眼鏡小僧が、本名になった日
うちの息子には嫌いな子がいた。
学校から帰ってくると、その子への不満を話す。
「眼鏡小僧が意地悪してくる」
「眼鏡小僧が嫌なこと言ってきた」
二か月くらい、毎日のように「眼鏡小僧が!」と愚痴っていた。
ずいぶん嫌いなんだなぁと思いつつ
眼鏡小僧呼びをたしなめていた。
ところが、ある日。
学校から帰ってきた息子が
いつもと変わらない様子で言った。
「〇〇くんと公園で遊んでくるね~」
ん?〇〇くん?
聞き覚えがある名前。
でも、息子の口からその名前を聞いた記憶がない。
一瞬考えて、気が付いた。
○○くんって、眼鏡小僧(失礼)の本名では?
え?!
昨日の夜まで「眼鏡小僧が!」って言っていましたよね?!
愚痴っていましたよね?!
私の頭はプチパニック。
あんなに嫌っていたのに、いつの間にか本名で呼ぶ仲になったのだ。
理由を聞いてみると
学校の野外授業で公園へ行った時、一緒に虫を捕まえたらしい。
そしてグータッチをした。
仲よくなった理由はそれだけだった。
一緒に虫を捕まえて、グータッチをしたから。
二か月分、愚痴を聞いてきた母としては
「それで仲良くなったの?!」
と思わなくもない。
人間関係というものは、もっと複雑な手順で変化すると思っていた。
何が嫌だったのか伝えて
相手の気持ちも聞いて
誤解があれば解いて
必要なら謝って…
けれど、息子たちの間には
そんな面倒な話し合いはなかったらしい。
同じ虫を追いかけた。
捕まえた。
楽しかった。
グータッチをした。
嬉しかった。
そして、友だちになった。
人を嫌いになるのにはいくつも理由があるのに
仲よくなるきっかけは案外、単純なのかもしれない。
……少なくとも、うちの息子の場合は。
本名呼びになってから一か月以上が過ぎた。
息子は今も毎日のように〇〇くんと遊んでいる。
もう家で「眼鏡小僧」と愚痴ることはない。
眼鏡小僧という呼び名と不満は、あの日の公園に置いてきたらしい。
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