夏草

「兵どもが夢の跡」- マーケットに徒労感。各相場の現状を点検してみる。

 振り返れば、「損切丸」がマーケットのレビューを始めた6月の大阪サミットあたりから、相場は随分と振り回されてきた印象。さすがに年末が近づきマーケットにも徒労感が漂ってきた。ヘッジファンドなどは11月決算、欧米の銀行も12月決算が多く、そろそろトレーダーにもリスクへの制限が係る時期ではある。

 ファンドも銀行も2019年の収益状況は芳しくなく、今年は投資銀行業界でも稀に見る大リストラが敢行されている。数万人がその職を失うだろう。ここ数ヶ月は生き残りをかけて相場を張ってきたトレーダーも多く、意図的に相場を振り回すような動きも散見された。しかし「無理は通っても無理」。勝負は既に決したか、損切りなどのポジション整理も進み、相場の動きに「諦め」が漂い始めているように感じる。

 ここで2019年の各市場をレビューし、今後の展望を考えてみたいと思う。

 1.株式市場

 トランプ大統領と「米中貿易戦争」に振り回された1年だった。2020年11月の大統領再選が目的である以上、いくら刺激的な発言をツイッターなどで発信しても株価の高値維持が既定路線で、調整売りをこなしながら米株価は結局高値推移。「米中合意」などの切り札はタイミング次第だろう。

 また「過剰流動性」が特に日米欧の主要市場で続く限り、株は利食いで一旦売られても、手元に戻って来たお金は低金利で他に行き場がない。結局は主要国の株式市場に戻ってくる構図だ。NYダウや日経平均などで「割高」「買われ過ぎ」などの市場コメントを随分見かけるが、マーケットに「買われ過ぎ」や「売られ過ぎ」は存在しないその値段で取引されている以上、それがその時点での「真実」である。売買いはあくまでこれからの動向を予測して行うものだ。

 最近の日経平均は空売りが多く、このところの「不思議な上昇」の原動力、との見方もある。「買われ過ぎ」と信じた投資家、トレーダーが空売りを仕掛け「リーマンショックの再来」で大儲け、を夢見るのは構わないが、ちょっと分が悪いのではないか。1つ重要な事を忘れている。

 「損切丸」は繰り返し主張しているが、今回は資金の出し手が銀行ではなく国であること。お金の供給に上限はない。価格のベースになっている法定通貨(ドル、円等)が減価すること=インフレで株価の「割高」が後追いで解消される、というのが筆者のシナリオ。事実、ここまでは売られた株を拾ってきた投資家の勝ちである。

 2.不動産市場

 理屈は ↑ 1.株式市場と同じ。*「東京オリンピック後に暴落」と吹聴する自称不動産投資のプロもいるが、「過剰流動性」が続く限り「暴落」は期待しない方が良い。「住みたい時が買い時」だろう(自宅なら不動産が上がっても下がっても関係ない。どうせ住み替えるのだから)。インフレで「割高」が解消するのも株と同じシナリオ。膨大な借金返済の目処が立たない以上、国に他の選択肢はない。

 *一時地銀勢などの投げ売りで下落していたJ-REIT。すわ、不動産暴落のサインか、と囃し立てられた時期もあったように記憶しているが、今は海外勢を含め大人気らしい。やはり配当利回りが4%以上に上昇したことからじわじわと買いが入ってきたようだ。お金の行き場がないことの証である。

 3.為替市場

 先日のN経新聞だったか、ドル円取引の不調を書いた記事があった。投資銀行業界ではもう10年以上前からドル円の収益性の低さは指摘されていて、リスクポジションもプロの間では専らオプションに移行していた。しかしそれも頼みのボラティリティ=変動率の低下で商売にならなくなり、一般の「ミセス・ワタナベ」にも広がってきた印象。「損切丸」の読者にもご苦労されている方がいるかもしれないが、残念ながらあまり改善は期待できまい。マーケットが成熟して損をしてくれる人が減ったのである

 代わりに急浮上してきたのがトルコリラ、南アフリカランドなどの高金利通貨や韓国ウォンなどの非主要通貨の為替取引。ただ悲しいかな、これらのマーケットは流動性が低く、いわゆる「仕掛け」の的になりやすい。

 ファンドなどは意図的にマーケットを振り回して素人を巻き込み、訳の分らなくなったところを取って食うのが定石。こういうのをBold Markets と呼んでいるが、「こんなのはおかしい!」とムキになってナンピンしたり投げやりになったりすれば向こうの思う壺一旦撤退する勇気も必要である。

 *「日韓対立」がメディアでも大きくクローズアップされ、ドル・ウォンもかなり動いた。KD、JJ通信、A日、M日新聞がこれでもか、とばかり記事を書いていたが、かなり「韓国寄り」であることが判明するにつれ読者の関心も低下(筆者もほとんど読まなくなった。読んでも話三分)。最近では相場も「意図的な振り回し」が見られるようになり合理性を欠いている。まあ「文在寅失脚」を見据えたウォン高戻し、とも解釈できるが、今の@1170近辺が妥当なのかはよく判らない。しばらくは「見(けん)」が無難だろう。

