AIでロゴを作ろうとしたら、「人はなぜ店に入るのか」を考えることになった話
note でイベント記事を見つけた。
お店のロゴデザインを募集しているらしい。
私は、こういう参加型のイベントが好きだ。
普段なら絶対に作らないものを作れるし、知らない分野をあれこれ考えるのも面白い。
「これは、ちょっとやってみたい」
そう思って参加した。
採用されれば、5,000円分のチップももらえるらしい。
もちろん、そこにも少しだけ背中を押された。
いや、少しだけかどうかは置いておこう(笑)
5,000円あれば個室酒場で生2杯は飲める。動機としては十分だ。
募集されていたのは2種類
今回の募集対象は、
「個室酒場 あじ彩」 — 落ち着いた大人の個室居酒屋。
「AJI彩 -ajisai-」 — 若者やインバウンド向けの、もう一つの顔。
同じ店なのに、見せる相手が違う。ここが面白いと思った。
まず、AIに日本語が通じない
最初は甘く見ていた。
Claudeにプロンプトを書かせて、画像生成AIで何案か出せば形になるだろうと。
使ったのは、ChatGPT、Gemini、Grok、ローカル環境のStable Diffusion。
ひとつでうまくいかなければ、別のAIを使えばいい。
ところが、まず日本語が入らない。
「あじ彩」が別の店名になる。
「彩」が存在しない漢字になる。
「-ajisai-」のつづりも崩れる。
提灯には、読めそうで読めない謎の料理名まで並んだ。
雰囲気だけは完璧な、読めない看板の量産体制が整ってしまった。
見た目は完成しているのに、看板としては使えない。
AIの「なんかそれっぽく見せる力」だけは本当にすごい。中身は空っぽでも、堂々としている。どこかの会議資料みたいだ。
本当に沼ったのは、文字化けではなかった
ただ、本当に沼った理由は文字化けではなかった。
画像がきれいにできるたび、別の疑問が出てきたのだ。
「これを見て、本当に店に入りたくなるのか?」
最初に作ったのは、黒い背景に「彩」が光る看板だった。
高級感がある。格好いい。歌舞伎町でも目立ちそうだ。
でも、見直すと何の店かわからない。
バーなのか。居酒屋なのか。食事ができるのか。値段が高そうではないか。
格好よさを優先した結果、店の中身が消えていた。
デザインが良くなるほど、店が遠くなる。おかしな話だ。
Claude → 画像生成AI → 没、の無限ループ
そこで Claude に戻る。
「もっと若い人が入りやすくして」
「高級感を消して」
「酒と料理がある店だと伝えて」
「個室の意味を見せて」
「場所は新宿歌舞伎町やで」
プロンプトを直し、また画像生成AIへ入れる。
白く光る看板。
暖色のネオン。
料理写真を並べた看板。
大きなガラス窓から店内が見える外観。
巨大な水彩の「彩」。
小鉢を並べた木の盆。
乾杯する二人の手。
障子の向こうに見える宴会の影。
出す。見る。何か違う。壊す。また作る。
気づけば、フォルダは没画像だらけになっていた。
どんだけ作ってんねん。
自分のグーグルクラウドだけが着実に圧迫していく(笑)
没が増えるほど、「違う」の輪郭が見えてきた
だが、没が増えるたびに、「何か違う」の中身は少しずつ具体的になった。
若者や観光客向けの「AJI彩」に必要なのは、謎めいた高級感ではない。
料理やカクテルが見える。
店内の雰囲気がわかる。
明るくて、初めてでも入りやすい。
写真を撮りたくなる見た目と、「ここなら入っても大丈夫」と思える安心感。その両方が要る。
一方、「個室酒場 あじ彩」で見せるべきものは、個室そのものではなかった。
小鉢が並ぶテーブル。冷えたビール。徳利とお猪口。
友人と乾杯する瞬間。障子越しに見える料理と人影。
客が欲しいのは部屋ではない。
好きな人と、周囲を気にせず飲める時間だ。
個室酒場の看板で見せるべきなのは、部屋ではなく、その部屋で始まる夜だった。
看板は「不安を消すもの」だった
途中から、私はロゴではなく、店に入る直前の人の気持ちを考えていた。
何の店なのか。自分が入ってもいいのか。値段が高そうではないか。中はどんな雰囲気なのか。
看板は、店名を知らせるだけのものではない。
店の前で感じる不安を、一つずつ消すもの なのだと思った。
知らない店の前で立ち止まったとき、背中を押してくれるのは口コミでもSNSでもなく、目の前の看板だ。
AIは正解を出す機械ではなかった
Claude はプロンプトを作ってくれた。
ChatGPT、Gemini、Grok、Stable Diffusion は、数え切れないほどの案を出してくれた。
だが、何が怖く見えるのか。誰に来てほしいのか。どの案を捨てるのか。
そこは、自分で決めるしかなかった。
AIは正解を出す機械ではなかった。考える材料を、止まらない勢いで出してくる相手だった。
今回沼ったのは、AIがうまく画像を作れなかったからではない。
一枚作るたびに、「人はなぜこの店に入るのか」を考え直すことになったからだ。
ロゴを作っていたはずが、最後には「この店に入りたくなる理由」を考えていた。
AIに手伝ってもらったのは画像生成だが、AIに教えてもらったのはデザインの話ではなかった。
「人が安心して扉を開ける理由」の話だった。
以下が、何度も作っては壊した看板デザインです。









看板募集の
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