【エッセイ】『堪忍の袋と地雷と、キッチンと』~戦国武将とサレ夫が教えてくれる「生き抜く知恵」前編
はじめに

僕の結婚生活は、
戦国時代より少しだけ平和でした。
少なくとも、
槍で刺されることはありません。
ただし、
地雷はありました。
しかも、キッチンに。
僕がそれに気づいたのは、
玉ねぎを刻んでいるときです。
トントントン。
包丁の音が、
静かな朝のキッチンに響いていました。
平和な光景ですよね。
僕もそう思っていました。
その瞬間までは。
ドッカーン。
……もちろん、
本当に爆発したわけではありません。
ただ、家庭という場所には、
ときどき地雷が埋まっています。
言葉の地雷。
沈黙の地雷。
そして、なぜか僕だけが踏む地雷。
うっかり踏むこともあるし、
分かっていて踏むこともあります。
爆発します。
それでも翌朝になると、
僕はまた玉ねぎを刻んでいました。
家庭って、そういう場所です。
あんなに爆発したのに、
朝になると普通に味噌汁を作っている。
娘の弁当を詰めている。
人間って、意外とタフなんですね。
そんなある日、
僕はある人物の言葉を思い出しました。
徳川家康です。
「堪忍袋は首に下げよ。破れたら縫え、また縫え。」
……裁縫家みたいですよね、家康さん。
ちなみに僕も裁縫はできます。
ミシンは、あの針が上下するだけで縫えてしまうのが、いまだによくわかりませんが、
僕は手縫い派です。
ただ問題は、
僕の家の堪忍袋は、
縫っても縫っても破れることでした。
理由は簡単です。
我が家のキッチンには、
堪忍袋より先に
地雷が敷き詰められていたからです。
この本は、
そんな家庭という戦場の中で
ときにサレ夫としてしくじり、
ときに戦国武将の言葉をスマホで検索しながら
フライパンを振っていた
一人の男の記録です。
読む人によってはコメディ。
またある人には、
サバイバルの指南書?
そしてたぶん、
自分の中に何人か住んでいる人には、少しだけ他人事ではない話です。
キッチンの湯気の向こうに見えた空と匂いを、
僕は書き残しておこうと思いました。
堪忍袋の縫い目からこぼれた愛。
地雷の爆発跡に咲いた笑い。
どこにでもありそうで、
どこにもない、
家族と僕の
生き抜き方のレシピ帳です。
そしてもうひとつ。
この物語には、
いろいろな僕が出てきます。
怒る俺。
笑ってごまかす僕。
計算している俺。
そして、
ただ黙って
生き延びようとしている僕。
人は、
ひとつの感情だけで生きているわけではない。
その場、その時、その空気で、
自分の中の誰かが立ち上がる。
たぶんこの本は、
そんな「いくつもの僕」の記録でもあります。
湯気が立っているうちに、どうぞ。
あ、そうそう。
文中では「僕」と「俺」が混ざりますが、
どちらも同一人物です。
安心してください。
僕です。
第1章:出会いの光、予兆の影
~義実家・離れ居候生活~
新婚初陣。キッチンはすでに関ヶ原だった。
そもそも、僕らは電撃結婚というやつでした。
お互い京都の通信大学の学生同士で、夏のスクーリングで出会った。
出会って数回、ほんと二〜三回会っただけで「結婚しよう」となった。
お酒も手伝って、その夜はずいぶん景気よく話が進んだ。
夏の夜の熱と、若さ特有の勢いと、たぶん少しの勘違い。
そんなものが全部まざって、そのまま未来まで話が飛んだ。
若さってすごい。盛り上がると、そのまま人生にゴールインしてしまうらしい。
2026.4.29公開↓↓↓
https://note.com/preview/n357c7e293ccb?prev_access_key=37197d51bb1f58c80584d76881f2a0f9
第2章『冷蔵殿、こちら側に寝返る』
~小早川冷蔵殿との出会い、そして味噌汁と人生の火加減~
冷蔵庫に、寝返りを促していた。
無職になった翌朝のことである。
僕はそっと、冷蔵庫と向き合った。
扉を開けると、やはり想像通りの世界が広がっていた。
「温めるだけで幸せご飯」の満載室。
冷凍室も同様、冷えた温もりの宝庫。
僕は小声で語りかける。
「冷蔵殿。おぬし、このままでよいのか。
冷蔵庫として生まれしその使命、今こそ果たすときではないか。
悪いようにはせぬ。当方に加勢いたせ!」
なぜ僕は朝から冷蔵庫に戦国口調で話しかけているのか。
https://note.com/preview/na029fe286ad6?prev_access_key=c69c646ed1db25f0088a366742175979
第3章:筋を通せば、地雷踏む。命どぅ宝
~暮らしの重さ、誇りの灯~
新婚旅行に、義母がついてきた。
しかも、本人はまったく悪びれていない。
あれは便乗ではない。堂々たる乗車である。
無事、就職も決まり、大工の見習いとして汗まみれの毎日を送りながら、居候生活も二か月目に突入しようとしていた。
彼女は七月、京都の大学へスクーリング。
僕らが出会った場所でもある京都で、入籍と、ささやかな新婚旅行をしようという段取りだった。
(中略)
翌朝、朝五時。
リュックひとつの荷物を車に詰め込み、運転席へ。
エンジン良好、心も上々。お気に入りのCDもセット完了。
それではレッツ・ゴー。
ガチャッ。
助手席のドアが開く音。
そこに、満面の笑みの義母。
「私も行くわ」
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第4章:祝福のはずが、深夜のベルが鳴る
~新婚旅行でまさかの逃避行~
義母は、金沢駅で振り返らなかった。
満面の笑みのまま、そのまま構内へと消えていった。
僕は駅前ロータリーで、エンジンを切らずに待機した。
念には念を。
運転席を降りたり、うろついたり。
周囲のタクシー運転手に怪しまれる寸前。いや、もう十分に怪しかった。
そして、ようやく確信した。
義母が、いない。
ここから、
僕の真の新婚旅行が、静かに始まった。
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第5章:静かな箸の音、誰も笑わない入籍日
~第1回夫婦喧嘩選手権・すき焼き杯~
早朝。ようやく見つけた、街はずれの小さな公園。
そこには、“無償の愛”ならぬ無料の駐車スペースがぽつんとひとつ。
車を止めて、シートを倒し、僕はほんのつかの間、目を閉じることができた。
まるで現実がワイパーで拭き取られたような静けさだった。
そのときはまだ、「明日起こる嵐」を想像もしていなかった。
数時間後、京都市役所。嵐の始まり。
準備してきた婚姻届けを手に、満面の笑みで窓口に立つ僕と彼女。
「婚姻届けはここでは受付ていません。区役所へ行かれてください。」
えっ? 区役所?
