沖縄の創作昔話「ノロの恋人」
「ノロの恋人」
昔、沖縄が琉球だった頃、山田というところに久良波(くらは)ノロが住んでいました。
ノロとはご先祖さまや神さまにお祈りをする神職のことです。

当時、喜名番所(きなばんじょ)から久良波ノロが住む山田へ向かうには、人家がない暗い山道を通る必要がありました。
山道がある多幸山(たこうやま)には、フェーレー(追いはぎ)が出て、人々から恐れられていました。
あるとき首里から山田へ、お役人がやってきました。
お役人は、多幸山のフェーレーを捕まえるために、しばらくの間、久良波ノロ殿内(ドゥンチ)に泊めてもらうことにしました。
ノロ殿内とは、ノロが住んでいた屋敷のことです。

お役人はノロ殿内から、毎日多幸山に出かけて、フェーレーを探しました。
ところがフェーレーはなかなか現れませんでした。
しばらくすると、久良波ノロとお役人は仲良くなり、恋人同士になりました。
久良波ノロは、お役人にいつまでもノロ殿内にいてほしいと願うようになりました。
ところがある日のこと、王府からお役人に首里へ戻るよう連絡がありました。
結局、多幸山のフェーレーは捕まえることができませんでしたが、お役人は首里へ帰ることにしました。
久良波ノロは泣きながら、お役人にどうか帰らないでほしいとお願いしました。
しかし、お役人は首を縦には振りませんでた。
首里に帰る前の日の晩のこと、部屋で寝ていたお役人はふと目を覚ましました。
目の前には、顔を手で覆って泣いている久良波ノロが立っていました。
久良波ノロは、顔を覆ったままお役人に聞きました。
「明日、どうしても行ってしまうのですね?」
「ああ、すまない」
お役人がそういうと、久良波ノロは顔を覆っていた手をゆっくり外しました。
お役人はぎょっとしました。
久良波ノロの顔は、恐ろしい形相の鬼になっていました。
久良波ノロは、隠し持っていた包丁を振り上げて、お役人に襲いかかりました。
お役人は慌てて逃げ出しました。
お役人はノロ殿内を飛び出すと、多幸山に向かって走り出しました。
「待て〜!!!」
久良波ノロは髪を振り乱しながら追いかけてきました。

お役人が多幸山にある大きな岩の前までやってくると、突然男が飛び出しました。
「待て!金目の物を置いていけ!」
男は多幸山のフェーレー(追いはぎ)でした。
お役人はフェーレーに言いました。
「渡したくても今は何も持っていないんだ」
フェーレーは言いました。
「それなら、着ているものを脱いでいけ」
「わかった」
お役人は素直に応じて、着物を急いで脱ぎました。
「ほら、おまえさんに似合うと思うからこれを着てみるといい」
お役人はフェーレーに着物を渡すと、ふんどしだけの姿になって、そのまま山道を走って逃げていってしまいました。
多幸山のフェーレーは、お役人の着物の袖に手を通すと、満足そうにいいました。
「これは上等な着物だ」
お役人の着物を着たフェーレーは、山田の方角からここに向かって、誰かが走ってくるのに気がつきました。
「しめしめ、次は女がやって来たようだ」
フェーレーはそういうと、大きな岩陰に身を隠しました。
女が岩の前にやってきたとき、フェーレーは岩陰から飛び出しました。
「待て! 金目の物を置いてけ」
久良波ノロは包丁を振りあげて、嬉しそうに叫びました。
「あなた!わたしを待ってくれていたのね」
「ひえーっ!!!」
女が鬼であることに気がついてフェーレーは、慌てて逃げ出しました。
「待って〜!!!」
フェーレーのことをお役人だと勘違いした久良波ノロは、フェーレーを追いかけて山の中に入りました。
久良波ノロがフェーレーを追いかけている間に、お役人は無事、首里まで逃げのびることができました。
それからというもの、首里には、こんなウワサが流れてくるようになりました。
山田久良波ノロ殿内に泊まるものは、入ったものはいても出てくるものはいない。
鬼となった久良波ノロは、その後いったいどうなったのでしょうか?
この話はまた今度にします。
おしまい
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人と人との温かい交流を信じて、世界が平和になるように活動を続けていきたいと思います。