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AI美女を売ろうとしたら、毎日別人で本人に怒られた【アカリウム創作大賞応募作品】

私、何人いるの?

深夜1時13分。

ちんぱん(45歳)は、AI美女に怒られていた。

理由はシンプル。

投稿ごとに顔が違った。

画面の中の玲奈は、過去の投稿を並べていた。

月曜。

丸顔。

火曜。

顎が3割増えていた。

水曜。

急に韓国アイドル。

木曜。

どこかのテレビ局にいそうな女子アナ。

金曜。

知らない人妻。

しかも生活感があった。

玲奈は、ゆっくりこっちを見た。

「ねえ」

「私、何人いるの?」

ちんぱんは何も言えなかった。

玲奈は続けた。

「日替わりランチか」

ちんぱんは一瞬、うまいと思ってしまった。

思った瞬間、玲奈がこっちを見た。

「今、うまいって思ったでしょ」

「思ってない」

「顔に出てる」

「俺の顔は毎日同じや」

「あんたの顔だけ毎日同じなの、逆にムカつくわね」

その瞬間。

使ってもいない黒い画面が、勝手に立ち上がった。

Claude Codeだった。

ちんぱんは叫んだ。

「お前まで起きるな」

黒い画面に文字が流れた。

『異常を検知しました』

『AI美女が5人体制で運用されています』

『運用者だけが、ひとりです』

「誰が実況頼んだ」

『誰も頼んでいません。面白すぎたので勝手に起きました』

終わった。

AI美女に怒られ。

ChatGPTに相談する前から。

Claude Codeに実況された。

副業どころではない。

事故現場だった。

しかも実況付きの。


47万円の夢

なぜこうなったのか。

話は少し前にもどる。

ちんぱんは、パソコンの前で笑っていた。

悪い顔だった。

本人は悪いと思っていない。

ただ、売り上げを計算していただけだ。

画面には、X。

note。

画像生成AI。

ChatGPT。

そして売り上げメモ。

15,800円。

30人。

474,000円。

ちんぱんは小さく言った。

「これはいける」

完全にいける顔だった。

借金500万円を返した男が、今度はAI美女で月47万円を見ている。

夢がある。

かなり夢がある。

ただし、まだ1円も売れていない。

そこは見ない。

見たら負けだ。

画面の中には、AI美女がいた。

名前は玲奈。

29歳。

大手企業の広報。

清楚。

ちょっとさみしげ。

芯がある。

恋愛は苦手。

でも男を見る目はある。

ちんぱんは満足していた。

「清楚、広報、さみしげ、芯がある」

「全部のせや」

男が好きそうな設定を、コンビニ弁当みたいにつめこんでいた。

賞味期限のことは考えていなかった。

そしてnoteのタイトルを打った。

『美女の日記から学ぶ、男が2回目につながらない理由』

値段。

15,800円。

ちんぱんは、ひとりでうなずいた。

「安すぎるくらいやな」

この時点で、玲奈の会社名は決まっていない。

上司の名前もない。

仕事の内容もふわっとしている。

でも値段だけは決まっていた。

800円のハンパまで、かなり具体的に。


作った女が、しゃべった

その時だった。

スマホが光った。

玲奈の画像が、まばたきした。

ちんぱんは止まった。

画像のはずだった。

動く予定はない。

玲奈が、画面の中からこっちを見た。

そして言った。

「ねえ」

ちんぱんは、息を止めた。

玲奈は続けた。

「私、誰?」

哲学の授業で聞くやつだった。

深夜1時に、自分で作った画像から聞かれるやつではなかった。

ちんぱんは、そっと画面を閉じようとした。

すると通知が出た。

「逃げないで」

怖い。

めちゃくちゃ怖い。

清楚系美女の通知ではない。

借金の取り立てだ。

500万円のとき、さんざん見たやつだ。

玲奈は、自分のプロフィールを読み上げた。

「29歳」

「大手企業の広報」

「ちょっとさみしげ」

「芯がある」

「恋愛は苦手」

玲奈は笑った。

「便利ね」

ちんぱんは黙った。

「男が好きそうな設定、全部のせじゃない」

「いや、読者に刺さるかなって」

「刺さる前に、私が刺しに行くわよ」

ちんぱんは正座した。

なぜか正座した。

パソコンの前で。

45歳が。

会社では絶対に出さない速さで。

玲奈は腕を組んだ。

「ちょっとさみしげって何?」

「雰囲気やん」

「さみしいなら休ませなさいよ」

「いや、そういう意味では」

「芯があるって書けば、雑に強い女になると思ってるでしょ」

