不条理な人生をどう生きるか―ブッダのカレーのたとえ話があなたに伝えたいこと
5月もあと1週間足らずです。世界のニュースを見ると、不条理としか思えないことばかりが目に入ってきます。今日は、そんな不完全な世界を私たちはどう生きていけばよいのか、お釈迦様のたとえ話からお話ししてみたいと思います。
この世界はカレーのようなもの
お釈迦様のお経にこんなたとえ話があります。広大な農家で収穫祭の宴が開かれ、腕利きの料理人が豪華なカレーを作りました。ところが仕上げの直前、鍋の上を飛んでいた鳥のフンがポロリと落ちてしまった。慌てて取り出そうとしましたが、すぐに混ざってわからなくなりました。
やがて宴会が始まり、労働者たちはカレーを口々に褒めて喜んで食べました。しかし料理人は一口も食べません。真実を知っているからです。やがて労働者たちに勧められた料理人は、目を閉じ、覚悟を決めて、そのカレーを一気に飲み込んだのでした。
初めてこの話を知った時、私はとても心に残りました。一体何のたとえなんだろうかと。ちなみに今の衛生コンプライアンスからすれば完全にアウトです。あくまでたとえ話として聞いてくださいね。
知らずに食べる人、知って飲み込む人
フンの入ったカレーとは、この世界そのものです。美味しいところもたくさあるけれど、不条理で汚く不完全なものも混じっている。純粋で綺麗なだけの世界(カレー)は存在しません。
労働者たちが何も知らずに喜んで食べる姿は、不条理や醜さがあることに目を向けず、良い部分を見て楽しんでいく生き方です。これはこれで、ひとつの生き方なのだと思います。
そして料理人が覚悟を決めて飲み込んだ姿。これは、不条理に気づいてしまった人が、それでも世界を憎まず、背を向けず、受け入れて生きていく姿です。
「覚悟」という言葉は本来仏教用語で、迷いを去り道理を悟ることを意味します。世の中の良い部分も悪い部分も正しく見て受け止め、不完全な世界を生き抜く決意を固めること。それが覚悟なのです。
すべては移ろい変わる
お釈迦様は「四法印」という4つの真理を説かれました。あらゆるものは移ろい変わる「諸行無常」。固定された本質はない「諸法無我」。
だから思い通りにはならない「一切皆苦」。そしてこの真理を深く知ることで、執着を離れ心が安らかになる「涅槃寂静」。

「こうあるべきだ」「こうじゃないと困る」と思い込んでしまうとき、それは物事が思い通りになると信じているからなんですよね。
でも、すべては流れる川のようなもので、捕まえることなどできない。
そう気づくだけで、少し肩の力が抜けることがあります。
こうあるべきなのに、なんでこうならないんだという執着は、すべて思い通りになるという前提から生まれています。思い通りにならないものを、思い通りにならないものなんだと手放せば、そこに対する苦しみは和らいでいきます。
態度を選ぶ自由だけは奪えない
ナチスの強制収容所を生き延びたフランクルは「どんな状況でも、態度を選ぶ自由だけは奪えない」と語りました。行動の自由も、体の自由も奪われた極限の中で、それでも「私はイエスと言う」という態度を選んだ。
正直に言うと、これを実践できるかと聞かれたら、自信はありません。
ただ、そういう態度の選択肢があるのだと知っているだけでも、心の持ちようは違ってくるのではないかと思います。
現代の心理療法にも「ACT(アクセプタンス・コミットメント・セラピー)」という考え方があります。苦しみを消そうとするのをやめて、苦しみとともに歩む。不条理から目を背けようとすればするほど苦しみは深まるけれど、「ああ、これが世界なんだなぁ」とそのまま見つめてみる。そして「この人生を生きていこう」と自分の意思でコミットする。
カレーの話で言えば、「ああ、これがこの世界のカレーなんだな」と認めて、ぐっと飲み込んでいく。意外と美味しいところもある、そんな発見があるかもしれません。
清濁併せ飲む
もちろん、不条理を容認せよという話ではありません。不条理を是正し、まかり通らない仕組みを作っていくことは、とても大事なことです。ただ、どんなに頑張っても完全に不条理をなくすことはできない。不完全な人間が集まった社会は、どうしても不完全で不条理になる。
日本のことわざに「清濁併せ飲む」という言葉があります。お釈迦様ご自身も、悟りの眼で世の中の醜さや汚れを深く見抜かれました。でも世界を憎むのではなく、誰よりも世界を愛し、人を愛し、慈悲の心から教えを説いていかれた。
不完全な世界を拒絶するのではなく、覚悟を決めて受け入れる。その姿に、私たちが学べることがあるのではないでしょうか。
不条理なことだらけの世の中ですが、そこに背を向けず、一歩一歩進んでいけますように。今日この場所でご縁をいただけたことに、感謝を込めて。
今回のカレーのたとえ話は、
拙著 とらわれを手放すほとけさまの言葉に紹介しています。
この記事は、おかもんのライブ法話を記事にしたものです
ほぼ毎朝8時からライブでお話しています。どなたでも参加可能です。
