✨理系女性が直面するキャリアの壁 ~女性だからこそ歩めるキャリア:1章⑦大学生編~
✨シリーズ記事『女性だからこそ歩めるキャリア』 1章⑦:理系女性が直面するキャリアの壁
前回の振り返り
1-6では就活で「正解」を選ぼうとする守りの思考から抜け出し、20代前半〜中盤という「最も自由にふるまえる時期」に自分の意思を貫く選択の大切さを考えました。
今回は理系に進んだ・進もうとしている女性に向けて、その先に広がるキャリアの可能性と構造的な課題を整理します。
🪴理系に進んだ女性の方へ
就活では「理系女子は有利」と言われることがあります。
確かに、理系出身者は専門性を持つ人材として評価されやすく、内定満足度も高い傾向があります。
でも「理系に進めば安泰」という言葉は、就活という一時点の話にすぎません。
理系女性の大半は民間企業に進みます。
研究者を目指す人もいます。
どちらの道を選ぶにしても、理系という選択は確かな武器になる。
でもその武器をどう使うかは、自分で設計する必要があります。
この記事は理系に進み、その構造を知った上で、「常に選択肢を広げるという姿勢」を持てるように書いています。

📊 まず知っておきたい:理系女性が少ない理由
内閣府男女共同参画局の調査によると、大学学部生における女性比率は工学系で15.8%、理学系で27.8%です。
保健・医療系(66.5%)や人文科学系(63.7%)と比べると、大きな偏りがあることがわかります。
でも、ここで重要なことがあります。
OECD(38カ国の先進国が加盟する機関)のPISA調査(学習到達度)では、日本の女子生徒の数学・理科の成績はOECD平均を上回っています。
数学の問題ごとに正答率を見ると、6問で女子の正答率が高く、8問で男子の正答率が高い。理科では12問で女子の正答率が高く、9問で男子の正答率が高い。
つまり理系科目における学力差は、ほぼありません。
さらに、日本よりPISAの男女得点差が大きい国でも、女性研究者比率がはるかに高い国は存在します。
問題は学力ではなく、理系への関心や環境にあることが、国際データから明確に示されています。
アファーマティブアクション(女子枠入試)の議論が最近活発になっています。
東工大は「理工系女子学生の少なさは社会的・歴史的な流れの中で生じたものであり、積極的に是正していきたい」という立場から女子枠を設けています。
一方で「優遇されるべきではない」「無理に枠を作るより、理系に進みたい女性を増やす工夫が大事」という意見もあります。
賛否はあります。
でも一点だけ伝えたいことがあります。
女子枠やアファーマティブアクションを通じて理系に進んだとしたら、「自分は実力が足りないのでは」という不安を持つかもしれない。
その不安は構造への正しい反応です。
でも問題はあなたの能力ではなく、女性が理系に進みにくい環境が長く続いてきたという社会の構造にあります。
入試改善は機会の均等であって、研究者の実力とは関係ありません。
自分を卑下する必要はまったくないんです。
では、その力をどう使っていくか。
民間企業に進む場合と、研究者を目指す場合、それぞれ見ていきます。
💼 民間企業に進む理系女性へ:理系の力の使い方
理系出身者の多くは民間企業に進みます。
研究職・技術職だけでなく、活躍できるフィールドは想像以上に広い。
少し具体的に見てみましょう。
データサイエンス・マーケティング:仮説を立てて検証するという研究室でやってきたことが、そのまま武器になります。
「なぜこの商品が売れるのか」「どのユーザー層に届けるべきか」を、感覚ではなくデータで語れる人材は今も不足しています。
コンサルティング:ものごとを構造的に分解して考える力が、そのまま問題解決に転換できます。
理系出身者がコンサルに向いている理由のひとつです。
技術営業・プロダクトマネジメント:専門知識と対人の力を両方使える仕事です。
理系女性はこのポジションに少ないからこそ、希少価値が高い。
クライアントの気持ちを読みながら、技術的な判断もできるという強みが直接活きます。
医療政策・教育・社会課題領域:感じる力がある理系女性が特に輝きやすい分野です。
データで社会の構造を読みながら、人の痛みにも気づける。
この両立は、文系でも理系でも単独では難しい。
理系で培った「構造的に見る力」「データで判断する力」「仮説を検証する力」は、職種を超えて使えるポータブルスキルです。
そして感じる力がある理系女性は、論理と感性の両方を持っています。
その組み合わせは、どの職場でも希少です。
ただし、民間企業でも構造的な壁がないわけではありません。
総合職として採用されても、理系出身の女性は技術サポートや調整役に配置されやすいというパターンがあります。
同期の男性が専門性を評価されて前線に出ていくのに、女性は「話しやすいから」「気が利くから」という理由で、橋渡し役を期待されやすい。
これは能力の問題ではなく、評価バイアスの問題です(2章①で詳しく扱います)。
もう一つ、知っておいてほしいことがあります。
理系就活の特徴のひとつが「推薦枠」です。
教授・研究室からの推薦状が就職先を左右しやすい。
大きなチャンスでもありますが、指導教員との関係に強いパワーバランスが生まれやすい構造も持っています。
アカデミックハラスメントのガイドラインには、「正当な理由なく推薦状を書かない」「希望しない就職先をあっせんする」「女性はこの研究に向かない」という発言などが、アカハラとして明記されています。
推薦枠に頼らず自分で動く選択肢として、就活エージェント・理系女性向けのキャリアコミュニティを使うことも覚えておいてほしい。
もし研究室の中で「おかしい」と感じることがあれば、一人で抱え込まないでください。
大学の学生相談室・ハラスメント相談窓口に話してほしい。
あなたの違和感は、正しい可能性があります。
研究室での経験を経て、研究者の道を目指す場合には、また別の構造的な壁があります。
