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お題 : ひとりごと

#シロクマ文芸部
#恋愛短編小説

ひとりごとが、やけに増えた気がする。

朝、カーテンを開けるときも、
夜、歯を磨きながら鏡に映る自分に向かっても、
誰に聞かせるわけでもない言葉が、ふとこぼれる。

「今日は少し、あたたかいね」
そんな何でもない言葉のあとに、
あなたの顔が浮かぶのが、いまだに不思議で。

もう、終わったはずなのに。

春の匂いが混じる風は、どこか優しくて、
それがかえって胸を撫でるように痛む。
あなたと歩いた川辺の道も、
同じように、やわらかな風が吹いていた。

あのとき、あなたは何か言いかけて、
結局、何も言わなかったね。

私はその沈黙を、
ずっと都合よく解釈していた。
言えなかったのだと。
言葉よりも深いものがあったのだと。

けれど、本当は違ったのかもしれない。

ただ、言うほどのものではなかっただけ。
それだけのことだったのかもしれない。

それでも私は、あの日の続きを、
勝手に抱えたまま生きている。

湯気の立つコーヒーを手にして、
ふと窓の外を見ると、
桜が、ほころび始めていた。

ああ、もうそんな季節なんだ。

あなたと別れたのも、
こんなふうに、少しだけ暖かい日だった。

「またね」と言った声が、
やけにやさしくて、
だから私は、それを信じてしまった。

また、なんて来ないのに。

グラスに触れる指先が、少し冷たくて、
その温度を確かめるように、私は目を閉じる。

ねえ、あなたは今、
誰かの隣で笑っているのだろうか。

それとも、
ほんの少しだけでも、私を思い出すことがあるのだろうか。

そんな問いかけも、結局はひとりごとで、
答えなんてどこにもない。

だけど、最近気づいたの。

ひとりごとを言うたびに、
あなたの名前を呼ばなくなったこと。

それはきっと、
少しずつ、私の中で季節が進んでいる証で。

忘れたわけじゃない。
消えたわけでもない。

ただ、やわらかく、
遠くへ置けるようになっただけ。

窓を開けると、風がふわりと部屋に入り込む。
カーテンが揺れて、光が揺れて、
その中に、私ひとりが立っている。

「今日は、いい日になりそう」

そう呟いた声は、
もう、誰かに向けたものではなかった。

けれどそれは、
決して寂しいものじゃなくて。

静かに満ちていく、
新しい始まりのようなものだった。

ひとりごとが、
ようやく私自身のための言葉に戻ったとき、
春は、ちゃんとここに来ていた。

[完]

ʕ•ᴥ•ʔ小牧幸助部長様、提出致しま~す•*¨*•.¸♬︎

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