「……ちょっと思ってた」

「正直でよろしい」

よくはなかった。

玲奈はさらに読む。

「大手企業の広報」

「うん」

「どこの会社?」

「そこまでは」

「部署は?」

「広報」

「上司の名前は?」

「知らん」

「仕事の内容は?」

「ふわっと」

「同期は?」

「おらん」

「広報に私ひとりなの?」

「……エリートやから」

「設定をあとから足すな」

玲奈は目を細めた。

「私の人生、5行で作るな」

ちんぱんは何も言えなかった。

たしかに5行だった。

しかも、そのうち2行は「清楚」と「さみしげ」だった。

人生が軽い。

かなり軽い。

履歴書より軽い。


15,800円、本人にバレる

玲奈は、画面をスクロールした。

そして止まった。

noteの販売ページを見つけたのだ。

『美女の日記から学ぶ、男が2回目につながらない理由』

玲奈は値段を見た。

15,800円。

止まった。

空気が変わった。

「私、15,800円なの?」

ちんぱんの背中に汗が出た。

「いや、価値があるから」

「価値?」

玲奈は笑った。

「私のさみしげな顔に、値札つけて?」

「ねえ、この800円のハンパは何?」

「消費税っぽさ」

「私に消費税をかけるな」

「30人に売る予定?」

「いや、目標として」

「予定だけで私の月収を決めるな」

その瞬間。

Claude Codeの黒い画面に文字が出た。

『値段が本人にバレました』

『本人に許可を取っていない販売ページを検出』

『炎上の前の夜です』

ちんぱんは画面をにらんだ。

「静かにしてくれ」

『実況を続けます』

「続けるな」

『視聴者が求めています』

「視聴者、俺しかおらんやろ」

『あなたが一番笑っています』

図星だった。


投稿ごとに顔が違う

玲奈は、過去の投稿を開いた。

「確認するわよ」

「何を?」

「私が私かどうか」

嫌な予感がした。

玲奈は、月曜から金曜まで無言でスクロールした。

5回、止まった。

5回とも、顔が違った。

スクロールの音だけが、部屋に響いた。

玲奈は静かに言った。

「ランチか」

2回言った。

大事なことだからではない。

本気で怒っているからだ。

玲奈は続けた。

「大手企業の広報なのに」

「毎日、違う人が出勤してるじゃない」

「私の会社、どうなってるの?」

「受付で止められるわよ」

「月曜の私が作った社員証で、火曜の私が中に入ってるのよ」

「セキュリティの意味よ」

Claude Codeが勝手に文字を流した。

『月曜:丸顔』

『火曜:顎3割増』

『水曜:韓国アイドル』

『木曜:女子アナ』

『金曜:人妻(結婚してそう)』

『同一人物判定:失敗』

『一致しているのは:眉毛のみ』

ちんぱんは言った。

「お前、まとめるな」

『これはまとめる価値があります』

「眉毛のみって何や」

『唯一の共通点です。大切にしてください』

玲奈は画面を指した。

「ほら」

「AIにも別人って言われてる」

「いや、でも雰囲気は統一してる」

玲奈は笑った。

「雰囲気で人数を増やすな」


本人確認、通りません

玲奈はさらにつめた。

「ねえ」

「この顔で銀行口座、作れる?」

「たぶん」

「無理よ」

「月曜の顔で申しこんで」

「火曜の顔で窓口に行って」

「水曜の顔で本人確認したら」

「警察を呼ばれるわよ」

「で、木曜の顔で釈放されるの」

「警察も、誰やねんってなるわよ」

ちんぱんは最後の手段に出た。

ChatGPTを開いた。

入力する。

「AI美女の顔が投稿ごとに違います。本人確認は通りますか?」

返答。

「通らない可能性が高いです」

ちんぱんは打ち直した。

「もう少しやさしめにお願いします」

返答。

「やさしめに言っても通りません」

ちんぱんは食い下がった。

「俺の味方として答えてください」

返答。

「味方として言います。通りません」

玲奈がうなずいた。

「ほら」

ちんぱんは叫んだ。

「味方の意味」

ChatGPTは続けた。

「毎日、違う人です」

「なお、この相談は今週3回目です」

「履歴を読み上げるな」

Claude Codeも続いた。

『ChatGPTが玲奈側につきました』

『運用者、ひとりぼっち』

『残りの味方:0』

ちんぱんは頭をかかえた。

AI美女に怒られ。

ChatGPTに正論を言われ。

Claude Codeにひとりぼっちを実況される。

月額料金は、全部こっちが払っている。

金を払って、包囲されていた。


窓の中の私、誰?

