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うすべに

ヘッダーの絵は大橋ちよ様作です。

大橋ちよ様のうすべにが気に入りました。


物語をつくりました。


どうぞよろしければ、お聞きくださいまして、物語を読んでいただければ幸いです。



昔々、それはまだ日本ができるかできないかの頃のお話です。


うすべに


そよ風の神とうすべにの花の神がおりました。そよ風の神は毎年春になるとうすべにの花の元へやってきます。そよ風の歌を歌いながら。うすべにの花の揺れてそれを聴きました。

人々の間では、そのそよ風の歌とうすべにの花の揺れるのを見つけると、恋する二人は結ばれると言い伝えられておりました。


ある日、若い青年と若い少女が恋に落ちました。

しかし、若い少女は高貴な身分。若い青年はとても低い身分でした。なお悪いことには、二人は仲違いする海の国と山の村にそれぞれ住んでいたのでした。

出逢いはこうです。

ある日高貴なお屋敷の、若い少女が外の世界を知りたく思いました。若い少女はボロを纏い、外の様子を眺めにお屋敷を抜け出したのでした。

それで、海と山の見える丘へ。遠く海とお屋敷と、山の方には小さくとなり村。青い空には白い月がありました。

ぼんやり海の方を眺めていると、山の方の茂みからガサガサと音がしました。なにかこわい動物かもしれません。恐ろしい盗賊かもしれません。少女は震えて身構えました。
しかし、ひょっこり顔を出したのは、若い青年でした。

そこで二人は出逢ったのでした。

若い青年は泥だらけなのに、にっこり笑顔をむけて、言いました。

「こんにちは。はじめまして」
少女は驚いて黙ってうなずきました。

「どこから来たのかな?迷ったのかい」
少女は、とりあえず、海の方を指差しました。

「そうか、海の方から来たんだね」
そう、青年があまりに大きくにっこり笑うもので、少女もつい、にこっとほほえみました。

「僕は山の方からさ」
そう言って、青年は近くの岩に腰を下ろしました。少女はどうすれば良いのかもわからず、ずっと黙っています。

すると、青年は歌を歌いました。その歌は、遠く海と山の方へ流れてゆくそよ風のようでした。少女の心は、静かに灯り、そっと揺れるのを感じました。

「またおいでよ。ここはいい丘だろう?」
少女はコクリとうなずいて、二人はにこっと笑い合いました。そして、各々の家へと帰りました。青年は山の貧しい村の家へ。少女は海のお屋敷へ。

少女は白い月がのぼる頃になると、度々お屋敷を抜け出しました。そして、決まってあの丘へ行くようになりました。

二人はひと月に一度、丘の上で歌を歌いました。

そして春夏秋冬……時は流れました。

二人は語り合いました、
「次に会える時は、きっと丘のうすべにが咲いているよ。風にそよぐ歌を歌おうよ」
「ええ。歌いましょう」

そして次逢う春の頃を約束しました。


一方その頃、海の国の大人たちは山の村をなんとかして占領しようと画策していました。


そしてある春のこと、白い月がのぼる頃、少女がお屋敷を抜け出して丘へ行きました。二人はにっこりと手を振って、丘の上で再会しました。

うすべにの咲く丘に、そよ風はふきました。

二人はそっと歌を歌いました。

優しい時が流れていきました。


すると、後ろから海の国の大人たちがあらわれました。

そして、高貴な少女は海の国へと連れ戻されました。

そして、青年は海の国の大人たちに捕まえられて、牢屋へ入れられました。


そして、山の村はそれをきっかけに海の国から脅されることになりました。しかし、小さく貧しい山の村は戦うこともできませんでした。

山の村の人々は祈りました。どうか、若い青年の無事でいてほしいこと、そして海の国から酷い支配を受けないことを。

海の国の少女は、監視をされていました。やはり、青年の無事を祈ることしかできませんでした。

青年は、いためつけられました。そして、ボロボロになって、山の村の人々への見せしめとされました。

そして、処刑されることが決まりました。
処刑の場所はあの丘でした。

明日処刑されるという日、青年は、ボロボロの中、思いました。自分のせいで山の村の人々を巻き込んでしまったことを。そして、うすべにの優しい歌と優しい少女のほほえみを。


処刑の日になりました。
曇天で風は強く、今にも雨が降り出しそうです。そして、青年たちが到着した時刻には、やはり嵐になりました。大きな嵐でした。

山の村も、海の国も、処刑どころではありません。
処刑は中止。
皆避難をしました。

海は荒れ、川は氾濫し、人々は逃げ惑いました。


翌日。海の国も山の村も大惨事でした。

そして、あの少女と青年はいなくなっていました。

海の国、山の村。二つの大人たちは悲しみました。国、村の被害を。そして、大切な少女を大切な青年を失ってしまったことを。


そして、海の国と山の村はまたたてなおそうと、必死に働きました。

いつしか、いざこざもなくなって、力を合わせるようになりました。


そして、数年後、二つの国と村は日常を取り戻しました。


毎年うすべにの咲く頃になると、あの丘へ祈りを捧げに行きます。

二つの国と村の力を合わせてたてなおしたことを忘れないように。

そして、少女と青年、二人の幸せを祈りに。


少女と青年は? きっと大丈夫でしょう。だって、うすべにの花とそよ風の歌を歌いあえたのですから。それは永遠に。




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