🔬 研究者を目指す場合:日本国内の構造的な壁
研究者を目指すなら、知っておいてほしい現実があります。
博士号取得後に任期制の研究員(ポスドク)に就いた人のうち、翌年に大学教員や研究開発職に就職できたのは2021年度で17.2%にとどまりました。
若手研究者の64%が任期付き雇用という不安定な状態にあります。
民間企業の博士採用も、新卒一括採用システムの壁があり、ポスドク期間中の人材を受け入れる仕組みが整っていない。
生涯賃金レベルで1〜1.5億円の差が生じるというデータもあります。
これが女性に特に深刻な理由があります。
ポスドク研究者の平均年齢は38歳前後です。
この時期は、出産・育児を考える時期と完全に重なっています。
安定したポストがないまま育休を取れば、戻る場所がない可能性がある。
女性研究者が少ない理由として、
「家庭との両立が困難(女性66.2%)」
「育児期間後の復職が困難(女性46.6%)」
「育児・介護等への配慮がない(女性36.2%)」
というデータがあります。
育児後に研究を続けられた場合でも、課題は続きます。
研究のブランクが論文数・学会発表の実績に直接影響する。
配置転換で出世コースから外れる。
コロナ禍では、育児負担が増えた女性研究者の論文割合が男性より減少したという報告が世界で相次ぎました。
「続けられても」起きることがある。
これが日本の女性研究者の現実です。
ただし、「だから研究者は無理だ」という結論ではありません。
これは個人の努力では超えにくい構造の問題であって、あなたの能力の問題ではありません。
そして選択肢は国内だけではありません。
日本の構造を知った上で、視野を海外に広げてみると、見えてくるものがあります。

🌍 選択肢は国内だけではない:海外という視点
フランスには「CIFRE制度」という産学連携の仕組みがあります。
企業と大学の契約により企業が博士課程学生を3年間雇用し、学生は企業と大学から指導を受ける。
修了後12ヶ月後の就職率96%、そのうち78%が企業に就職。
年間1,300人程度を採択しています。
スウェーデンでは専業主婦は女性のわずか2%。
男性の育休取得率は約90%。
1歳児の母親就業率は78.8%に達します。
フランスでは労働法典が、出産後に女性を同職位・同賃金に復職させることを使用者に義務づけています。
これらの国で女性研究者が多い理由は制度設計だけではありません。
「女性が働くことが当然」という社会規範が根底にある。
そしてその規範が制度として具体化されている。
欧米の主要大学では「デュアル・キャリア採用プログラム」も整備されています。
研究者夫婦の両方を同じ大学または近隣大学に採用することを支援する制度。
日本では夫婦ともに研究者の場合、ポストを求めて別居や遠距離通勤を余儀なくされるケースが少なくないことと対照的です。
日本の女性研究者が海外を選びにくい構造もあります。
パートナーのキャリアとの調整、育児と海外移住の重なり、実家サポートからの切り離し。
これらは実際に壁になります。
でも知っておくことと知らないことでは、将来の可能性が変わります。
海外ポスドク・国際共同研究・学会発表という形で、20代のうちに国際的なネットワークを育てておくことが、後から選択肢を広げる土台になります。
そしてここで、もう少し大きな視点で考えてみたいことがあります。
キャリアを動かすのは、スキルだけではないということです。
🌱 キャリアは学びだけでなく、人との出会いと環境で変わる
ここで少し視点を変えてみます。
海外経験が研究職に直接つながらなくても、それは無駄ではありません。
キャリアを振り返ったとき、大きな転換点になったのは「スキルを身につけた瞬間」よりも「ある人と出会った瞬間」「ある環境に置かれた瞬間」だったという経験を持つ人は多い。
異なる文化・異なる価値観・異なる働き方に触れることで、「自分がどう生きたいか」という問いが深まることがあります。
女性研究者が支援として最も必要としているのは、「人生の岐路での相談相手」だという調査結果があります。
「自分のキャリアのために子どもを一人置いて海外に行くべきか」
「遠方にポストが空いたときどうするか」
という判断を、一人で抱えているという声が多く聞かれます。
一人で抱えないでほしい。
構造を知っている人・経験を持つ先輩研究者・研究者支援専門のキャリアコンサルタントへの相談が、この時期の最も価値ある投資になります。
L'Oréal-UNESCO女性科学者日本奨励賞など、女性研究者を支援する国際的なネットワークも存在します。
🌿 データで語れて、人の気持ちも読める
最後に、この記事全体を通じて伝えたかったことを、一言で言います。
理系女性の強みは「論理と感性の両立」にあります。
研究室でデータを読み、仮説を検証してきた力。
そして、感じる力があるからこそ、チームの空気を読み、相手の言葉の裏を察知できる力。
この二つを同時に持っている人は、文系でも理系でも少ない。
民間企業でも、研究職でも、海外でも、この組み合わせはどの場所でも希少な価値を持ちます。
「データで語れて、人の気持ちも読める」という力は、これからどんな職場でも、どんな時代でも、必要とされ続けるものです。
構造的な壁は、確かにあります。
研究職のポスト不足も、民間企業での配置のバイアスも、推薦枠のパワーバランスも。
でもその壁を知った上で、自分の力をどのフィールドで使うかを設計できるのが、構造を知っているあなたの強みです。
理系に進んだことは、正しかった。
どうかその力を、自分のために使ってくださいね。🌿
次回は、海外志向の女性が直面するキャリアとライフステージの衝突について見ていきます。→ 1-7「海外志向の女性が直面する、キャリアとライフステージの衝突」
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