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No.1659 押して?押されて?

その昔、授業中に「ヘー!へー!」と「へーボタン」なる商品を持参して鳴らす男子がいました。こちらや、クラスメイトたちの反応を見て楽しんでいたのかもしれません。私は、授業の自己評価につながるので嫌ではありませんでしたが、暫くすると他の先生から大目玉を食らったそうで、沙汰止みとなりました。私の中では、今も「ヘーボタン!」は元気よく生きています。
 
AI概要に拠れば、
「『へーボタン』が流行したのは、2003年11月に「トリビアの泉」の1/1スケール商品が発売されたことがきっかけです。」
とありましたから、すでに22年もの歳月が流れているのですね。ついこの間のような…。
 
『現代国語A』の教科書に載っていた川上弘美さんの掌編小説「真面目な二人」(『猫を拾いに』所収、2013年)を生徒と一緒に読みました。ちょっと考えさせられる、面白いお話です。
 
同じ大学に通う二人の女子(英文科の上原菜野と日文科の島島英世)は、ある退屈な講義で一緒になりました。
 
教室の後ろから聞こえてくる「かち、かち」の音、それは、菜野が鳴らす交通調査等で使うカウンター機の音でした。菜野は、自分の気持ちが動いた時にカウンター機を「かちっ」と鳴らすといいます。その意表を突く発想に導かれ、すんなり次の行に目が行きます。
 
それを知った英世(主人公)は、白黒二つのカウンター機を用いて、楽しい方に気持ちが動いたら白を「かち」、嫌な感じの方向に動いたら黒を「かち」と押すようにしました。

この話を途中まで読んだ時、こんな似たお話を思い出しました。
 江戸時代中期の医師・滝鶴台(1709年~1773年)には妻がいました。毎夜勉強に勤しむ鶴台の傍で茶を淹れたり、肩を揉んだりしたそうです。ある夜、その妻の懐から白い糸の玉がころがり落ち、鶴台がみとがめました。
「その糸の玉は何だい?」
「この家に嫁に来てから、良い事をした日には白い糸を、悪い事をした時には赤い(黒い?)糸を巻くように心がけて来ました。その糸玉です」
と答えたそうです。奥さんの献身と自らを律する人柄に「ほ」の字です。
  
さて、元カレと縒りを戻した英世でしたが、一緒にいる時にカウンターを押していたら、なんと、白が5、黒が18にもなりました。英世は、元カレに別れを切りだすのです。そう来たかー!
 
しかし、
「いい気持ちがほんとうはいやな気持だったり、反対にいやな気持が、後で考えると楽しい気持ちにつながっていたりするから」
ということを菜野から指摘されてしまいます。表も裏も、白も黒も、ごちゃ混ぜになっていることに気づいた英世は、カウンター1個を持ち、心の揺れた数をカウントするようになったといいます。
 
確かに、昔は好きだったことが、今はそれほどでもなくなったり、昔は嫌だったことが、今はそれ程どころか、逆に好きに変わっていたり…。モノやヒトやジカンやバショやジョウキョウによっても変わることはあるなーと納得してしまいました。
 
一緒に読み終わってから、私は、生徒に言いました。
「カウンター持参は、ご遠慮願いたい!」
なんか、ちょっと値踏みされているみたいに思えて…。
 
 

※画像は、クリエイター・「俗物@みんギャは無料記事のみ可」さんの「カラフルな毛糸」の1葉をかたじけなくしました。いろんな心の模様(調べ)に見えます。お礼申します。