【成人の日エッセイ その2】眠気もぶっ飛ぶ美容院での出来事‼️大人の階段を上ったあの日
さて、私がどんなに頑張っても乱れてしまう髪のセットを直してもらっているうちに、例のシガレット嬢(勝手にそう呼ばせていただきます)は、別室で振袖に着替え、戻ってきた。
その瞬間、
「まぁ……」
「あらぁ……」
という、どよめきともため息ともつかない空気が、部屋いっぱいに広がった。
私は美容院の鏡越しに、その姿を見た。
黒に近い紫‥たぶん紫。
その地に、紫や白、黒の菊や牡丹‥たぶん菊と牡丹。
古典柄の振袖をまとった、シガレット嬢。
綺麗。
しかも、めちゃめちゃカッコいい。
シガレット嬢は、美容院にいた全員から称賛を浴びた。
けれど本人は、にこりともしない。
そんな彼女と、鏡の中で目が合った。
ドキリとして、私はほんの少し会釈をした。
すると、シガレット嬢のあご先が、ほんのわずかに動いた。
私は彼女の素性など何も知らない。
でも、きっと案外いいヤツなんだろうな、と思った。
その証拠に、こうして嫌々でも、朝早く美容院に来て、振袖を着ているのだから。
美容師さんの話ではこうだ。
彼女は、成人式なんてバカバカしいものには絶対に出ないし、振袖も着ない、と反発していたらしい。
けれど、小さい頃から可愛がってくれた、近所に住む独り暮らしのお祖母ちゃんが、老人ホームに入ることになった。
そのおばあちゃんの、たっての願いで、仕方なく着物を着ることになったのだそうだ。
なるほど……。
しかし、あのクロヒョウのような、カワウのような、緋牡丹お竜(昔の映画です)のようないでたちを見たら、おばあちゃん、卒倒しないだろうか?
と、要らぬ心配をしてしまった。
圧倒的な存在感を残し、シガレット嬢は美容院を後にした。
さあて、次は私の番だ。
ところが、である。
なぜか、場の空気が「やり切った感」に包まれている。
「すみませーん、次、私なんですけど……」
美容師さんたちは、はっとしたように気を取り直し、私の支度に取りかかってくれた。
やせっぽちの私は、バスタオル状のものを腰にぐるぐる巻かれ、紐でぐいぐい縛られ、
「ごっつぁんです」
という感じで、まあ、それなりに仕上がった。
着付けてくれた美容師さんは、満足げな表情だ。
そこへ、「先生」と呼ばれている年配の女性が、最終チェックに現れた。
腕を組み、私の前後左右を回りながら、
「うーん……」
と言っている。
私は直立不動。
目線だけで、先生の腕組み姿を追う。
相変わらず、
「うーん……」
お願いだから、他の言葉を発してほしい。
ひたすら、祈る。
やがて先生は、着付けをしてくれた美容師さんを見て、
「なんか……バランスが」
と言った。
美容師さんは、小さくうなずき、「はい」
バランス!?
どこの、何の、バランス!?
もう、不安しかない。
すると先生は、
「あれ、持ってきて」
と言った。
隣の部屋から持ってこられた小箱の中には‼️
生理用ナプキン。
先生はそれを取り出し、袋を開け、折りたたまれたナプキンを広げ、裏のテープをはがすと、
「ちょっとごめんね」
と言うやいなや、振袖の襟を開き、ペタッ。
……貼った。
結局、合計4枚のナプキンが、振袖の襟の中に貼られていった。
やがて先生は、
「よしっ」
と満足げにうなずいた。
「あなた、胸が貧そうで、ちょっとバランスが悪かったのよねぇ」
「でも、これで大丈夫。上出来よ」
「ほら、大丈夫テープが付いてるから、動いても落ちてこないから」
まさか、生理用ナプキンに、こんな使い道があったとは。
市民会館で行われた成人の日の祝典は、厳かな雰囲気の中で執り行われた。
私の晴れ着の中のナプキンは、その後の祝賀会で、友人たちとワイワイガヤガヤ、キャッキャと騒いでも、ずり落ちることはなかった。
広い会場の中に、シガレット嬢の姿は見当たらなかった。
別の会場だったのだろうか。
ブラボーとビックリをない交ぜにしながら、私はこうして、大人の階段を一段、上ったのだった。
