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No.1774 一人静か

「短夜や乳ぜり啼く児を須可捨焉乎(すてつちまをか)」
歌人・竹下しづの(1887年~1951年)の句です。1920年(大正9年)、「ホトトギス」8月号巻頭句となった歌で、季語は「短夜」で夏。前年に次男が生まれ、この時点で2男2女を抱えていたという33歳頃のしづのです。

意味は、「夏の夜に乳を求めて泣く子なんぞ、捨てちまおかな」というような感じ。衝動を表現しつつも、母としての強さが感じられる俳句である。ここには良妻賢母の主張はなく、日々を懸命に生きる人間の輝きがある。

歳時記 インターネット俳句より

とありました。我が子でありながら、育児の大変さに、ふとそんな気持ちになったと感する方もいらっしゃるのではないかと思います。
 
しづのの短歌を読んだとき、2010年12月2日発行の「中高一貫新聞」で紹介した、次のイイ話を思い出しました。

「生まれた時からママのことが好きだったの」
 
初めてのあかちゃんに無我夢中だった。
ろくに眠らず、夜鳴きもひどかった娘。
 
へとへとに疲れはてて、抱っこでゆすりながら
「あんたはママを苦しめたいの?ほんとにひどい子だ」と悪態をついた日々。
 
赤ん坊の気持ちなんて、全然わからない。
母親の自信なんて、みじんもない。ただ、もがくだけの日々。
 
あれから数年たって、娘は五歳になった。
「あのね、ママ」(もじもじ)
「なぁに」
 
「あたしね、ママのこと、生まれたときからすきだったの」
 
あの頃の私が一番聞きたかった言葉。
やっと聞けた。こっそり台所で泣いた。 

「育児で泣いた話」より

そんなことを書いていたら、いきなり携帯電話が鳴りました。
「〇〇ちゃーん、元気かい?」
電話の主は、中学時代の同窓生で、既に酩酊気味のご様子です。彼が電話をくれる時は、いつも、必ず、絶対に電話機の向こうから酒の臭いがします。
 
「今、どこ?」
「今?神奈川の事務所におるんよ。」
彼は長距離トラックのドライバーです。大分から神奈川、神奈川から東北までが仕事のエリアだそうです。
「北海道だけは、勘弁しちもらいよるんじゃ。もう、歳じゃけのー。」
 
彼も72歳。いい加減、爺です。それでも現役で長距離輸送の仕事に誇りをもって働く(酒を飲みながら電話するのだけが玉に瑕の)敬愛すべき男です。
 
「どしたん?また年末か年始にやろうやちゅう話かい?」
「いいや。元気かなーち、思うちなぁ!」
と殊勝なことをのたまいます。すこし、聞こし召し過ぎでは?と心配になりました。
 
彼が日本のあちこちから電話してくるときには、たいがい「同窓会」の案内です。そして、男女を問わず、何十人も集まってきます。あの調子で、夜になるといっぱい(1杯ではない)飲んで、同級生や他クラスだった私のような者にも電話をかけまくるのです。
 
K君は、あれだけ忙しい身の上でありながら、労を惜しまず幹事役を買って出てくれるのです。その熱意と思いやりに、平身低頭し「御意!」と返事をしてしまいます。
 
ところが、先ほどの電話は、珍しく、
「ただ、元気かどうか、声が聞きたかっただけ。」
といいます。
「いつも、酔っぱろうちから電話しち、すまんなー!」
と言いながら…。
 
それでも、来年の再会を明るい声で約束しました。
 
中学時代、結構やんちゃでありました。子供時代だけでなく母親に心配をかけたのでは?とも思われました。しかし、今、クラス会・同窓会と言ったら、彼を抜きに進められることも開かれることもありません。彼が、その中心にいて、いつの間にか皆を束ねてくれているのです。
 
仲間が大好きな男は、中学を卒業して57年、今もこうして、いきなりですが涙の出るような電話をしてきてくれます。そんなヤツに少しでも近づきたいと、今から缶ビールで一人静かにやろうと思います。


※画像は、クリエイター・studio_maki🍀note.2025.4.17_φ(・_・☘さんの「【徒然】なるままに描いてみました。-その94-」の1葉をかたじけなくしました。お礼を申し上げます。誰からも好かれるK君の交通安全を祈りつつ。