ザ・レンタル 2部
第2部 交差する別の世界
シーン1 地球 ― 東京の街にて

唐沢と恵子の肉体に宿った ガイとソラ は、街を歩きながら何度も目を見合わせ笑っていた。
「ほら見て、タイヤで走ってるよ!」
道路を轟音と排気ガスを撒き散らしながら進む車。惑星Zにはない乗り物だ。彼らは腹を抱えて笑う。

次に電車。鉄の巨体が轟音を立ててホームに入ってくる。
「こんなに大きいのに、あんなにたくさんの人が押し込まれて……」
その滑稽さに再び笑いが止まらない。
だが、乗車券の買い方が分からない。改札の前で立ち尽くし、空間ガイドブック(紙に印刷された観光案内)を広げ、必死に解読する二人。周囲のサラリーマンたちは怪訝な視線を送った。

街角に行列。ハンバーガーショップだ。列に並び、初めての食べ物をかじった瞬間――ソラの顔が歪む。
「うっ……苦い! 化学の味がする!」
ガイも吐き出し、口を拭う。その手にあったのは財布から抜いた札束。ナプキン代わりに紙幣を使い、ポイとゴミ箱に捨てた瞬間、周囲の人間がどよめいた。
しかし二人には理解できない。「何かおかしかった?」と首を傾げるガイ。
シーン2 惑星Z ― 唐沢と恵子の初体験
一方、唐沢と恵子の意識は惑星Zの若い肉体に宿っていた。
眼前に広がるのは、限りなく緑が続く大地。空を滑るように移動する巨大なフラットホームが近づき、彼らは自然とそこに乗り込む。音は一切なく、振動もない。
「……すごい」
言葉を失う唐沢。

小さなガイドロボット ホビ が付き添う。
「質問があれば、どうぞ」
だが尋ねる前に、頭の中に答えが流れ込んでくる。迷う必要がない世界。
大きな建物に入ると、野菜や果物、日用品が整然と並び、誰でも自由に持ち帰れる。
「……お金を払わなくていいの?」恵子が震える声で問う。
「こちらでは貨幣は存在しません。必要なものは自由に」ホビが微笑む。
働く姿はアンドロイドばかり。人間はどこにも見当たらない。競争も、怒号も、監視もない。唐沢と恵子は圧倒され、ただ見つめるしかなかった。
シーン3 地球 ― 東京の夜
ガイとソラは東京の繁華街にいた。
路上では大人たちが喧嘩をし、酔っ払いが絡んでくる。
「なぜ? 同じ種族なのに、なぜ傷つけ合う?」
二人は理解に苦しむ。
公園の片隅では、段ボールの上に眠るホームレス。
ガイは懐から札束を差し出した。「必要だろう?」
その男は絶叫し、涙を流しながら地面にひれ伏した。通行人がざわめく。二人はますます分からなくなる。
夜、ホテルの部屋。ベッドに入らず、窓を開けたまま床で眠った。
「息苦しい……」ソラが呟く。
「でも、この星は……すごい」ガイが答えた。
シーン4 惑星Z ― 宇宙図書館

唐沢と恵子はホビに導かれ、巨大な透明ドームの建物に入る。
そこは 宇宙図書館。
「ここには宇宙のすべての記録があります。求めるものを思い浮かべてください」
唐沢は心に問いを投げた――自分の前世は?
次の瞬間、映像が頭に流れ込む。
第二次世界大戦で特攻隊員として散った記憶。江戸時代の大工。戦国の足軽。ネイティブ・アメリカンとして白人入植者に撃たれた瞬間。さらに時代を超えて――。
頭が破裂しそうになり、意識が強制的にストップした。
「……こんな……馬鹿な」唐沢は青ざめた。
恵子もまた、自分の前世を次々と見せられていた。中世ヨーロッパの騎士、ローマ時代の奴隷、日本の明治期の女学生……。
時間は直線ではなく、すべてが同時に存在していることを知った。
二人は震えながら図書館を出て、併設されたカフェテラスに腰を下ろした。
「……時代は順番じゃない。すべてが“今”なんだ」
「……私たち、何を見せられているの?」
言葉を失い、ただ互いの存在を確かめ合う。
シーン5 地球 ― 皇居前
月曜の朝。
ガイとソラは東京駅の人混みに押し潰され、進めず右往左往していた。
「多すぎる……息ができない」ソラが顔をしかめる。
ようやく皇居前に辿り着き、深呼吸。草木の匂いが二人を少し落ち着かせた。
だが、背後から声。
「……おい、唐沢?」
振り返ると、東進レンタルの同僚たちが立っていた。
「無断欠勤だろ! しかもその格好は何だよ」
恵子の姿に気づくと軽く会釈し、「明日は出てこいよ」とだけ言い残し、去っていった。
残されたガイとソラは視線を交わす。
「……危ないな。ここに長くはいられない」
「そうね。だけど、この星は……本当にすごい」
ガイは人差し指をこめかみに当て、合図した。
「そろそろだ。イベントが始まる」
その瞬間、地面が微かに揺れた。
――大地震の前触れだった。
