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川が出会う場所で、うどんが生まれた。渡良瀬・加須でたどる、水とともに生きる知恵【開催レポート】

森から海までのつながりを「水の路」とともに学ぶ「おいしい流域」プロジェクト。2025年9月13日(土)に、利根川・鬼怒川編の第3回目を川が出会い水がゆるやかな流れに変わる、渡良瀬〜加須エリアで開催しました。

今回のテーマは「川が出会い、うどんが生まれた町」。
この記事では、水とともに暮らしてきた人々の知恵、そしてその恵みから生まれた食文化にふれる一日の様子をお届けします!

おいしい流域プロジェクトとは
おいしい流域プロジェクトは、食を切り口に山から川、そして海までの繋がりについて、子どもたちと共に学ぶプロジェクトです。今年は多摩川流域を題材として全6回のイベントを開催し、山の湧水から始まり、川上から海に至るまでの各回を重ねるごとに下っていくことで、水とともに人々が形成してきた流域における食文化と自然環境、土地の歴史や文化について知り実際に食べて触れて体験していきます。このイベントは、次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる 日本財団「海と日本PROJECT」 の一環です。



今回のナビゲーターは、編集者の小林淳一さんです。また、現地を案内してくださったのは、国土交通省関東地方整備局利根川上流河川事務所 流域治水課正木涼・黒川理基さんと、加須市商工会 杉田恵一さん、加須手打ちうどん協会会長「子亀」三代目店主 岡戸知幸さんです。

水が出会う場所 ― 渡良瀬遊水地を訪ねて

東京駅から1時間半ほど、バスに揺られ向かったのは、栃木・群馬・埼玉・茨城の県境に広がる渡良瀬遊水地。広々とした湿地には、風にそよぐヨシの群れと、空を映す静かな水面が広がります。

ヨシ原のひろがり ― 命と風景を支える草

あたり一面に広がるのは、「ヨシ」と呼ばれる背の高い草。
かつては紙や簾(すだれ)の材料にもなった植物で、いまも多くの鳥や昆虫のすみかになっています。ヨシは湿地の水の汚れを吸収し、風をやわらげ、鳥たちの巣を守る、いわば肺の役割を果たしています。

ただ放っておくだけでは湿地が枯れてしまうため、毎年冬に「野焼き」という手入れが行われています。
広大なヨシ原に火を入れ、古い茎を燃やして新しい芽吹きを促すこの作業は地域の文化。風向きや湿度を読みながら、火のまわりを見守る緊張感は、まるで儀式のようだといいます。

野焼きのあと真っ黒になった地面から、春に新しい植物がいっせいに芽吹き、焼けた土地の上に再び命が宿る光景は、自然の再生を目の当たりにする瞬間だと教えていただきました。

水を貯めて育てる

明治時代、この地域ではたびたび大きな洪水が発生していたといいます。
普段は穏やかな湿地が、豪雨のときには巨大な湖へと姿を変える。そこで、低地帯が広がるこの一帯を守るために、渡良瀬川の氾濫を受け止める「調節池」が造られ、やがて「貯水池」としての役割も担うようになります。

現在では、第1〜第3調節池が連携しながら、洪水時には一時的に水をため、下流域の負担をやわらげる重要な機能を果たしています。水の力を恐れながらも、堤防や水路、そして遊水地という仕組みの中に、「水と共に生きる」ための工夫が息づいています。

地に水をため、必要なときに流す。
水を貯めて育てるという考え方は「湿水(しっすい)」と呼ばれます。

豪雨のときには堤の水門を閉じて遊水地に水を引き込み、水位が落ち着くと、ゆっくりと放水して川へ戻す。「水を貯める」というよりも、「水に居場所をつくる」ためのこの仕組みは、昔の人々が水と闘うのではなく、水とうまく付き合ってきたという証明です。

どこに流し、どこに留めるか。自然のリズムを読む力があったのでしょう。渡良瀬遊水地は、自然が残された場所ではなく、むしろ人の手によって生まれ、育てられてきた湿地なのです。

