No.1959 待つという希望
「癇癪(かんしゃく)の くの字を捨てて ただ感謝」
その初めに言った人を知りませんが、言い得て妙、真理をついています。
美濃部伊織と妻・るんが結婚したのは、伊織が30歳、るんは29歳の時でした。仲の睦まじい夫婦でした。伊織は、文武両道に優れた色白の好男子でしたが、唯一、癇癪持ちの癖がありました。
事件は、夫婦となった4年後に起きました。伊織が単身上洛中に、理不尽な同僚に対し我慢できずに堪忍袋の緒を切らし、刃傷沙汰を起こしてしまいました。罪科の身となった伊織は、37年間、越前丸岡の配所にお預けの身となりました。
一方、妻のるんは、黒田家の御殿女中として勤め始めました。
「待つことは、希望のあること」
そう思って、るんは奉公しながら夫の帰りを信じて待ち続けました。31年間勤めた後、安房に隠居していました。互いの念願が叶い、伊織が公から許され、るんが江戸に迎えに来た時、伊織は72歳、るんは71歳になっていました。森鴎外(1862年~1922年)の短編時代小説『ぢいさんばあさん』(1915年)のお話です。まことに「短気は損気」、心に刻みます。
四半世紀近く前に高校を卒業し、今は日本舞踊の若手指導者として陣頭指揮をとるまでに成長したM君が、5月24日(日)に大分合同新聞創刊140周年記念事業 第65回吉例大分合同名流会(iichiko総合文化センター)で演舞するとの報告と案内状を、先日、送ってきてくれました。
「待つことは、希望のあること」
二代目家元を襲名した彼が、どんな舞踊の世界で我々を魅了してくれるのか、その成長を鶴以上に首を長くして待っています。彼からの挨拶状を読んで、久々の再会を喜べるように、一日一日、確かな手ごたえをもって暮らしたいと思うようになりました。
※画像は、クリエイター・碧緑(あおみどり)さんの、
「映画「国宝」のシーン、鷺娘を思い出してソフトパステルでさっと描きました。」
という1葉をかたじけなくしました。教え子の舞いが、いっそう楽しみに思われます。お礼を申し上げます。
