売れる器には理由がある
「売れる器には理由がある」
食品トレーは、無言で語る営業マン
百貨店の鮮魚売り場で、主人が迷わず買い物かごへ入れた舌平目。
「今日はムニエルが食べたいわ〜。」
その一言より先に、私の目は魚ではなく、その下に敷かれた食品トレーへと向いていました。
「へぇ〜、このトレー使うてはるんやね。」
思わず厨(くりや)から主人に声を掛けてしまいました。
主人と一緒に、メーカー名を確かめて…
「なるほど、この会社か。」
そう思った瞬間、昔の仕事脳が一気によみがえってきたのです。
主人は魚とトレーを見ている。
私はトレーだけを見ている。
なんとも不思議な夫婦どす(笑)。
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私は以前、食品関係の仕事にご縁をいただき、数年…メニュー開発、売り場提案、販売指導、チラシやポスターの撮影アドバイス、盛り付け指導など、さまざまな食に関する仕事に携わっていました。
その中でも、とりわけ興味を惹かれたのが食品トレーでした。
百貨店、高級スーパー、メーカーさんとの商談。
大きな工場へ足を運び、成形機が規則正しく動く音を聞きながら、「容器一つで商品の印象はここまで変わるのか」と驚いたことを、今でも鮮明に覚えています。
私が持っていたいくつかの資格も、その仕事の中で思いがけず役に立ちました。無駄ではありませんね(笑)
食品トレーは、単なる入れ物ではありません。
売り場に立てば、お客様よりも先に商品を語り始める、最初の営業マンやと思うてますねん。
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昨日のトレーも実によく考えられていました。
平らな形状。
余計な段差も飾りもありません。
それやのに、舌平目がふわりと浮かび上がるように見える。
そして何より、この緑。
杉や檜の葉を思わせる意匠が、海の魚でありながらどこか山の清々しさまで添えてくれる。
人は「新鮮」という文字を見る前に、「新鮮そう」と感じています。
その第一印象をつくっているのが、実は色であり、形であり、余白なのです。
心理学ではこれを第一印象効果とも呼びますが、売り場づくりでは昔から経験的に知られてきたことでもあります。
商品は味覚で売れる前に、まず視覚で選ばれる。
そやからこそ、器は決して脇役ではありません。
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演劇も同じです。
舞台に立つ役者は、言葉を発する前から観客に物語を届けています。
立ち姿、照明、衣裳、沈黙…。
そのすべてが台詞以前の情報です。
食品売り場もまた、小さな舞台。
魚は主役。
ギョギョギョ🐟
トレーは舞台美術。
照明は売り場の光。
そして、お客様は観客でありながら、最後には物語の中へ入ってゆく。
私は脚本家である今でも、その見方は変わりません。
いえ、むしろ深まったように思います。
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「このトレー、ようできてはるなぁ。」
主人とそんな話をしながら夕食の支度をする時間も、私たちらしい時間なのかもしれません。
普通やったら…
「美味しそう。」
で終わるところを…
「このメーカーさん、ええ仕事してはる。」
そんな会話になるのですから(笑)。
仕事とは不思議なものですね。
辞めても、肩書きが変わっても、長年培った視点だけは静かに心の中へ住み続けます。
それは知識というより、ものを見る眼。
人生は、案外そういう眼差しの積み重ねで豊かになっていくのかもしれません。
そして昨日の舌平目のムニエルは、主人の「美味しい」の一言で、きれいに幕を閉じました。
もちろん私は最後まで、洗ったあとのトレーを眺めながら、
「ほんま、よう考えて作ってはる。」
そう、小さく感心していたのでした。
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