【エッセイ】『堪忍の袋と地雷と、キッチンと』第9章:我が家に起きた噴火たち~火山列島に生まれた宿命なのか~
家族には、
説明書が付いていない。
付いていたとしても、
たぶん義母が先に捨てている。
家族って、不思議だ。
笑い合った翌日に、噴火することもある。
穏やかな食卓に見えて、実は足元がマグマのように煮えたぎっている。
我が家も、例外じゃなかった。
義母という“活火山”と、彼女という“火山帯”と、そして未熟な僕という“震源”。
プレートが複雑に重なり合って、ちょっとした一言でドカンといく。
噴火その一:「友達がいないって言いたいの!」
職場に恵まれ、責任者としての立場も得て、
少しずつ“家庭らしい日々”が築かれていた頃。
妻の妊娠もわかり、穏やかな風が吹きはじめていたはずだった。
週末、職場の部下2人を自宅に招いて、ささやかな夕食会を開いた。
久しぶりに「おもてなし」がしたかった。
料理をふるまって、誰かと食卓を囲む。
ただ、それだけのつもりだった。
宴は成功。部下たちは満足げに帰っていき、
僕は酔いの余韻のまま、台所で片付けをしていた。
そして、ふと何の気なしに一言。
「そういえば、君の友達って来ないよね。呼んだらいいのに」
……その瞬間、空気が止まった。
(あれ? なんか、変なこと言った?)
次の一拍で、爆発。
「えっ? なに!? 私には友達がいないって言いたいの!?」
皿を持ったまま、僕は固まった。
ああ……今の一言、完全に地雷だった。
その瞬間、胸の奥に冷たいものが落ちていく。
ああ。
今の一言は、たぶん日本語だった。
でも、届いた先では別の言語になっていた。
その夜、僕は初めてそう悟った。
……とはいえ。
「そんな芸当、俺にできるわけないってば……!!」
心の中で、ひっそり叫んだ。
けれど、声には出さない。
黙って、皿を洗う。
洗剤の泡だけが、静かに弾けていた。
噴火その二:「あなたは裏方でしょ」
今度は彼女の職場の先輩宅へ招かれ部署の食事会。
事前に「料理お願いしていい?」と頼まれ、喜んで快諾。
僕にとって料理は、名刺であり、趣味であり、表現そのもの。人生なのかも。
盛りつけ、味つけ、器選び。
先輩たちの声は賞賛に満ちていた。
「うまい!」
「君は幸せだね〜、毎日こんな料理が食べられて」
彼女の上司や先輩たちが口々に彼女に声をかけ、褒めてくれる。
僕、気持ちよかった。
が、帰宅後、靴を揃える彼女の背中が静かに振り返る。
「なんで私の先輩たちと、あなたが先に盛り上がるのよ。
あなたは裏方でしょ。」
圧力鍋のフタ、ちゃんと閉まってなかったために暴発。
“僕がうれしい”と、“彼女のうれしい”は、必ずしも比例しない。
前に出すぎることで、彼女の居場所を静かに削ってしまうことがある。
僕は褒められて嬉しかった。
でも、
彼女は違ったらしい。
でも、
裏方には、裏方にしかできない、大切な仕事がある。
この夜、ようやくそれを学んだ気がした。
(んっ?連夜の学びですか?)
噴火その三:「あなた、隠し子がいるでしょ!」
それは、長女が我が家にやってきた“最初の夜”に起きた。
出産の感動、家族の歓喜、
そんなものは、我が家の活火山には通用しない。
退院当日。
車で迎えに行き、妻と赤ちゃんを家に連れ帰った。
義母もやってきて、小さなお祝い。
食事も済んで、後片付けをしながら、ふと気づいた。
彼女の赤ちゃんの抱き方が、ぎこちない。
義母も同じ。
二人で「どうする?」と目を合わせている。
初めてだから、仕方ない。
赤ちゃん、ついに大泣きバージョン。
これはアカン。
僕が洗い物の手を止めて近づくと、
四つの目が、助けてと言わんばかりにこちらを見ていた。
赤ん坊を受け取り、抱き上げてあやす。
すると、ぴたりと泣き止んだ。
僕は子どもが好きだった。
従兄の子をよく預かっていたし、抱っこの手つきにも慣れている。
たぶん、少し得意げな顔をしていたのかもしれない。いや、「どうだ!!」と言わんばかりの顔していた。
そのときだった、
「あなた、隠し子がいるんでしょ!!」
とんでもないセリフが、二方向から同時に飛んできた。
妻と義母、まさかのユニゾン調ダブルパンチ。
理不尽?
我が家に、そんな概念は存在しなかった。
はい。しっかり、圧力鍋の蓋は閉めるようにしようね。
噴火その四:「なんで泣くの!」
ある夜。
夜泣きする娘を抱いた彼女の声が、ふと耳に届いた。
「なんで泣くの」
何気にふと見ると、赤ん坊を、揺すっていた。
僕はすぐに子を抱き取り、何も言わず、抱いたまま外に出た。少し夜風に当てて寝かしつけた。
その日から、夜間は僕の担当となった。
誰が決めたわけでもない。
気づいたら、そうなっていた。
住宅街を抱っこで歩くのが、僕の“夜のルーティン”となる。
1歳を過ぎても夜泣きは続いた。
朝の出勤時、背後で娘が泣く。
そのたびに、僕の中の“何か”も泣いていた。思いっきり後ろ髪引かれていた。
噴火その五:「秘伝があるって口にするな!!」
僕は料理が得意だ。人生そのものなんだ。
独身時代、飲食の現場で鍛えられたおかげで、包丁を持てばそれなりにサマになる。
学生時代、バイト先の居酒屋の親父から「包丁やるから、店に残れ。」って、口説かれたことがある。んっ?そう言えば、最近もあった気がする!?
