#1 まったく新しい焚き火のゲームはどうやって誕生したのか─「チルっと焚き火ソン」デザイナーノート連載
はじめに
本連載は、Nintendo Switch 2 向けソフト「チルっと焚き火ソン」の制作過程をまとめたインタビュー記事です。2025/8/8から、毎週金曜日公開で連載していきます。気になる方はぜひマガジン登録を!
「チルっと焚き火ソン」について

チルっと焚き火ソン/Chillin' by the Fire
2025年7月にNintendo Switch 2 でリリース。
これは、炎のゆらぎと音に心を委ねる、まったく新しい焚き火のゲーム。ただ次々に薪をくべていけばよいわけではありません。薪の水分や空気の通り道に気を配り、指先で炎を大きく育てる達成感は格別です。Nintendo Switch2の「おすそわけ通信」にも対応し、遠くの友人と炎を囲む温かな時間を過ごすこともできます。 HDR表現が生む美しい橙のグラデーションとともに、忙しない日常に静かなぬくもりを灯しませんか。
人物紹介
佐々木 隼 / JUN SASAKI
2010年にオインクゲームズを設立。同社が開発する多くのゲームのディレクション、ゲームデザイン、アートワークを手がける。文中では(佐)と記載。
新藤 愛大 / YOSHIHIRO SHINDO
プログラマー・テクニカルアーティスト。オインクゲームズのビデオゲームのエフェクト、アニメーション、インタラクションなどを手がける。文中では(新)と記載。
きゅぶんず / KYUBUNS
プログラマー。小さくて綺麗なものが作りたい。文中では(きゅ)と記載。
土江 智明 / TOMOAKI TSUCHIE
プログラマー。ややこしいものが好き。文中では(土)と記載。
インタビュー
少数精鋭の「レッツプレイ!オインクゲームズ」メンバーで始まった開発
─今作の開発における皆さんの役割を教えてください。
佐)僕は企画とディレクションですね。 ゲーム内の諸々パラメータ調整もやっています。
新)自分はざっくり言うと、プログラミングとUIデザインをやってます。 炎などの見た目にまつわるところのプログラミングを特にやってました。
土)プログラマーです。主に焚き火のシミュレーション部分を作ってました。
きゅ)プログラマーです。 土江さんと新藤さんが一部に特化した仕事をしていて、それ以外の全部を僕が担当している、みたいな感じです。 総括です。
─オインクゲームズには電子部のメンバーがたくさんいますが、なぜこのメンバーだったのでしょう?
佐)このメンバーは「レッツプレイ!オインクゲームズ」の開発チームでもあったんです。「レッツプレイ!オインクゲームズ」で12個ゲームを作り終えて、いったんひと段落という感じになったので、そのままのチームで始まったプロジェクトでした。
このチーム、バランスがいいんですよ。 メンバーそれぞれが、必要なピースをちょうど埋められる構成みたいな感じなんです。 それでもう過不足なくそのままスッと始まりました。ちなみに、「1000m ゾンビエスケープ!」も、ほぼこのチームで作りました。
新)このチームは早く完成させる力が強い、というのもありますね。
きゅ)外部のメンバーでいうと、「ダンジョンマン」ぶりに五十嵐(イカラシ)さんも参加しましたね。
─五十嵐さんの役割は何だったのでしょうか?
佐)五十嵐さんは幅広く仕事をこなせるデザイナーなのですが、オインクゲームズと組むときには、主に3Dモデルが必要なときに、 モデリングやアニメーションをお願いしています。
初めてオインクゲームズと組んだのは、 「伝説の旅団」の前身となった企画のときに、グラフィックとアニメーションのお手伝いをお願いした時です。
その後は、「1000m ゾンビエスケープ!」のモデリング全般や、「ダンジョンマン」のモデリングとアニメーションをお願いしています。
今回の「チルっと焚き火ソン」では、主にアイテムや見た目のバリエーションを制作してもらいました。 テントや椅子、火ばさみ、ナタとかですね。 あとマキもです。
新)最初は、全部自分が3Dモデリングして、量産の部分は五十嵐さんに制作してもらったという感じです。
佐)五十嵐さんは専門学校で教鞭を取るほど、ゲームに精通していて、軽いデータを作ったり、ゲームで使いやすいように3Dデータを整えたりするのもとても上手な人です。そのほか、音楽は、いつもお世話になっている鈴木和巨海(カズオミ)さんにお願いしました。
コタツが焚き火に!?
