すばる望遠鏡とオハラのガラス<前編>~宇宙・天文分野の技術革新に寄与するオハラのガラス~
ハワイ・マウナケア山の山頂域。富士山を上回る4200mという標高に加え、大気のゆらぎが少なく晴れの日が多いという、天体観測における好条件がそろっています。その場所には現在、世界各国より12台の天体望遠鏡が設置されています。
そのうちのひとつが、日本が誇る大型地上望遠鏡である「すばる望遠鏡」。太陽系の天体から100億光年以上先の銀河の彼方まで観測することができ、1999年の運用開始以降、未知なる宇宙を解き明かすきっかけとなるさまざまな研究成果を挙げています。
2014年、オハラ社員がマウナケア山頂域を訪れました。目的はオハラの光学ガラスが搭載された、すばる望遠鏡の視察。望遠鏡内部には一般の立ち入りが禁止されている場所もありますが、特別に許可を得て見学しています。
高さ22.2メートル、重さ555トンの本体が、天体を追尾するために綿密に制御されている様子にただ圧倒されるばかり。天体観測における日本の最新技術の結晶であるすばる望遠鏡。目の当たりにした担当者は、当時のことを振り返り「鳥肌が立つくらい感動した」と話しています。

澄んだ空と雲が間近にある景色に標高の高さがうかがえます
宇宙・天文分野においても様々な採用実績のあるオハラのガラス。その高性能・高精度な光学特性により、すばる望遠鏡の観測を陰ながら支えています。今回のオハラ公式noteは、すばる望遠鏡と搭載されているオハラのガラスをご紹介します。
すばる望遠鏡とは

(クレジット:国立天文台)
すばる望遠鏡は、国立天文台ハワイ観測所が運営する光学赤外線望遠鏡です。宇宙からの光を集める主鏡の直径は8.3mで、継ぎ目のない一枚鏡としては世界最大級。この大きな鏡により、光を集める能力である「集光力」と、星を見分ける能力である「分解能」の高さを実現しています。
言い換えると、すばる望遠鏡は地球から遠く離れた惑星や銀河を観測するにあたり、優れた視力をもっているということ。すばる望遠鏡の公式サイトでは、その視力の高さを以下のように表現しています。
すばる望遠鏡が達成する最高分解能を視力に例えると1,000以上にもなります。これは、富士山頂に置いたコインを東京都内から見分けられるほどの視力です。
望遠鏡は宇宙から届く光を観測することで、その様子を明らかにします。すばる望遠鏡は、可視光(実際に人間が見ることのできる光)から赤外線(可視光の赤よりさらに波長の長い、目に見えない光)までを様々な機器を使って観測します。
一度に広い範囲の観測ができる超広視野探査、赤外線での高解像度観測、波長ごとに光を分けて精密に観測を行う超精密分光など、多彩な特徴をもつすばる望遠鏡。これらの特徴を活かし、遠く離れた銀河の探査、暗黒物質(ダークマター)や宇宙膨張の測定、超新星の爆発現象の検出などを行ってきました。
広い範囲を観測するデジタルカメラ「HSC」

(クレジット:国立天文台/HSC Project)
すばる望遠鏡の特徴のひとつである広視野観測性能。高い視力だけでなく広い範囲の空を観測できる視野をもっており、満月9個分の天域を一度に撮影することが可能です。
地上約600km上空の軌道上を周回している宇宙望遠鏡「ハッブル宇宙望遠鏡」と視野の広さを比較すると、HSCはその約1000倍以上に相当します。これはハッブル宇宙望遠鏡で何千年もかかる調査を、たった数年で完了できるほどの能力です(※)。
その超広視野撮像を可能にする装置が「超広視野主焦点カメラ(Hyper Suprime-Cam:通称HSC)」。すばる望遠鏡の設立時に搭載されたSC(Suprime-Cam)の後継機で、116個ものCCDが取り付けられている、約8億7000万画素をもつ世界最大級のデジタルカメラです。
CCD:光をデジタル信号に置き換える撮像素子。被写体からの光がレンズを通ってCCD上に像を結び、光の強さに応じて電気信号を取り出しデータ化することで、画像処理を行う。
HSCのファーストライト(最初の試験観測)を実施した2013年、すばる望遠鏡はアンドロメダ銀河M31の全体像を撮影することに成功しました。アンドロメダ銀河は日本やハワイから見える銀河のなかで見かけの大きさが最大であり、従来の望遠鏡では分割して撮影する必要がありました。しかし、HSCによってほぼ1視野での観測が可能になり、観測効率の向上に寄与することを示しました。
はるか遠くの天体を広い視野で撮影するためのHSC。大きな一枚鏡で集められた光がデジタルカメラのレンズユニットを通り、CCDセンサーに天体の像を結びます。このレンズにオハラの「高均質性光学ガラス」が使用されています。

