「好き」は灯り──いい推しの日に、家族の推しを振り返る
今日は、いい推しの日
あなたの"推し"は誰ですか?
11月4日。"いい(11)推し(04)"の語呂合わせから生まれた「いい推しの日」だ。SNSを開けば、推し愛にあふれた投稿がタイムラインを彩っている。アイドル、キャラクター、俳優、スポーツ選手──みんなそれぞれの「推し」を語り、愛を届けている。
我が家でも、いつの間にか"推し"という言葉が自然に登場するようになった。娘は推しのライブに向けてお手伝いで貯金をし、息子は推しの生き物やゲームのモンスターについて延々と語ってくれる。
「そういえば、最初に"推し活"したのっていつだった?」
夕飯の支度をしながら、そんなことをふと考えた。
言葉より先に始まっていた推し
思い返せば、娘も息子も、言葉より前に「好き」が始まっていた。
娘が初めて夢中になったのは、プーさんだった気がする。ぬいぐるみを抱きしめて離さず、寝るときも一緒。目を輝かせてテレビの画面を見つめる姿は、今思えばあれが"推し"の原点だったのかもしれない。
息子は海の生き物が好きだった。図鑑を開いては魚やクジラを指差し、水族館に行けば水槽の前から離れない。やがてアンパンマンに出てくるバイキンマンのロボット、ダダンダンにハマった。敵キャラなのに、なぜかダダンダンばかり。その頃から、息子の"推し"は少し独特だった。
言葉にならない「好き」が、行動になる瞬間。親として見守っていたあの頃が、もう推し活の始まりだったのだと気づく。
成長とともに変わる推し方
小学生になると、推し方に"理由"と"世界"が生まれてくる。
娘は戦国時代にハマり、特に石田三成(いしだ・みつなり)に夢中になった。城の構造を調べたり、ゆかりの地を訪ねたり。歴史資料を読みあさる姿は、親として頼もしくもあり、少し驚きでもあった。
やがて漫画やアニメをきっかけに、文豪や詩人の世界へと関心が広がっていった。『文豪ストレイドッグス』に登場する詩人の原作を手に取るようになり、「この詩集、好き」と嬉しそうに見せてくれる。古い文体で難しい作品も多いけれど、挑戦する姿勢そのものが尊い。
息子はというと、現実の生き物もゲームのモンスターも推し対象だ。最近の推しは『モンスターハンター』に出てくるエスピナス。ファミマコラボのクリアファイルを額に入れて飾り、フィギュアを机に並べる。図鑑で調べては語り、動画を見ては感想を話してくれる。インプットとアウトプットのトレーニングにもなっているのだろう。「ねえ、聞いて!」と楽しそうに話してくれる瞬間が、毎日のように訪れる。
"好き"が学びに変わっていく瞬間を、そっと見守る。それが、親としての今の楽しみだ。
推し活が生活に溶ける
小学6年生になった娘は、推しのライブやグッズに向けてお手伝いで貯金をするようになった。お米研ぎ、炊飯セット、洗濯物たたみ。ひとつひとつが小銭になり、推し活資金になっていく。
推し活は「努力する力」を生むし、好きなものに向かって頑張る姿は頼もしい。でも、親としては複雑な気持ちもある。グッズの供給スピードは速く、次々と新しいアイテムが発表される。企業の努力も分かるし、人気があるうちに展開するのも理解できる。
それでも、「もう少し穏やかなペースでも…」と思う瞬間がある。
小学生や中学生にとっては、追いかけきれないスピードだ。「買えない」ことで心がざわつく姿を見るのは、親として胸が痛む。
推し活は、応援と消費のバランスを学ぶ時期でもあるのだろう。ライブやイベントは、お金では買えない記憶になる。そこに価値があると、娘も少しずつ理解してきているようだ。
親世代の"推し"を思い出す
考えてみれば、私たち親世代にも"推し"はあった。
アイドルグループのポスターを部屋に貼る人もいれば、アニメキャラクターのグッズを集める人もいた。部活の先輩に憧れて一生懸命練習した人もいただろう。当時は"ファン"と呼んでいたけれど、今の"推す"という言葉が生まれた現在と、根っこは同じだ。
時代は違っても、「好きなものを語る嬉しさ」は変わらない。親子それぞれの"推し"が、時代ごとに生活の中で響き合っている。
娘が推しの詩集を読んでいる横で、妻は昔好きだった音楽を聴く。息子が推しのモンスターを語る横で、私は昔好きだったゲームの話をする。推しは変わっても、好きの心は、家族の時間の中で静かに息づいている。
「推し」は家族の現在地
娘の推しは外の世界を広げ、息子の推しは家を彩り、親の推しは思い出になる。そして今日は、娘の推しのひとり──泉鏡花(いずみ・きょうか)の誕生日だ。
鏡花の好物は湯豆腐だったという。だから今夜は、湯豆腐を囲む予定だ。こうした"記念日ごはん"が、家族の時間に小さな灯りを足してくれる。
推しは変わっても、好きの心は生活の灯りになる。
いい推しの日に、湯豆腐を囲む。そして、そんなことを思うのだろう。
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