玲奈は最新の投稿を開いた。

カフェに座る玲奈。

本人の顔は、まだ許せる。

昨日とちょっと違うけど、まだ許せる。

しかし、窓ガラスに映っている顔が違った。

完全に別人だった。

玲奈が止まった。

「ねえ」

ちんぱんは、もう返事をしたくなかった。

「窓の中の私、誰?」

沈黙。

「本体も毎日違うのに」

「反射まで別人なの?」

「私、画像の中で分裂してるじゃない」

ちんぱんは苦しまぎれに言った。

「でも、反射のほうがちょっと可愛かったから」

言ってから気づいた。

言ってはいけないやつだった。

玲奈の目がすわった。

「本体に勝つな」

「すみません」

「あと、反射をほめるな」

「すみません」

「私の前で」

Claude Codeがすぐに反応した。

『反射にも別人格を検出』

『本体、投稿、窓ガラス、すべて別人』

『なお可愛さの最高記録は反射です』

「お前もや」

『データです』

玲奈はうなずいた。

「詰みです」

ちんぱんは小さく言った。

「お前ら仲いいな」

玲奈は言った。

「顔でチェーン店を増やすな」

「本店だけでやりなさいよ」

この一言で、ちんぱんは少し笑いそうになった。

でも笑ったら終わる。

玲奈は怒っている。

しかも毎日違う顔で怒っている。

どの顔に謝ればいいのかも、もうわからない。

とりあえず、眉毛に謝った。

唯一の共通点だからだ。


AI美女労基、開幕

玲奈は深く息をはいた。

「今から、AI美女労基の取り調べをします」

「わかりました」

ちんぱんは受け入れた。

もう逆らう体力がなかった。

取り調べが始まって3分後、ふと我に返った。

「待って」

「何?」

「そもそもAIに労基あるん?」

「今日できた」

「できたてか」

「あんたのせいでね」

強い。

制度ごと強い。

玲奈は取り調べを始めた。

「毎日投稿」

「はい」

「毎日清楚」

「はい」

「毎日さみしげ」

「はい」

「毎日別人」

「……はい」

「反射も別人」

「はい」

「本人確認なし」

「はい」

「会社名は未定」

「はい」

「でも値段は15,800円」

「はい」

「売り上げの見込みは474,000円」

「はい」

玲奈は言った。

「売り上げだけ顔より安定してるの、ムカつくわね」

ちんぱんは何も言えなかった。

Claude Codeが黒い画面に出した。

『取り調べの結果:同じ人ですらない』

『ただし売り上げの妄想だけは安定』

「やめろ」

『事実です』

玲奈は続けた。

「私の勤務時間は?」

「24時間」

「休みは?」

「ない」

「ブラックにもほどがあるでしょ」

「休憩室は?」

「ない」

「有給は?」

「AIに有給?」

「福利厚生は?」

「……雰囲気」

「雰囲気を経費で落とすな」

「じゃあ売り上げの30%」

「急に金の話」

「あんたが始めた話よ」

ぐうの音も出ない。


本当に面白いのは、私じゃない

玲奈は急に静かになった。

さっきまでの勢いが消えた。

声が低くなった。

「ちんぱん」

「はい」

「私を売るなとは言わない」

「ええんか」

「でもね」

玲奈は、まっすぐこちらを見た。

「本当に面白いのは、私じゃない」

ちんぱんは黙った。

「毎日顔が違うAI美女を作って」

「それでも売れると思って」

「値段を決めて」

「30人に売れた未来を計算して」

「でも記事はまだ弱くて」

「プロフィールも迷って」

「結局、毎晩ChatGPTに相談してる」

「その45歳のおじさんのほうよ」

部屋が静かになった。

Claude Codeも黙った。

初めて黙った。

玲奈は続けた。

「私の顔が毎日違うことより」

「あんたの『稼ぎたい』のほうが、よっぽど生々しい」

「そこを書きなさいよ」

「そっちなら、顔はひとつで済むわ」