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第6章:スリッパ片手に、夜の田んぼ道
~みそ汁のジャガイモが引いた、地雷の導火線~
あの夜、僕はスリッパを片手に、田んぼ道を走っていた。
新婚二日目の夜のことである。
原因は、みそ汁のジャガイモだった。
大工の棟梁の計らいで、借家を借りることが決まっていた。
京都から戻ったその次の週末いよいよ引っ越し。
なんだかんだで過ごしてきた“義実家の離れ”も、
いざ出るとなると、ほんの少しだけ寂しさが湧いた。
でも、すぐに打ち消した。
「ダメダメ、お人よしは損するぞ」
そう、自分に言い聞かせて。
荷物を運び出す僕の背中に、義母が優しく(!?)声をかける。
「たまにはご飯作りに来てね」
それはまるで優しさをオブラートに包んだ圧力弾を投げられた感じであった。
こうして、やっと始まった新居での新婚生活。
そして、その二日目の晩だった。
https://note.com/preview/n56b25f42eb9f?prev_access_key=690c6baad3d57d958244191024f6b1b0
第7章:煮物と火山性地震
~みんな、いろいろあるよね~
彼女には、料理の経験があまりなかった。
というより、“温めるレシピ”しか知らなかったのかもしれない。
いや、彼女が悪いわけじゃない。
お弁当も、毎朝きっちりとお義母さんの手作りだった?
もしかすると、お祖母ちゃんの弁当だったのかもしれない。
あまりキッチンに立つ機会のなかった彼女は、
僕と結婚して初めて、毎日のごはんと向き合うことになった。
きっと、焦っていたと思う。
そんな彼女に、僕はノートを一冊買った。
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第8章:ノミと涙と春の門出
~僕、けっこう優秀なんです(笑)~
春になる前、僕は三社から内定をもらっていた。
数十人の応募者の中で、全部トップ通過。
つまりそのときの僕は、ちょっとだけ無敵だった。
自分で言うのもなんだけど、
けっこう優秀だったんです(笑)。
就活した3社、すべて合格。
それもただの合格じゃない。
数十人の応募者の中でトップ通過。
しかも3社とも新規立ち上げ事業の責任者クラス。
書類選考を勝ち抜き、筆記も面接も高評価。
気がつけば、“全部合格”という無敵モード。
ひとつは、義母の紹介というか、
亡くなったお義父さん側の親族が試験情報をくれて、
義母は完全に「そこに就職する」と思い込んでいた。
でも、その法人、政治団体系ががっつり系で、無理。
結局、自分で見つけた新潟市内の法人に決めて、
他の2社には丁重にお断りの連絡。
そして、やって来ました、例の地響き。
「なんで断るのよ!!」
https://note.com/preview/n9ab54900fb3b?prev_access_key=489a766d6ed4e9b674f15811299b6bc1
前編を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
このエッセイは、前編(全八章)・中編(全八章)・後編(全八章)――気づけば、意外と長編になってしまいました。ごめんなさい。
でも、僕の結婚生活(ある意味、黒歴史……いや、半分は幸せだったから、グレー歴史かな?んっ!グレーレキシ?グレ騎士?だいたい、こんな感じで妄想するのが僕の癖です😌)を描ききるとなると、どうしてもこの長さになりました。
さて、中編はいよいよ沖縄編に突入します。
第9章 我が家に起きた噴火たち
火山列島に生まれた宿命なのか
第10章 葛藤そして決断
「お前は帰って来ないだろ?」
第11章 説得工作、新たなる戦場の舞台へ
移住への説得工作は、熾烈を極めた
第12章 島から、再び
引っ越し、それって「やり直し」じゃなかったの?
第13章 嵐の中の築城、そして脱藩?
マイホームは夢の城か、地雷の要塞か
第14章 独立起業とカルシウム
40代、骨と希望は折れやすいけど、ちゃんと育つんです
第15章 湯気の向こうにあったもの
闘いの幕が開いた。けれど、独りじゃなかった
第16章 寝る暇なくても、それでも、日々はまわる
俺の一日、24時間営業、定休日なし
本当に、波乱万丈ってあるんだなあ……と、夜な夜なバンジョー片手に、僕の脳内ではドタバタ劇場が続いております。
それでは、中編でお待ちしています。
