルギーを一度言ったら覚えてくれていて、それ○○入ってるからねと言ってくれたり、しょぼ…(笑)とからかいながら重い荷物を持ってくれたり、転ばないでよと言いながら私が振り向いたら既に私を支えてくれていた日だってあった、そんな人。
一緒に飲んだ席で仕事が辛い私に「早く男でも作りな」とか言うし、大好きなのに、その男になってくれよなんて私は酒の勢いでも言えなくて、なんだかすごくムカついた日もあったな。
でもね、好きな人のタイプを聞かれて、好きバレさせたくて、「面倒見のいい人に弱いの」と言ってみたら、「俺面倒見いいでしょう」と返してきたのは本当に可愛かったの。その後全然目合わなかったし。
私が「明日の仕事後に趣味関連の買い物行くんだ、ついて来てくれる?」なんて冗談ぽく言ったら「考えとく」って言われて、まあさすがにこれは冗談だろうと思ってたら、まさかの本当に来てくれてしまって。
明確に予定を合わせたわけじゃなかったけど、これが一番最初の二人きりのデートだった。
目的地へ向かう道中、
「ちゃんと待ち合わせしてたわけじゃなかったし、仕事あがる時間も言ってなかったけど、もしかして結構待っててくれたりした?」
「待ってないよ、そんなわけない」
「そうだよね、そんなわけないか」
「…いや待ってたよ、けど、別に気にしなくていいってこと」
こんなことを言われてしまったらもう、ダメだった。喰らった。結局1時間以上待っててくれたんだって。
このデートの前までは二人きりだとやや会話に詰まることもあったのだけど、なんだかこの日は本当に楽しくて、会話が途切れた瞬間なんて一度もなかった。
その買い物帰りの寄り道も、二人で迷子になって一回地図見ようなんて笑いあったときも、帰りの電車も、ずっと初恋みたいにふわふわしてた。バイバイするときに「ありがとう、ついて来てくれて」と言ったら、「ん、いいよ」とだけ返されたけど、それも可愛くて仕方がなくて、笑いながらおやすみと言って別れた。
そんな彼と、最近一緒に眠って迎えた朝。
ふと隣で寝ているあなたを見て、心から愛おしいと思った。何故か心底安心して、気が付けば涙がぽたぽたと溢れていた。何か嫌なことがあったわけではなくて、幸せと安心の涙で。
辞書で単語を検索したら、説明文が出てくるでしょう。"宝物"とか"愛おしい"とか、そんな言葉たちに意味と思い出が付いたような感覚だった。
"宝物"― 代わりのない大切な人や物品、だって。
幸せであればあるほど、この先に起こるかもしれない不幸を恐れる私は、どうか一日でも長く一緒にいてほしいと願って、彼に抱き着いた。
しばらくして目を覚ました彼に、
「私普段は小間切れ睡眠だけど、お泊りで一緒に寝てくれる日は一回も目覚めずにちゃんと寝れるようになったんだよね」
と言った。
「たまたまじゃない?」とか「俺といて疲れてぐっすりになるんだよ」なんていう返しを想像していたのに、あなたはそっと私の顔に手を添えて、親指でこめかみを撫でて、見たことないぐらいの優しい顔で「よかった」なんて言うものだから。
一生分の恋をした、と思った。
日記とか、こんな形で文章を残したことがない私だったけど、この気持ちと思い出を忘れたくないと思ったのは初めてだったから、ここに残します。
