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No.1669 地球 HEART

男は、将来を嘱望された勝れたデザイナーでした。しかし、慢性的な心臓の病と闘わねばならず、遂には、左目が失明する運命にいたりました。
 
「さっさと死んでやる」
と言う思いに支配された折も折、母親が癌で亡くなります。父親は、随分前に逝きました。兄弟身寄りなく、天涯孤独となりました。
 
偶然、母の抽出に「保存」と書いたカセットテープを見つけたそうです。ノイズの塊のような音で、よく聴き取れません。日々の彼の様子を案じた同僚が、音楽家にそのテープのノイズの奧の音の「抜き出し」を頼んだそうです。そして数日後、出来上がってきました。
「トクン、トクン、トクン…」
 
軽やかに楽器を打ち鳴らすような、柔らかい力強い音は、母親のお腹にいた時の彼自身の心臓の音だったそうです。
「俺は生きている!」
 
自分の音の塊に気づいた時、
「死ぬってことはこの音が全部無くなることで、命を与えてくれたお袋に申し訳ない」
という思いが彼の心の中に居座ったといいます。親への憎しみや怒りが…。
 
「EARTH」(地球)のHを左に移すと「HEART」(心)になります。地球大の心です。冲方丁(うぶかたとう)氏の『もらい泣き』(集英社、2012年)に、心を持って行かれてしまいました。


※画像は、クリエイター・しまさんの、タイトル「上野東照宮 ぼたん苑(4)」の「鯛釣り草」(ケマンソウ)の1葉をかたじけなくしました。提灯のような可愛いハート形に、それこそ目も心も奪われますね。お礼を申し上げます。