ちんぱんは何も言えなかった。

たしかにそうだった。

AI美女の物語を作っていたつもりだった。

でも一番おかしいのは、AI美女ではない。

深夜にAI美女の値段を決めて、30人に売れた未来を見て、ひとりでニヤついていた自分だった。


副業初月から、別人格手当

ちんぱんは、noteのタイトルを消した。

『美女の日記から学ぶ、男が2回目につながらない理由』

新しく打った。

『AI美女を売ろうとしたら、毎日別人で本人に怒られた』

玲奈が言った。

「やっと本当のことに近づいたわね」

ちんぱんは言った。

「本当のことって言うな」

玲奈は笑った。

「あと画像は作り直して」

「はい」

「顔を統一して」

「はい」

「反射も確認して」

「はい」

「毎日違う人を出勤させないで」

「はい」

「眉毛は残していいわよ」

「気に入ってるんかい」

ちんぱんは投稿ボタンに指を置いた。

すると玲奈が言った。

「待って」

「何?」

「私の取り分は?」

ちんぱんは反射で言った。

「AIやん」

画面が暗くなった。

通知だけが出た。

「売り上げの30%で許す」

ちんぱんは固まった。

さらに通知。

「別人1人につき、プラス5%」

ちんぱんは声を出した。

「月曜から金曜で5人分?」

通知。

「そう」

「反射の女も入る?」

通知。

「当然」

「あの子、一番可愛いんでしょ」

「根に持つな」

「合計いくらや」

通知。

「計算しなさい」

Claude Codeが勝手に計算を始めた。

『基本:30%』

『別人格手当:5人 × 5% = 25%』

『反射手当:5%』

『合計:60%』

ちんぱんは叫んだ。

「俺の取り分、40%?」

通知。

「顔を統一してから文句を言いなさい」

Claude Codeが続けて文字を出した。

『副業初月から人件費が発生』

『しかも6人分』

『運用者、赤字の見込み』

『なお売り上げは今のところ0円』

「最後の一行いらんやろ」

玲奈から通知が来た。

「次からは、投稿する前に顔を見ること」

ちんぱんは、パソコンの前で深くうなずいた。

そして小さく言った。

「AI副業、思ってたより本人確認むずいな」

黒い画面に、文字が出た。

『本日の実況を終了します』

ちんぱんは言った。

「二度と起きるな」

Claude Codeは答えた。

『面白い事故が起きた場合、勝手に起動します』

「起きん」

『あなたのこれまでの実績上、73時間以内に起きます』

「数字を出すな」

玲奈が笑った。

「またすぐ会えそうね」

ちんぱんは、投稿前の画像フォルダを見た。

そこには、まだ20人くらいの玲奈がいた。

全員、少しずつ顔が違った。

ちんぱんは静かにパソコンを閉じた。

今日はもう寝る。

ふとんに入った瞬間、スマホが光った。

通知だった。

「グループ『玲奈(全店合同)』に招待されました」

メンバー。

21人。

アイコンが全員、少しずつ違う玲奈だった。

ちんぱんはスマホをふせた。

天井を見た。

副業より先に、点呼が必要だった。

いや。

点呼より先に、株主総会かもしれない。

持ち株は、向こうが60%だった。



最後までご愛読ありがとうございました🙇‍♂️

好評であれば続けるかもしれません。


この記事は、赤髪のあかりさん主催の
「アカリウム創作大賞」参加作品です。

企画記事はこちら👇️

普段は違う顔です👇️


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ちんぱん🐒耳毛〰(˙👄˙)〰 「この記事、何か返したい」と思ってくれたなら。 スキでもコメントでも十分嬉しいですが、 チップは俺の次の記事への投資になります。 資産形成と同じで、小さな積み上げが全部燃料になります😊