ショートショート 『レシートの外側』
営業帰り。
公園の入り口にある自販機で、高木は缶コーヒーのボタンを押した。
財布をしまおうとして、レシートが一枚、風にさらわれる。
「しまった」
追いかける前に、黒いコートを羽織った白髪の男が拾っていた。
高木は苦笑する。
「こんにちは、また会いましたね。拾ってくれてありがとうございます」
男はレシートを裏返したり、表にしたりして眺めている。
「ゴミですよ」
「牛乳」
少し間を置く。
「煮魚」
また間。
「洗剤」
高木は照れくさそうに笑った。
「ただの、買い物です」
男はレシートを丁寧に伸ばすと、高木に向けた。
「違う」
「え?」
高木は首をかしげる。
「化石のかけらだ」
今日も訳がわからない。
高木は手元のレシートを見つめた。
昨日の夕飯。
切れかけた洗剤。
その一枚に、自分の一日が並んでいた。
「ただのレシートが、急に遺跡から出てきた発掘品に見えてきました」
男は真面目な顔で答える。
「そんなたいそうなものじゃない。引っ掻き傷だ」
「え?」
「君の空間に刻みつけた証拠だ」
「コード……?」
「消えて残らない」
男は少し考え、高木のほうを見た。
「だから価値がないと思われている。私は逆だと思う」
木々が小さく鳴った。
「消えるものほど、存在が眩しい」
男はコートの裾をなびかせて、公園を出て行く。
高木はレシートをそっと財布へ戻す。
今夜はそのコードとやらを味わってみようか。
「──あっ!忘れてた」
自販機に戻る。
缶コーヒーは、まだそこで待っていた。
