HRBPは人材ポートフォリオをどう活用すべきか
人的資本経営という言葉が経営アジェンダの中心に据えられるようになった今、人事の世界で改めて存在感を増しているのが
「人材ポートフォリオ」と「HRBP(HRビジネスパートナー)」
という二つのキーワードです。
存在感を増しているとは言え、まだ普及の途上にあり、一過性の流行りに終わる可能性もあります。
ただ、流行りものだったとしても、両者を別々の文脈で論じるのではなく、「HRBPは人材ポートフォリオをどう活用すべきか」と問い直すと、人事の現場で起こっている課題が浮かび上がると考えます。
「絵に描いた餅」になりがちな人材ポートフォリオ
そもそも人材ポートフォリオとは何でしょうか。
一つの定義として、
戦略実現のために人材を群(グループ)に分け、各グループの貢献の仕方や必要要件、人事管理のあり方を分けて考える方法
だと整理されています*1。
こうした人材ポートフォリオは、単なる「人材の棚卸表」ではなく、事業戦略と接続された設計図でなければなりません。
ところが多くの企業で、人材ポートフォリオはつくられても、あまり活用されていないのが現状ではないでしょうか。
なぜ、人材ポートフォリオはあまり機能しないのでしょうか。
一因として、過去の人材マネジメントの延長で運用してしまう点があり、効果的に機能させるには、
①一律ではなく選択と集中
②統合的な人材マネジメント
③ゴールオリエンテッド
という三つがポイントとして示されています*2。
加えて、しばしば「人材ポートフォリオは動的であるべきだ」と言われ、経営・事業戦略・人材ポートフォリオ・人材マネジメント・推進基盤を連動させることの重要性も指摘されています*3。
つまり、人材ポートフォリオは描いた瞬間ではなく、それを起点に人を動かし、施策を統合し、検証し続けてはじめて価値を持つということです。
HRBPだからこそ果たせる三つの機能
ただ、現場から遠い人事にとって、人材ポートフォリオを作っても動かすのはなかなか難しいものです。
だからこそ「動かす役割」は、現場に近いHRBPが担うべきだと考えます。
HRBPは、経営戦略を現場の人材マネジメントに翻訳し、施策をやり切らせる役割が期待されます。当然、この立ち位置は、人材ポートフォリオの活用において他に代えがたい価値を生むと思います。
では、実務上、HRBPは何を担うべきなのか。三つの観点があると私は考えます。
第一に、「翻訳者」としての機能です。
事業戦略から「3年後にこの分野でこのスキルを持つ人材が何名必要か」を導く作業は、本社人事だけでは精緻にできません。
事業の方向性、競合動向、現場のオペレーション実態を理解しているHRBPが、事業責任者と対話しながらAs is–To beのギャップを定量化していく*4。
すなわち、HRBPが現場で解像度を上げて初めて実装に耐えるものになるということです。
第二に、「触媒」としての機能です。
ポートフォリオ上のギャップを埋める打ち手は、採用、育成、配置転換、外部人材の獲得、業務委託など複数にわたります*5。
これらは別々の人事機能に分かれているため、放っておくと連動しません。HRBPが事業部の中で交通整理し、CoE・HR Opsと結節して動かすことで、施策が初めて統合される。
人材を機能横断で活かしきる発想がここでは必須だと考えます。
第三に、「揺さぶり役」としての機能です。
人材ポートフォリオは選択と集中を伴うため、「この部門だけ不公平だ」という現場の反発を生みやすいものです*2。
だからこそ、HRBPは事業の論理から優先順位の必然性を説明し、時には事業責任者の「いつもの判断」に対しても物申す立場をとる必要があります。事業に寄り添うだけでは、HRBPは結局「都合のいい人事」になってしまいます。
最後に:人材ポートフォリオが「動的」であり続けるために
人材ポートフォリオは一度つくって終わりではありません。事業環境の変化に応じて見直し続ける「動的」な運用が前提です*6。
ここでHRBPが意識すべきは、ポートフォリオを「会社が描く人材像」だけで完結させず、従業員一人ひとりの「キャリアポートフォリオ」と相互尊重の関係で接続することだと考えます*7。
たとえば「3年後にデータサイエンティストが200名必要」という会社側の計画があったとしましょう。
ただ、希望する従業員が120名しかいないとき、不足分を採用・育成・配置で埋める発想だけでは、本当の意味で現場は動きません。
このとき、会社の人材戦略だけではなく、個人のキャリア戦略との間で「相互尊重」の対話を成立させる場の設計が必要になると考えます。
この対話の最前線を担うのは現場マネジャーであり、彼らを支えるのもまたHRBPです。
人材ポートフォリオを「経営の都合で人を動かす道具」と捉えるのではなく、戦略実現と個人のキャリア発達を両立させる「対話の足場」として位置づけられたとき、HRBPの存在意義は最も発揮されるものと考えます。
人材ポートフォリオが流行語のように語られる一方で、それを実装できている企業は一握りだとする指摘もあります*3。だからこそ、HRBPが、事業責任者の隣で人材ポートフォリオを共通言語として使いこなし、現場で施策を回し、結果を検証し、また描き直す。この営みを続けられるかどうかが、成否を分けるものと思います。
参考文献
*1 守島基博・冨樫智昭「人材ポートフォリオの〝作り方〟と〝動かし方〟~その本質を問い、根本から考え直す~」『HRカンファレンス2025-夏-』日本の人事部、2025年8月 https://jinjibu.jp/hr-conference/report/r202508/report.php?id=3863
*2 PwCコンサルティング「動的な人材ポートフォリオ・マネジメントの実現(中編)――人材ポートフォリオ・マネジメントで押さえるべき3つのポイント」2025年7月 https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/people-change/202507.html
*3 加藤守和・高田健太郎・鈴木英理子『企業変革を実現する人材ポートフォリオ・マネジメント戦略』労務行政、2025年6月
*4 株式会社グロービス「戦略人事として人事部が育成で果たすべき役割」コラム https://gce.globis.co.jp/column/the-role-that-the-human-resources-department-should-play-in-training-as-strategic-human-resources/
*5 日本能率協会マネジメントセンター「人材ポートフォリオとは?重視される理由、作る目的や作り方をわかりやすく解説!」(守島基博氏『人材教育』2000年12月号「戦略人事4つのステップ」を参照) https://www.jmam.co.jp/hrm/column/0077-jinzaiportfolio.html
*6 経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書 ~人材版伊藤レポート2.0~」2022年5月 https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220513001/20220513001.html
*7 TIS株式会社「経営戦略と人材戦略とキャリア戦略の連動」人的資本コラム https://www.tis.jp/special/human-capital-management/column1-2/
— 太田 昂志|Ota Takashi (@oh1ta) April 30, 2026
