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抗がん剤による脱毛について

娘が小学3年生の時にわたしは癌と診断された。
そのころ娘がいなかったら、そして母が存在しなかったなら、わたしは死んでもいいかもしれないと思ったかもしれない。
自分以上にダメージを受けているわたしの母と、まだまだ母親が必要な娘を思うと、これは死ねないなと生きようとする気力を振り絞っていた気がする。

せめて自分のことが自分でできるようになる中学生になるまでは、何としてでも頑張らなければならない。

その後、高校生になって成人になって独り立ち(したのか?)もできたことは、当時の心境を思えば夢のような現実となった。


病気を経験した方、まさに病と闘っている方のnoteを読むと、自分の記憶も蘇ってくる。

闘病記として、また少し話を追加していこうかと思う。



上咽頭がんは脳に近い場所であるため、手術は不可能だ。
この癌は放射線と抗がん剤の併用で効果が認められている。
わたしの場合は入院して放射線治療の間に併行して抗がん剤2クールを行うものだった。

最初の抗がん剤を終えるころから、髪が抜け始めた。

わたしはフラダンサー基本のロングロングヘアーだったのだが、入院前に肩の長さまでカットした。

最初は自分の病室の床に髪の毛がパラパラ落ちてるな~くらい。
誰のだ!と思ってたら自分のだった。
まだ抜けてきている感覚が無かったのだ。


シャワーはその日の朝に予約表に名前を書き込む。
早い者勝ちだ。


ある日、脱衣所で裸になりシャワー室に入って見た光景は、壁にも床にも排水溝にも石鹸カスと一緒に飛び散った黒々とした大量の髪の毛が張り付いた状態だった。

シャンプーで抜けた誰かの髪の毛が排水溝を塞いで、なんなら水も床に溜まったまま。

じ・ご・く


看護師さんを呼ぼうかと思った。
思ったけれど、短いシャワーの時間を無駄にしたくなかった。
一旦、裸になったのにまた服を着るのも嫌だった。

わたしは吐きそうになりながら、知らない野郎の大量の髪の毛を拾ってはゴミ箱に、拾ってはゴミ箱にと掃除を始めた。

ふざけんな…ふざけんなよ…

お前誰だ!あとで予約表チェックするからな!


そう思いながら、オエってなりながら、拾っては捨て、壁に飛び散ってる石鹸まみれの髪の毛をシャワーで流す。

やっと水が流れていくようになったので、急いで自分もシャンプーし、シャワー室を後にした。


まだ綺麗じゃないシャワー室を汚した犯人だと思われたくないので、看護師に報告すると、「言ってくれればよかったのに」と言われた。

確かに。
なんでわたしは自分でやっちゃったのだろう。
だけどよ、シャワー室のチェックを頻繁にしてくれていたらこんな思いはしなかったのに…と、心の中で怒りの矛先は病院側へ。

複雑な思いを抱えて、予約表で犯人チェックするのを忘れてしまった。


その数日後、シャンプー時にわたしの髪もごっそり抜け始めた。
すすぎの時に指で梳くたびに、束になって抜ける。
排水溝に溜まる。
このまま放置することは、誰かが地獄を見ることになるのを知っているわたしは、ちゃんと始末を忘れない。(当たり前だけど)

こうして毎回のシャンプー時の後始末は、ほぼ全抜けするまで続いたのだった。


2度の抗がん剤を終えで退院するころには、ほぼ毛のない状態で、残っている長い髪が数本ちらほら状態でとってもみすぼらしかった。
退院してすぐ、母にバリカンでつるっ禿にしてもらった。
父もつるっ禿。
二人並んで写真を撮る。
後ろから撮った二人の頭は同じ形をしていた。

ウィッグも買ってあったけれど、ほとんど使わなかった。
帽子一択で過ごした。


帽子屋で帽子を試着するとき、一旦自分の被っている帽子を脱がなければいけない。
その一瞬は髪の毛の無い頭が人に見えてしまう。
気にしたのはわたしではなく娘だった。
他人に見られないように、こそこそと娘がわたしの頭をカバーする。
自分が恥ずかしいからではなく、ママが恥ずかしい思いをしないように。
なんだか申し訳なくなった。



退院後、フラのステージがあった。
当然出ることは叶わないと思っていたけれど、先生が帽子で出ればいいと言ってくれて出演することができた。
ロングヘアーの仲間に交じって、一人だけ黒い帽子を被ったダンサー。
観ていた人はどう思ったのだろう。


癌は消えた。
半年後、メンテナンス治療として、念のために残っているかもしれない癌細胞を潰すためにもう一度だけ抗がん剤を体に入れた。
2センチほど伸びていた髪はまた抜けてしまった。


それでもちゃんと髪の毛は生えてくる。
様々は後遺症はあるけれど、髪に関してはなんら問題ございませんよと、病気と闘い始めて髪への不安を抱える人に言いたい。

あとは、「シャワー室は次の人のために綺麗に使いましょう」とも伝えたい。



【上咽頭がん体験記】
マガジンにまとめています。


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