Yellow Magic Orchestra「BGM」
1981年発売4枚目のオリジナルアルバム。今作はこれまでのようなキャッチーな曲はほぼ鳴りを潜め、全体的に暗い雰囲気の曲が多く占めているのが特徴で、1980年発売された坂本龍一の「B-2 Unit」と加藤和彦の「うたかたのオペラ」にインスピレーションを受けて制作された。その為「Solid State Survivor」のようなものを期待していたミーハーなファンからは不評を買い、売れ行きもイマイチだったらしいが細野曰く「たくさん売れた後だからやりたいことができたアルバム」と評しており、細野自身YMOのアルバムの中で特に気に入ってるアルバムとのこと。一方このアルバム制作時坂本はかなり不調気味だったらしく、彼が作曲した楽曲にその影響らしきものが垣間見れる。更にこの時期に細野と対立していた(というよりは坂本の一方的な険悪感)らしく、一部楽曲の制作に参加しないなどかなり荒れていた模様。
前作までは作詞にクリス・モズデルがほぼ全て担当していたが、本作以降は音楽評論家であるピーター・バラカンと各メンバーが担当するようになり、以前よりもボーカル曲の比率も増えている。
メンバー
細野晴臣
高橋幸宏
坂本龍一
レコーディング・エンジニア・・・小池光夫、飯尾芳史
ミックス・・・小池光夫、YMO
収録曲
BALLET / バレエ
作詞 高橋幸宏、ピーター・バラカン
作曲 高橋幸宏
個人的な最初の第一印象は暗いナイス・エイジで、曇りの日のような薄暗さを感じる。鐘の音のような主旋律の音色に切なさが出てより心情的な暗さを足すような印象。サビの幸宏の歌い方がまるでその薄暗い空間に飲みこんでいくような感じがとても好き。
歌詞は大雑把に要約すると、誰も見ていない部屋でひとり妄想の中で踊るバレリーナの姿を歌っていると思われる。ロシアの画家「タマラン・ド・レンピッカ」について霧の中にあるワルシャワの雰囲気を表現(Wiki原文ママ)したらしい。幸宏のボーカル以外にも女性(「中国女」の語りと同じ人)の語りパートが存在する。
個人的にこのアルバムの中で一番好きな曲。
MUSIC PLANS / 音楽の計画
作詞 坂本龍一、ピーター・バラカン
作曲 坂本龍一
このアルバムでは唯一坂本が作詞とボーカルをも担当している曲でボーカルパートにはエフェクトがかかっている。サウンド・歌詞ともに当時スランプ気味の坂本の心情を物の見事表したような曲となっており、サビの音割れしたように震えるシンセの主旋律が更に粗々しさを演出している。個人的には歌唱の間にちょくちょく入る比較的クリーンなシンセの音の切なさが好き。
歌詞は和訳を見るとまるで過激派の演説のような自問自答な内容となっている。つまるところ、坂本流の「CUE /キュー」。
坂本「Give me a cue!」
RAP PHENOMENA / ラップ現象
作詞 細野晴臣、ピーター・バラカン
作曲 細野晴臣
このアルバムで唯一細野がボーカルを担当している曲で坂本同様ボーカルパートにエフェクトがかかっており、正直こっちは細野の声とは気づきにくいぐらい変えている。細野がメイン作曲者という事もあってベースの音がひと際目立つ。時折登場する不協和音風味の民謡チックなフレーズがゾクッとくる。2分57秒あたりの間奏に登場する「うおっうおっ」「ばかばか」連呼は細野らしい悪戯チックな遊び心でほっこりするファンもいるとかいないとか。ところでここは誰の声なんだ・・・?
