武士道 第14章 #113 アングロ・サクソンの夫婦の奇妙な行動を批判
#113 The individualism of the Anglo-Saxon cannot let go of the idea that husband and wife are two persons ; — hence when they disagree, their separate rights are recognised, and when they agree, they exhaust their vocabulary in all sorts of silly pet-names and nonsensical blandishments.


私の訳:
アングロ・サクソンの個人主義は、夫婦は二人の人間であるという考えを捨てきれない。それ故、彼らは意見が合わなければそれぞれの権利を主張し、彼らが同意すれば、ありとあらゆる愚かな愛称やたわいない愛の言葉で語彙を使い果たすのである



英単語・表現解説
Individualism (インディヴィジュアリズム):
個人主義個人の権利や自由、独立を重視する考え方。
Anglo-Saxon (アングロ・サクソン):アングロ・サクソン人
主にイギリス系(英米)の文化や人々を指す。
Cannot let go of... (キャノット・レット・ゴー・オブ):
~を捨てきれない、~に執着する。「離さない」という意味から、古い考えや信念を頑なに持ち続けている様子。

Husband and wife are two persons:夫と妻は2人の別々の人間である
日本の伝統的な「夫婦は一体(一つの家族)」という考え方と異なり、西洋では「別々の個人が契約で結ばれている」という見方を指しています。
Hence (ヘンス):だからこそ、したがって
前の文(理由)を受けて、結果を導く文頭でよく使われる。
Disagree (ディスアグリー):意見が食い違う、不和になる
Separate rights:別々の(個人の)権利
Nonsensical blandishments (ナンセンシカル・ブランディッシュメンツ):馬鹿げた感心しきりの甘い言葉
Nonsensical : 意味のない、馬鹿馬鹿しい。
Blandishment : お世辞、感心させるような甘い言葉。

Recognised (レコグナイズド):認められる法的に、または周囲から存在が認められること。
Exhaust their vocabulary (イグゾースト・ゼア・ヴォキャブラリー):語彙を使い果たす
Exhaust : 疲れ果てさせる、使い果たす。
Vocabulary : 語彙、ボキャブラリー。
「その言葉を使い尽くすほど、熱烈に」という誇張表現。

In all sorts of … :あらゆる種類の~
Silly pet - names (シリー・ペットネームズ):愚かな愛称、馬鹿げた呼び名
Pet - name: 愛称(ハニー、ベイビー、ダーリンなど)。
Silly : 馬鹿げた、他愛のない。ここでは少し冷ややかな目線。
Nonsensical blandishments (ナンセンシカル・ブランディッシュメンツ):馬鹿げた感心しきりの甘い言葉
Nonsensical : 意味のない、馬鹿馬鹿しい。
Blandishment : お世辞、感心させるような甘い言葉。

櫻井鴎村の訳の解説

この文章は、キリスト教的な「夫婦は合して一体となる」という思想に対し、アングロ・サクソン人種(英米人)の個人主義的な男女観を対比させ、その極端な二面性を批判・描写したものです。
以下に意味を分かりやすく解説します。
1. 全体的な意味
夫婦を一つの存在と見なす思想(一体感)を、個人主義的なアングロ・サクソン人は受け入れることができない。彼らは関係が悪化すればすぐに個人の権利を主張して対立し、逆に仲が良い(協調する)時には、バカバカしいほどの甘い愛の言葉を並べ立て、これ以上ないほど甘え合うという、極端な振る舞いをするものである。
2. 文節ごとの解説
然るにアングロ、サクソン人種の個人主義は、夫婦を以て二人なりとするの思想を排除する能はず
意味: しかしながら、アングロ・サクソン人の「個」を尊重する姿勢は、「夫婦は一つ(一体)」と考える思想を否定できない(どうしても夫婦を「二人(別々の個人)」と見なしてしまう)。
彼等の一旦反目するや、個々の權利は直ちに承認せられ
意味: 彼らが一度仲違い(ケンカ)すれば、直ちに「夫婦」ではなく「二人の個人」として、それぞれの権利が主張される(一体感はすぐに消え去る)。
其唱和するや、癡呆の寵稱、愚劣の諛辭を恣にするに、言語もこれ足らず
意味: (逆に)仲が良い時には、馬鹿げた愛称や愚かなお世辞(甘い言葉)を思う存分言い合い、言葉が足りない(言葉では尽くせない)ほど、極端に甘い関係になる。
※「癡呆(ちほう)の寵稱」=バカバカしいほど可愛い呼び名、ハニーなど
※「愚劣の諛辭(ゆじ)」=馬鹿馬鹿しいほどの下手な愛の言葉
※「恣(ほしいまま)にする」=思う存分やる
3. 背景
新渡戸稲造は、日本の武士道が重んじた夫婦の奥ゆかしい愛情や、全体(家)の中での夫婦の一体感と比べ、西洋(英米)の個人主義に基づく夫婦関係の極端さ(仲が悪い時は殺伐とし、良い時は甘すぎる)を対比的に描き、その人間模様を評しています。



「諛」は、相手の機嫌をとって気に入られようとする「へつらう」「おもねる」「こびる」を意味する漢字。音読みは「ユ」、訓読みは「へつらう」「へつらい」。言偏(ごんべん)に「兪」を組み合わせた15画または16画の漢字で、主に「阿諛(あゆ:相手に気に入られるよう調子を合わせること)」という熟語で用いられる。
詳細な情報は以下の通りです。
読み方:
音読み: ユ
訓読み: へつらう、へつらい
意味:
相手の顔色を見て気に入られようとする。
媚びる、おもねる、機嫌をとる。
字形・構成:
部首: 言偏(ごんべん)
画数: 15画(または16画)
関連語・熟語:
阿諛(あゆ): 相手に媚びへつらうこと。
阿諛追従(あゆついしょう): 相手にこびへつらい、機嫌をとり従うこと。
「諂(てん)」とともに「諂諛(てんゆ)」としてへつらう態度を表す際にも使われます









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