水車がまわる音の中で ― 水と粉の関係を知る

渡良瀬遊水地を見学したあとは、渡良瀬遊水地のほど近くにある、水車の回る蕎麦屋でお昼ごはんです。

静かな田園の中にある蕎麦屋で、木の水車がゆっくりと回り出し、水の流れが音を奏でます。

この地域は、昔から水の力を使って製粉する「水車小屋」が暮らしの一部だったのだといいます。
粉をひく時間には近所の人々が集い、臼の回転音の中で会話が生まれたという話も聞きました。

冬に麦が育つ理由

香りの強い手打ち蕎麦。一口含むと、少し灰色がかった粉の風味が口いっぱいに広がります。

「外側の黒い皮を取らずに、丸ごと石臼でひいたから、外の黒と中の白が混ざって、グレーになるんです」と小林さん。

また、江戸時代、人々が日常的に食べていたのは、実は米ではなく小麦だったということも教えていただきました。

「関東の冬は晴れる日が多いでしょう。太陽の光が長く照るから、寒くても植物が光をたっぷり浴びられる。だから、寒さに強い小麦なら冬でもちゃんと育つんです」

周囲の山々が雪や雨雲をせき止めて、乾いた風が関東平野へ吹きおろしてくるこの地形が、冬作の小麦を可能にしているのだそうです。

渡良瀬の豊かな水と、冬の太陽。その両方が、この地の食文化を支えてきたことがわかりました。米は年貢として納められ、日々の食卓には、粉にした麦を使ってうどんや蕎麦、すいとんなどをつくっていたのだそう。

粉にするには力がいるため、水車小屋は地域の暮らしの要でした。水の流れが粉をひき、粉が食を生む。まさに、水が“いのちの循環”を支えていたのです。

手で感じる、流域の恵み ― 加須うどん作り体験

お腹がいっぱいになった後は、加須の老舗うどん店子亀店主岡安さんの指導のもと、うどん作りに挑戦しました!

「昔の人は全部手作業でやっていたんですよ」と岡安さん。
江戸時代には、あまりに時間と手間がかかるため「うどん禁止令」が出たこともあるそうです。普段の食卓ではすいとんや団子などの簡単な粉料理を食べ、うどんは祭りや婚礼などのハレの日だけに登場する特別なごちそうでした。

小麦粉に塩水を加え、こね、寝かせ、のばし、細く切る。
一見シンプルに見える工程も、実際にやってみると、職人の知恵と身体の感覚が詰まっていることに気づきます。手のひらで押したときの小麦の香りと弾力や、水加減ひとつで生地のまとまりが変わることを五感で感じたり、子どもたちの表情は真剣そのものでした。

加須うどんの美味しさの秘訣は小麦と水。
利根川流域は肥沃な土壌に恵まれ、古くから小麦の産地として知られてきました。また、うどん作りに欠かせない、やわらかく清らかな水も豊富にあります。この土地の気候と水の恵みが、地域独自の食文化を支えてきたのです。

最後は、岡安さんが打ったうどんを試食。
「もちもちしてる!」「お店のよりコシがある!」と子どもたちは大喜び。自分の手で作ったうどんはお持ち帰りしました。お家に帰って家族みんなで食べることを楽しみにしていました。

“流れをゆるめる”という知恵

道中、小林さんから印象的なお話がありました。

「水って本当に力が強い。でも、その力を上手に使えば、暮らしを助けてくれる。逆に、使い方を誤れば、命すら奪われてしまう。水は両方の顔をもつ存在なんです。水の力を良くも悪くも理解していくことが大事だと思います」

渡良瀬遊水地の広がり、水車のゆっくりとした回転、そして手でこねたうどんのしなやかさ。この日の体験を通して見えてきたのは、「流れをゆるめる」という日本人の知恵でした。

うどんの生地を寝かせる時間、ヨシ原の再生を待つ季節、洪水の水をゆるやかに引かせる遊水地の仕組み。すべてに通じるのは、「急がない」という感覚です。人の営みは、自然のリズムに合わせることで初めて長く続いていく。あらゆる流れが加速していく時代に、渡良瀬の風景が私たちに語りかけているようでした。

最後までお読みいただきありがとうございました。


2026年開催のお知らせ

※詳細は随時Peatixにて公開していきますので、ぜひチェック&フォローしていただけると嬉しいです。






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