天狗その4ー能や小説に登場する鞍馬天狗

鞍馬天狗というとまず思い浮かぶのが大佛次郎(おさらぎじろう、1897~1973)の時代小説です。この小説は幕末を舞台にした時代小説シリーズであり、主人公の神出鬼没の勤王志士である剣士が名乗る名前ですから、鞍馬寺の鞍馬天狗とは関係ありません。この小説は、大正13年(1924)に第1作が発表されて以来、昭和40年(1965)まで、長編▪︎短編計47作が発表され、何度も映画化▪︎テレビ化され、特に46本にのぼる嵐寛寿郎(あらしかんじゅうろう、1902~1980、本名は高橋照一〈たかはしてるいち〉)主演の映画は、鞍馬天狗の像を決定づけるものとなりました。彼が演じた「頭巾をかぶった覆面のヒーローが善を勧めて悪を懲らしめる」という構図は、後代の『月光仮面』や『仮面ライダー』などの仮面ヒーロー物の先駆けとなっています。
能の鞍馬天狗のあらすじについて、ウィキペディアの記事を引用します。 春の鞍馬山、僧(ワキ)が大勢の稚児を連れて花見にやってくるが、その席に怪しい山伏(前シテ)が上がりこんでくる。僧は憤慨する能力(アイ)をなだめつつも、花見は延期として稚児たちとともに去ってしまう。山伏は人々の心の狭さを嘆くが、しかし稚児の一人である牛若丸(子方)だけはその場に残っており、山伏と親しく語り合う。牛若丸の境遇に同情した山伏は、ともに桜の名所を巡り廻り、最後に自身が鞍馬山の大天狗であると明かして姿を消す。翌日、約束通り鉢巻▪︎薙刀を携えて牛若丸が待ち受けていると、各地の天狗たちを引き連れた大天狗が登場する。牛若丸の自分を想う心のいじらしさに感じ入った大天狗は、黄石公と張良の兵法奥義伝授の逸話を語り聞かせる。袖を取って別れを惜しむ牛若丸に、戦場での守護を約束して、大天狗は去る。となっています。この能は大佛次郎の小説とは異なり、鞍馬寺の天狗が登場します。ウィキペディアによると、稚児が多数出る華やかな前場に疎外された山伏と牛若丸の寂しさを描きつつ、逆に闇夜の山中に豪快な大天狗を登場させ、背景の明と暗、内容の暗と明を対照的に配置した作風が特徴的。天狗という「外道の魔物」を、「強きを挫き弱きを助ける」役として好意的に描いた点にも独創性がある。となっています。この「強きを挫き弱きを助ける」というところは大佛次郎の小説と共通しています。
ウィキペディアの上記説明にある「黄石公と張良の兵法奥義伝授」についてです。伝承によると、始皇帝の暗殺に失敗して身を隠していた張良(ちょうりょう)に一人の老人が橋の下に落とした履を拾うように言います。張良は素直にそれに従い、二人は5日後の再会を約して別れます。張良が行くと老人は既に来ていて、目上の人を待たせるとはと言って、5日後にまた会うことになります。行ってみるとまた老人が先に来ていて、再び5日後に会うことにします。張良は今度は早く行くと、老人は後からやって来て、「その謙虚さこそが宝だ」と言い、張良に太公望の兵書を与え、「この書を読み、10年後には王者の軍師となり、やがて王者の師となるだろう。その後13年して済北の穀城(現在の山東省聊城市東阿県)」の下に黄石を見るだろう。それが私だ。」と言いました。この老人の予言は全て的中し、張良はその黄石を祀りました。それでこの老人を「黄石公(こうせきこう)」と言います。張良は劉邦に仕え、多くの作戦を立案し、劉邦による漢の建国に多大な貢献をした人物です。


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