そんな僕の腕が披露されたのは、ある年末の親戚の集まりだった。
親戚一同が集う一大イベント。
料理が苦手な家族に代わり、僕の包丁が輝くステージだ。
そして、いよいよメインディッシュ。
ローストビーフ、ローストチキン、
そこに合わせた、秘伝ソース。
みんな「おいしい!」と盛り上がる。
そのとき、
義叔父のひと言。
「このソース、すごい美味いね。お手製?」
僕が答える前に、義母が前のめりで割って入る。
「そうなんです!」(ドヤ顔)
え? 僕が作ったんですけど?
その後、義母がソースの秘密を聞きにきた。
「隠し味、あるのよね?」
「まあ、うちの秘伝なんで」
「私に教えないって? 家族でしょう?」
金切り声寸前の空気。
僕は慌てて答える。
「あ、味噌です。ほんのちょっとだけ。」
義母は満足げにうなずいたが、僕は静かに悟った。
“秘伝って、言った時点で負け。”
火加減ひとつで美味にもなるし、爆発もする。
暮らしとは、まさにそういうものなのかもしれません。
噴火の裏側:「お弁当!!」
新しい職場も決まって、張り切っていた、あの頃の僕。
一応新婚さんいらっしゃい!!状態だったので、やっぱり愛妻弁当に憧れていた。
でも、それを期待するのも何なので思い切って彼女に提案。
「俺が二人分作るよ!!」
卵焼きはハート形。
ケチャップもハート。
海苔💖、シャケ💖、そぼろ💖、梅干し💖・・・。
とにかくハートで埋め尽くした。
もちろん職場の後輩たちには胸を張って言った。
「愛妻弁当でーす。」
そんな自慢の日々。
…でも、胸の内は少しだけチクチクしていた。
彼女は職場で、いったいどんな顔をして食べていたのだろう?
章あとがき:噴火も家族の“体温”です
人は皆、それぞれ火山を抱えて生きているのかもしれません。
沈黙というマグマ。地雷という導火線。そして、突然の噴火。
でも、噴火したって、壊れたって、
修復できるのが「家族」なんだと思います。
少なくとも、僕はそう信じたかった。
この章では、そんな家族の“火山活動”の記録を綴りました。
噴火の理由は、言葉だったり、気配だったり、ソースだったり。
やっぱり大事なのは、「火加減」と「鍋のフタ」ですね。
ちなみに、
「秘伝があるなら、秘伝があるって言うな」
これはもう、我が家の家訓にしようと思います(笑)。
そして次章では、いよいよ僕が自ら“巨大な地雷”を踏みにいく番です。
「島に帰る」という選択が、どれだけの揺れを生むのか。
そりゃあもう、南海トラフ級ですよ。
それでも、僕は動き出します。未来のために。
だって、人生は火山列島。
立ち止まっていたら、埋もれちゃいますからね。
そう。
人生、歩かなきゃならない。
進まなきゃならない。
たとえ、
次の噴火口が見えていたとしても。
そんな火山列島で生き抜くために、最後にひとつだけ
家康公(たぶん)からの教えをお届けします。
「怒りは敵。男は黙ってハイボール。」
徳川家康(たぶん)
キレる前に、まず5秒待て。
怒鳴るより、黙って茶でも淹れた方が、勝ち筋が見えてくる。
感情で突っ込むと、だいたい地雷を踏むのは自分。
家康式「怒らぬは勝ち」メソッド、現代のリーダーにもおすすめです。
ただし、キッチンに立つなら、ハイボールは危険!!
巻末レシピ【我が家の万能ソース(作り置き版)】
分量:約600~700ml/冷蔵庫で1〜2週間保存可(清潔な保存瓶で)
材料
・醤油:150ml(1カップ弱)
・酒:120ml(大さじ8)
・砂糖:大さじ3
・みりん:120ml(大さじ8)
・おろしショウガ:大さじ2(できれば生をすりおろす)
・おろしニンニク:大さじ2(できれば生をすりおろす)
・すりおろしリンゴ:1/2個分(約100g)
・すりおろし玉ねぎ:1/2個分(約100g)
・みじん切りネギ:白ネギ1本分
・鷹の爪:お好みの量刻んで
・隠し味:味噌(味噌ならなんでも可)大さじ1
・新・隠し味:塩糀小さじ1
作り方
1.小鍋にすべての材料を入れて、弱火〜中火にかける。
2.焦げないようにかき混ぜながら、味噌が完全に溶けるまでしっかり火入れ。
3.沸騰する直前で火を止め、とろみと香りが立ったら完成。
4.粗熱をとり、清潔な保存瓶などに入れて冷蔵庫へ。
おすすめの使い方
・焼き肉のタレ(追いごま油で深みアップ)
・唐揚げの下味&仕上げタレ
・冷しゃぶのたれ(酢を少し加えると◎)
・ローストチキン/ローストポークの仕上げソース
※アルコールを飛ばした赤ワインを加えると美味い。
※ちょっとムカついたとき、冷蔵庫を開けて深呼吸しながら眺める“心の保険”
※瓶の中のソースを見ていると落ち着くんです。
台所・心の一句:「秘めし味 さりげなさ故 気にかかり」