タイトルは音楽用語のラップと、ラップ現象(建物の中でたまに「バキッ」やら「メキメキ」と聴こえてくるあれの事)をかけたもので歌詞もラップ現象の事をラップ風味で歌っている。細野がラップで歌うという地味に貴重な曲だ。
ちなみに81年当時は世界的にもラップの曲が出始めた頃であったらしく、日本にはまだヒップホップという言葉も全く浸透していなかったとか。日本では初かもしれないラップ曲かもしれない。
HAPPY END / ハッピー・エンド
作曲 坂本龍一
インスト曲。このアルバムの後に発売された坂本のシングル「Front Line」の同名のカップリング曲のダブミックスヴァージョンとなっているのだが、坂本の嫌がらせでメロディを割愛しているので何が何だか分からない代物となっている。何かが右往左往と駆けてくような旋律とシーナ&ザ・ロケッツに提供した楽曲「ROCKET FACTORY」を彷彿するような鐘の音のようなシンセがこだまするよう音が一旦間をおきながらも延々と続くような構成となっている。
なぜタイトルがハッピーエンドなのかは坂本が細野と険悪だった時期にあったらしいのでなんとなくお察しといったところか…
1981年のWinter Liveで披露された際はメロディがあるヴァージョンが演奏されているのでダブヴァージョンは一度も演奏された事がないと思われる。
数多く存在するYMOのベストアルバムには一度も収録されたことがない、というか「MUSIC PLANS / 音楽の計画」からこの曲まではベストアルバムに収録される事がかなり稀。
1000 KNIVES / 千のナイフ
作曲 坂本龍一
坂本のソロアルバム「千のナイフ」の表題曲のセルフカバー。YMO結成時からライブで演奏されていたが、ここにきてYMOのオリジナルアルバム収録となった。元々は細野に「千のナイフのような曲作って」と注文されていたが、「じゃあ千のナイフでいいじゃん」という反抗期の様な返しで新たにアレンジし直す形で収録されたらしいとか。ソロアルバムの原曲と比較すると冒頭の語りカットは当然、5分半近くと短くなっているほか、アジアンさは多少残るものの割とロック寄りなアレンジといった感じで後半の荒々しくうねるシンセの音は相変わらず坂本節。個人的に千のナイフはこっちのヴァージョンが好み。
CUE / キュー
作詞 高橋幸宏、細野晴臣、ピーター・バラカン
作曲 高橋幸宏、細野晴臣
後にシングルカットされた曲。イングランドのバンド「Ultravox」の楽曲「Passionate Reply」からインスピレーションを受けた曲で、幸宏と細野の2人だけで制作された。肝心な坂本が制作に関わっていないのは「Ultravoxの真似事」と酷評していたから。一見カバーと思うほど確かに曲調は酷似している。美しさと切なさが折り重なったメロディがイイ。
歌詞は誰しもが人生において生きるのにしんどさを感じる瞬間の心の叫びを歌った内容となっている(当時の幸宏の心の叫びもプラスされてもいるだろう)。
2000年代に入ってから「安心して聴ける曲」と坂本自身再評価していたようで、自身が選曲したベストアルバムに収録したり、ライブでも披露する機会が多かった。ちなみにこの曲をライブで披露する際は幸宏とパートチェンジして坂本がドラムを担当する。
U・T / ユー・ティー
作曲 YMO
シングルカットされた「CUE / キュー」のカップリング曲。タイトルは坂本曰く「ハイ…アー…(ハイパー?)超地球的存在(Ultra-Terrestrial)デス…」でその略。迫真的なSFチックのドラマラスなシンセサウンドと素朴ながらも癖のあるリズムなドラムが魅力的なYMOファンの間でも「Mad Pierrot」と同等な人気を誇る曲。ええ、凄いです。
インストだが曲の途中でメンバー3人によるエフェクトがかかったトークが挿入されており、内容はこの曲に対する座談会的なもの。細野が司会進行を務め、メンバーの2人に問いかけるが比較的まともに答えているのは前述の坂本のみ、幸宏は特に興味がないのか可もなく不可もない返答。
CAMOUFLAGE / カムフラージュ
作詞 高橋幸宏、ピーター・バラカン
作曲 高橋幸宏
シングルカットされた「MASS / マス」のカップリング曲。若干「RAP PHENOMENA / ラップ現象」と曲調が似てはいるが、曲の印象はどこか妖艶な魅力が詰まってるような印象を受けてタイトルのカモフラージュもあってか、個人的にはハニートラップ的なものを連想してしまう。3分11秒から幸宏の語りパートが入るが非常にグニャグニャと曲げたミックスが施され、聴きとりづらいし何かに苦しみもがく声に聴こえてきて不気味この上ない仕上がりになっている。曲の最後の静けさが意味深でなんか好き。
MASS / マス
作詞 細野晴臣、ピーター・バラカン
作曲 細野晴臣
後にシングルカットされた曲。印象としては映画のクライマックスのような熱くも儚い情熱を感じるシリアスな雰囲気の曲で、夕陽に佇む兵士たちが行進していく情景が見えてきそうな男くさいサウンドといったところ。
この曲では細野でなく訳詞のピーター・バラカンが歌唱もとい、朗読を担当し、英語とロシア語の2か国語を用いている。歌詞は行進をイメージしているらしく、まさに自分の印象通りのもののようだ。
確かに凄く良い曲なんだが、個人的に何故この曲をシングルカットしたのか少々疑問に感じるw
LOOM / 来たるべきもの
作曲 YMO、松武秀樹
YMOのアルバムで唯一松武も作曲者として記載されているインスト曲。遠くから何かが上昇していく音がひたすら続き、限界点を突破すると宇宙空間をイメージしたようなアンビエントに切り替わり、リラクゼーション的な雰囲気を持つ。聞こえてくる水が垂れるような音はメンバー3人の脈拍の平均値を算出して作られたらしい。松武かメンバーの考案かは不明だがなかなかすごい発想が出てくるものだ。
この上昇音は今でいうJアラートのような音のソレに近いので人によっては恐怖するかもしれない。ちなみにこの上昇音は元々1978年に松武が発表したソロシングル「謎の無限音階」に収録されたもの。
なんとこの音は他にも松武がプロデュースした1995年発売「魔法陣グルグル 〜ジミナ村の祭典〜」の1曲目「ようこそグルグルワールド」にてひっそりと使われている。そうなると他にも松武氏が関わった音楽作品にも何かしら使われてる可能性があるかもしれない。
ま さ か ! ?
