ポロン。

これは母から聞かされた、私の「ちょっとだけ誇れる」お話──。

それは幼稚園の授業参観に起こった出来事だった。
先生から課せられたミッションは──「牛乳パックと輪ゴムを使って、楽器を作れ」。
さあ、この難問にどれだけの勇者(と書いて園児と読む)が挑むのかっ!


授業なので、みんなやります。はい。
お手本は先生の手に収まっている。
牛乳パックを箱状に切って、切れ込みを入れ、輪ゴムをひっかける。
それだけ。
それだけでも園児は興奮するもので「すごーい!」とキャッキャする。


しかし、その中で難しく考えている園児、一名。


それが、現在「オガワヒカリ」と名乗っている私──「ヒカリちゃん(仮名)」だった。 牛乳パックを切るのではなく、くっつけたりゴムを伸ばしたり格闘していた。

それに気づいたのが、幼なじみのお母さん。


「ヒカリちゃん、何を作ってるの?」


私はクールに答えた。


「ギター(真顔)」


その言葉を聞いた幼なじみのお母さんは、オガワ母にこう言ったらしい。


「ヒカリちゃんの才能はすごいから、伸ばしてあげてね」


その時、母がどんな顔をしていたのかは分からない。 そして私はギターを完成させるべく、そんな会話には気づかず集中していた。


みんなが楽器を完成させていくなか、私は後れを取りながらもなんとかギターを創り上げた。


ポロン。


音が鳴る。


ポロン。


楽しい。


「ママー、ギターできたよー!!」



うちの親は叩くではなく「殴る」系の親で、「親が絶対で子供は従え」というスタンスの教育方法をとっていた。
しかし、習い事に関しては子供の「やりたい」に応えてくれていたと思う。


親は私にバイオリンをやらせたかったらしい。
しかし、暮らしている町が田舎すぎてバイオリン教室がなかった。


──でもねママ。
わたしはね、あのギターをほめてくれるだけでよかったんだよ。


ほめてもらうこと、それが私には欠落していた。
思い出せる限りの記憶をたどっても、一度だけ「歩」という漢字練習を父に褒められただけ。

しかし、それだけでは生きていけない。

ほめてほしいだけだった。
絵を描いて掲示されることも、脚本が県の代表作品になったときも、やっぱり一番は「親にほめてもらいたかった」。


そして私は夢見た。

アイドル。
漫画家。
舞台女優。
作詞家。


どれも志半ばでだめだった。手が届きそうだったのに、だめだった。


ポロン。


あのときのギターの音が聞こえる。伸びきった輪ゴムのたるんだ音。


そしてようやく見つけた、私が表現したい場所。 ああ、やっぱりコトバだったんだ、と。
私は小説を書くようになった。



ポロン。


下手なりに音を鳴らし続けた。 時折ギターを放り投げて、布団に包まる日もあった。


ポロン。


同じフレーズしか弾けなくて、ギターを壊そうと思ったことがある。


ポロン……。


いつからだろう、私が「あの時作ったギター」そのものであると気づいたのは。


手にはなにも持ってはいない。
でも音は聞こえる。何から聞こえてくるのだろう。


私だ。
私が紡ぐコトバから音が鳴っているのだ。


ポロロン。


少しずつ綺麗な音になっていく。


ポロロロン。


ああ、奏でたかったのはこの音だ。



あの時の私を、今の私が抱きしめてあげたい。
上手に作れなくてもいい。遅れてもいい。
「ギター、できたよ」って笑ったあの子を。
よくやったねって、何度でも、何度でも。


今も私は、コトバの弦を張っている。


ポロン。


今日も、小さな音が鳴った。



「今度はなにつくろっか?」

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