─なるほど。少数精鋭で制作されたのですね。そもそも、このゲームってどんなゲームなのですか?
新)全く新しい焚き火のゲームです。完全に焚き火しかない、という、本当に「刺身」みたいなゲームですよね。
「刺身」とは…
ゲームを魚料理に例えたときに、「新しい魚を釣ってきて刺身で提供する」か、あるいは「既存の魚の調理法を変えて別の料理として提供する」かの、ふたつの方法があるとオインクゲームズは考えています。
調理法と料理の腕で勝負する道も、もちろんありますが、オインクゲームズは毎回新しい魚の刺身で勝負することを目指しています。
新)いろいろ作っていく過程の中で、「結局、焚き火しかいらない」ということになって、今の形があります。 焚き火のゲーム性に注目したゲームです。
焚き火自体、けっこう奥深くて、マキをくべるだけなんですけど、 量だったりとか太さだったりとか、入れるタイミングとかで全然成長する感じが変わってきたりとかして、取り組みがいがあることなんですよね。
このゲームを一言で表すと何になるのかな?と考えたときに、 「自然と駆け引きするゲーム」というのが今のところしっくりきてます。 いろんな環境とか、マキの具合が予測不能な感じでいろいろ変化する中、うまくやっていく、みたいなところがけっこうおもしろいと思っています。
火というものは、古来から人間と関わりが深くて、燃やしているだけでも楽しいんですよね。 火が大きくなるのを見るだけでも楽しいという側面もあったり、 あとは火を囲んでみんなでコミュニケーションするのが楽しいという、 そういう根源的なところもけっこうあって、 総合的におもしろい遊びになっている作品なのではないかと思っています。
佐)あとはみんなで集まって会話するっていう要素もありますよね。 それは開発当初からコンセプトにあったところです。 「みんなで遊んで楽しいというゲーム」というのも目指して作っていました。
─では、このプロジェクトがどのように始まったのか、教えてください。
佐)このゲームは元々、「レッツプレイ!オインクゲームズ」を作ったという経緯から、みんなで遊ぶボードゲームを、ビデオチャットをやりながら遊んだらおもしろいんじゃないかと、 ビデオチャットとボードゲームを組み合わせたらどうだろう、というところからスタートした企画でした。
─ボードゲームからなぜ焚き火に着地したのでしょうか?
佐)みんなで顔を合わせて遊ぶなら、 その場に何があったらいいか?と考えました。まずボードゲームからスタートしていったのですが、 作ってみると、「レッツプレイ!オインクゲームズ」でやったことの焼き直しになって、 あまり体験が新しくならないなという感触がありました。
「レッツプレイ!オインクゲームズ」は今でも売れ続けているし、 「ボードゲームをオンラインで体験する」という点において、すでにいいものができていると感じていたので、もっとシンプルに、ボードゲームじゃない何かで作っていく方がいいかなと、方針が変わっていったという経緯があります。
そこから、様々な実験をしました。
例えば、みんなで紙風船をつついてみたり、 テーブルでエアホッケーさせてみたり。 あとは、単純に弾の打ち合いさせてみたり。 さらにはそういう小さなゲームを全部一緒にやったらいいんじゃない?みたいな話もあって、迷走したと言ってもいいぐらい、いろいろ試したんですけど、なんかいまいちだなぁと思っていました。

佐)そんな時、ミーティングの最中に 「みんなでやるといえば焚き火じゃない?」という話がポロッと出て。 で、「じゃあ実際に焚き火に行ってみよう」となったんです。「いったん、ちょっとわかんないけど、みんなで焚き火に行ってみますか〜」ってなって、 焚き火に行ったんですよ。
─実際に焚き火に行ったんですね。
佐)焚き火道具をレンタルして、すぐ行きましたね。 このメンバーと、あとその他の社員数名で。

─実際にたき火をしたことで得られたヒントみたいなものはありましたか?