主焦点カメラのレンズに求められるのは、にごりのない均質性の高いガラス。レンズのどの部分を光が通過しても、同じように光を曲げる必要があります。そのため、屈折率に違いがあってはなりません。
HSCに搭載されているオハラの光学ガラスは、直径約700mmという大きさにも関わらず、どの場所をとっても小数点以下第5桁まで変わらない屈折率を保証しています。この高均質製法はオハラ独自のものであり、世界でもオハラしか実現できません。この技術はHSCの広い焦点面に対して、ゆがみのない良好な結像性能に貢献しています。
先代のSCのレンズにもオハラのガラスが使用されており、初観測から現在まで25年以上、すばる望遠鏡の天体観測を支え続けています。
宇宙から届いた光を分光し情報を得る超広視野多天体分光器「PFS」

(クレジット:PFS Project/ 国立天文台)
すばる望遠鏡の超広視野の天体観測を可能にする最新装置をご紹介します。宇宙の成り立ち・銀河の生い立ちの解明に寄与すると期待される「超広視野多天体分光器(Prime Focus Spectrograph :通称PFS)」です。
2025年2月に運用を開始したこの装置は、HSCと同等の超広視野範囲をカバーし、最大約2400の天体を同時に分光することができます。これまで、すばる望遠鏡に搭載されていた分光器で一度に観測できる天体が約400だったのに対し、PFSはその約6倍。超広視野多天体分光器としての性能の高さが分かります。
分光とは、その名の通り光を分けること。宇宙から届いた光を波長成分ごとに分けて、観測対象の性質や種類、密度、温度などといった情報を得るための計測手段です。HSCが天体を撮影するカメラであるのに対し、PFSは天体から得た情報を解析する役割を果たします。
PFSの特徴は、約 2400 本の光ファイバーによる「目」があることです。この光ファイバーの端面を、目的の天体の位置に合わせて正確に移動させることで、天体の光を分光器まで伝送することができます。2400本の光ファイバーから出射した光は、プリズムと呼ばれる光を分散させる部品によって分けられ、その情報が一度に記録されます。
この光を分けるプリズムに使用されているのが、オハラの「高屈折率光学ガラス」です。

PFSにはこのサンプルの100倍以上もの重量のプリズムが搭載されています
PFSのプリズムに求められる条件は、「屈折率が高いこと」「均質性に優れていること」「指定の分散特性であること」、そして「大きさ」。主鏡で集めた光を受け止めるために、直径300mmのプリズム用光学ガラスが求められましたが、このガラスは主にデジタルカメラ用途で使われる高屈折率ガラスで、通常はここまでのサイズが必要になることはありません。
ですが、大型地上望遠鏡であるすばる望遠鏡においては、求められる部品の大きさも異なります。大型でありながらも高性能・高精度を保証するこのガラスを製造するには、確かな技術力が求められます。
オハラにとっても未知の取り組みでしたが、技術的な検証を重ね製造に成功。オハラが提供した「高均質×高屈折率×超大口径」のガラスが、約2400個におよぶ「目」を活用した分析に活かされています。
「ガラス」という素材で、宇宙・天文分野への貢献を目指す
人類は古くから、宇宙の不思議を解き明かそうと挑戦してきました。なぜ地球には昼夜があるのか、季節の変化はどうして生じるのか、なぜ引力があるのか。それらはすべて宇宙からの様々な影響のもとにもたらされます。先人たちは宇宙について研究することで、私たちが当たり前に感じているこれらの現象を解き明かしてきました。
そして現在は、天文学、宇宙工学、宇宙探査、惑星科学、宇宙生物学など多岐にわたる研究分野に発展し、日本の宇宙・天文研究は欧米に負けない先進的な研究成果をあげています。
宇宙・天文分野においてガラスは、宇宙からの光を集めて情報を得るための素材として重要な役割を果たしています。これからさらに発展を遂げていく宇宙・天文分野の技術革新に寄与できるよう、オハラは「ひかる素材で、未来をひらく」のコーポレートスローガンのもと、高性能・高精度な光学ガラスと特殊ガラスで貢献していきます。
「すばる望遠鏡とオハラのガラス~後編~」では、HSCとPFSに搭載されたガラスの供給にたずさわったオハラ社員のインタビューをお届けします。公開をお楽しみに。
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すばる望遠鏡について更に詳しく知りたい方は、国立天文台のWebサイトをご覧ください。
【出典】
(※)東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)、2017、「超広視野主焦点カメラ HSC による大規模観測データ、全世界に公開開始」(2025年5月7日取得、https://www.ipmu.jp/ja/20170228-HSC_datarelease)
【参考文献】
Webサイト:
国立天文台「すばる望遠鏡」(https://subarutelescope.org/jp/)
国立天文台「すばる望遠鏡2」(https://subarutelescope.org/jp/subaru2/)
東京大学国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(https://www.ipmu.jp/ja)
書籍:
吉田典之『「すばる」がさぐる宇宙の果て ハワイにできた世界一大きな日本の望遠鏡』(2000年、PHP研究所)
野本陽代『巨大望遠鏡時代 すばるとそのライバルたち』(2001年、岩波書店)
海部宣男『宇宙探検 すばる望遠鏡』(2005年、新日本出版社)