 4.金利市場

 投資銀行業界で1番リストラで狙われ易いのは金利トレーダーだろう。なにしろ「消えていく金利」の状況下である。ただ、トレーダー達も黙って手をこまねいていた訳ではなく必死の抵抗を見せた。ドル金利市場では「逆イールド」を仕掛けて「金融危機」を煽り相場を動かしたが、ちょっと無理があった。必死だったのだろうが今は巻き戻しが起きており、この間瀕死の重傷を負ったトレーダーが多数出たのは想像に難くない。

 しかし本当に怖いのはこれから*「低変動率」先進国の日本の金利市場のようになってしまうのが最悪。「動かない相場」が最も恐ろしい。

 *今の「ほぼ固定相場」もひどいが、白川総裁の時代にゼロ金利政策で金利が動かなくなった時は本当に酷かった。円短期金利先物が1年間で上下10tic =0.10%しか動かなかった事があり、まるでチャートが死ぬ間際の心電図のようだった(ピー、っと横線一本)。筆者が初めてトレーダーを止めようかな、と思った時だ。

 金利相場が復活するのはインフレが実現して法定通貨が減価した時だろう。おそらくその時は凄まじい金利上昇になり、金利で+5~6%動くかもしれない。だから今の金利水準で長期国債を保有するのは最もやってはいけない投資。インフレはいつ火がつくかわからない(含.国策変更)のだから。

 5.デジタル通貨

 筆者は個人的に特にリブラの動向を追っている。「新通貨」、「新ゴールド」になりうるポテンシャルがあるからだ。最近では随分否定的なコメントが増え批判的な記事も多いが、よく考えて欲しい。↑ 3.為替市場の中の韓国についての記事同様、経済メディアはほぼ銀行寄りであり、そこは割り引いて読んだ方が良かろう。「リブラ最高!」などと書くはずがない

 現行の金融システムは旧態依然のままで、IT技術の目覚ましい発展に全くついて行っていないのが現実だ。技術革新への意欲も見られず、現代のネット社会と齟齬が生じている。従ってリブラに限らずデジタル通貨は時代の要請でもあり、紆余曲折を経ながらも発行には至るだろう。その際、輪の中心にいるのは銀行ではなく、金融界にはかなり大きな変化が訪れそうだ。例えは少しずれるかもしれないが、今話題のスルガ銀行創業家の株式がノジマ電気に売却されるそうだが、これなど一時代前では考えられなかった事態だ。

 *ちなみにビットコインなど現在の「仮想通貨」群は、取引ツールの1つとして非主要通貨の為替取引などと同じような扱いになっている。「ブロックチェーン」技術などのアイデアは素晴らしいのに残念な経緯ではある。もっと資金決済などの生活の場に手を伸ばして極端な寡占状態を解消し、安定的な取引を図れるようこちらも変革が迫られるかもしれない。「売った買った」だけの道具に終わってしまうのはもったいない。

 6.保険

 *大雨、台風、地震など世界を取り巻く災害は年々増えており、保険料は上昇する一方だ。実際、地震保険などは保険料が毎年上がっている保険料の上昇とインフレリスクを考え併せると、1年契約を3年、5年などなるべく長期の契約とし、可能な範囲で一括前払いが望ましい。

 ただ1点留意しなければいけないのは、保険会社がちゃんと支払えるか、と言う点。災害が多発すれば保険会社が倒産するリスクもある。筆者は(高額な)車両保険で嫌な目に遭ったので、今後はただの払い損にならないよう、保険料の高いものはよくよく考えた上での契約にしていくつもりだ。

 しかしトランプ大統領を始め、「現実主義」の政治家達は、経済合理性を盾に「温暖化対策」を拒んでいる節があるが、ここまで災害被害が大きくなってくると、果たして本当にそれが「現実的」なのか、甚だ疑問である。日本でも災害のたびに数千億円、時には1兆円を超える財政支出を伴うが、これを前もって「温暖化対策」に振り向けるのが「現実的」ではないのか。温暖化対策推進派も理想は大事だが、「How dare you !」などと子供まで使って批判するだけでなく、既得権益打破のためには「温暖化対策」を収益事業に育てていくなどの戦略が必要だと思う。

 欧米市場はクリスマス休暇が終わると実質「新年」相場となるため、年末~お正月がマーケットの幕開けとなる。年初はトレーダーがスタートダッシュを掛けてくるが、「リストラの嵐」が続きそうな2020年はかなり気合いを入れてくるだろう。まして来年はアメリカの大統領選挙の年。振れ幅の大きいマーケットになるのは確実でこちらも準備を怠らないようにしたい。

 荒れ模様の相場では、感情や思い込みに付け入って仕掛けてくる輩も増えるので、心して臨みたい。投資的観点からは政策や災害の動向も気になる。儲けることも大事だが、まずは守ること。昨今大盛況のラグビーでも結局はスクラムやタックルなど守備の強いチームが勝つ。守っているうちにターンオーバーなど攻撃の芽も生まれるというものだ。

 「心は熱く、頭は冷静に」- スポーツ同様、投資でも大切にしたい。

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