佐)「ゲームのネタとしてどうかな?」という目線で焚き火に取り組んだことがなかったので、新たな発見がたくさんありましたね。
まず前提として、焚き火という体験が純粋にすごくおもしろいということを再発見して、 まさにその時抱えてた課題を解決しそうな感じがしたんです。 焚き火というものが、みんなの真ん中に置くものとしてすごくよかったし、 「これがゲームになったらすごく新しいものになるんじゃない?」という感じがしました。
そのときの焚き火がすごく楽しかったんですよね。 マキ拾いに行ったり、流木を探しに行ってなかなか帰ってこない人がいたりとか、 松ぼっくりを入れたら爆発したりとか、 いろいろおもしろくて。
で、すぐに「これをゲームにするのに取り組んでみよう」ということになって、 そこから一気に焚き火のゲーム作りになったという感じでした。 そこまではね、すごく迷走してたんですよ。
「どうするどうする」ってなってたんですけど、 焚き火に1回行ってからは、 もうそっちに集中して、 一気にまとまっていった印象がありますね。
新)そもそも、最初の段階で「顔画面」が発明されていたのがありますね。
佐)たしかに、焚き火以前に顔画面の発明がありましたね。
ビデオチャットを使ってボードゲームやるっていうネタを考えていた際に、 「Zoomとかのビデオチャットの画面にボードゲームをどう組み合わせるか」と考えていたのですが、 そんな時に「顔画面」というアイデアがあったんです。
「実空間の中に顔の画面を置いて、 それでプレイしたらなんかおもしろいんじゃない?」という。画面がゲーム空間内にそのまま出てきて、 その画面が、いろいろ動いたり、視線を表現できたり、向きが分かる。焚き火のゲームより先に、顔画面ができてたんですよね。
「こういう感じでボードゲームしたらいいんじゃない?」「 これでちょっとビデオチャット作ってみるか」というのを実験して、「顔画面はおもしろいね」っていうのは焚き火に行く前に、すでにチーム内で共有していたことでした。

新)「顔画面がおもしろいね」ってなって、それを軸に、とりあえずボードゲームを囲んでみたらちょっといまいちで、 その次がコタツになりました。
─コタツ?
新)はい。コタツを顔画面で囲んで、さっき言っていた、ホッケーをやってみたり紙風船やってみたりしました。 あとは、ひたすらババ抜きやってた時期とかもあって。
佐)ひたすらババ抜きしましたね。「 ババ抜きをもっと深くするには」みたいなことをずっと考えていた時もありました(笑)。
新)そういう遠いところまで行って、その末に、焚き火に落ち着いたという経緯があります。
土)だいぶ遠かったですね。
佐)ババ抜き、真剣にけっこうやりましたもんね。
きゅ)デスババ抜きが生まれてましたもんね。
佐)そう、デスババ抜き。死神を一個ずつ持つデスババ抜き。
─完全に新しいボードゲームを作ってから、それをデジタルに落とし込むみたいな感じですね。
佐)そうでしたね。
「ボクセル」で解決!リアルな焚き火の制作
─でも、焚き火のゲーム制作に行ったのですね。
佐)コタツの方向は今ひとつ突き抜けなかったし、ゲーム一本として成り立たせるというのがちょっと難しかったんです。まとめ上げ方というか。
─では、焚き火のゲームにしようとなったところで、どこから着手して、どのような流れで制作したのかを教えていただけますか?
佐)まず、『焚き火のすべて』など何冊か本を買って、勉強しました。
─本を買ったんですね。
佐)まず、焚き火というものには何が重要なのかっていうのを、本で調べました。 僕らは素人ながらに焚き火をして、それでも十分おもしろかったけど、 いわゆる焚き火の達人の人たちは、どういうことを気にして焚き火をするのかなっていうのを調べました。 それがゲームで、ちゃんと実現できた方がいいと思ったんです。
焚き火をやる人はどういうことを気にしているのか、そもそも焚き火ってなんで燃えるのかとか、どういうセオリーがあるのか、 どういう仕組みでそういうセオリーが生まれてるのかなど、いろいろ学びました。 で、それをどうゲームに落とし込んでいくかを検討していったという流れです。
そこで、焚き火をリアルにシミュレートすることが、すごく難しいんじゃないかなと感じていました。 すごい複雑系の話というか。複雑系っていうのは、ちょっとした数字の変化が結果にものすごい大きい影響を与えてしまうっていうようなことで、 焚き火というものをそのままシミュレートするということは、温度とか酸素、あと素材の熱伝導のパラメーターとか、いろいろな要素がかなり厳密に絡み合ってて、 それらのどれか一個でも噛み合わないバランスになっていると、全然形にならないんじゃないかな?というのが予想されたんです。なんとなく、ゲームにする前段階で、ですけれど。
そこで、「どういうふうにしたらできますかね?」とミーティングで話しあいました。「ボクセルみたいな単位にして、ひとつひとつの粒度をすごく荒くしたらどうか」みたいな話がありました。
土)大体そんな感じですね。
新)ボクセルっていうのは、ざっくり言えばマインクラフトのように、空間を立方体で区切って、それを最小の単位として考えようという発想のことです。
─四角くて、 ローポリな感じですか?
土)そうですね。実際、ちゃんとした3Dモデルを使って、 焚き火をリアルにやろうとする、というのは、大学の研究みたいな高難易度の作業になってしまうので、 さすがにそれを動かしていくのは無理だなっていうのは、最初の方からわかっていました。 だから、落としどころをどうしようか、というのを考えてました。そこで、現実をボクセルで管理するという方法になったんです。
─現実をボクセルにするとできそうだったんですか。
土)まあ、そうですね。 どれくらいのボクセルの細かさにするかっていうのは考えないといけなかったですけれどね。
やっぱり、空気の流れなどを扱うにあたって、空気って本当は氷みたいに一個一個カタマリとしてあるわけではないけれど、それをある程度のまとまりで扱わないと、どれだけ計算しても終わらない!ってなっちゃうんです。
佐)3Dのモデルで、マキの組み方や、空気が入るのかどうかというところが、 うまくいかないと、焚き火の奥深さが出ないだろうな、と思ったんです。
単に物から物に熱が伝わっていくっていうだけだったら、みっちり埋めればいいわけですよね。 その方が熱が伝わっていくじゃないですか。
でも、何も考えずにマキを組んだのではうまくいかないっていうのが焚き火の重要なおもしろさのひとつなんですよ。 全体のマキが酸素不足にならないように、中の方にも空気が入るように組んでいきたい。
それを実現するためには、マキとマキの隙間というものを、どうにかして判定できないといけなかった。 それが結構難しいんですよ。物理演算ではできないんじゃないかなと思いました。
流体をシミュレートとかまでするのか?というのもあったし、そうやって、そこまで深く取り組んでいって、 結果おもしろくなるのかな?みたいな懸念もありました。
そもそも念頭に、オンラインで通信しなきゃいけないっていうのもあったので、 それを現実的に、どうゲームに落とし込むかという部分が難しいだろうと予想していました。
そこで、土江さんにその辺をいろいろ考えてもらって、 「じゃあ、まずこんな方針でやってみますか」と出てきたのが、その「ボクセルで作る」というやり方だったんです。
ボクセルだったら、マキの隣が埋まっているかどうかというのが一応判別できるし、ボクセル同士のつながりっていうことで空間がきちんとつながってるかどうかみたいなのも判定できそうだったから。


8/15(金)更新予定の「チルっと焚き火ソン」デザイナーノート連載#2に続きます。
次回は「空気」の計算がどのくらいの粒度で行われているのか、火吹き棒と焚き火台のあれこれについて迫ります。
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