【読書感想文】BUTTER 太ります、ボリュームがあります、生きにくい世の中を適切に生きていくコツ
文章を読むと、お腹がすきます。太ります。ダイエット中のかたはご注意を。
ほかほかと柔らかく温かい湯気をたてる炊き立ての白米を、お椀にこんもりと盛りつけ、フランス産の1本千円ほどのバターを豪勢に切りわけのせる。
お好みで醤油を1滴、2滴。
冒頭にもっと綿密で、もっと美味しそうな文章が飛びこんでくる。
あぁ、いま冷凍庫にバターあったけなと、本を置き、いそいそと腰をあげてしまう魔力がある文章。
ボウルにたっぷりのタラコをいれ、そして赤と白が拮抗するほどのバターをいれる。
やおらフォークでタラコの繊細な皮をぷちぷちとつぶし、バターと混ぜあわせると、魚卵が歓喜する声が聞こえてくる。
そして、茹であげたパスタを、コレストロール値マックスな紅白のソースと混ぜあわせる。
お好みで紫蘇を少々。海苔は香りが濃厚な香りを阻害する。
お腹を叩けば、カンっと硬質な音が響くわたるほどに体の芯まで冷えこんだ状態で、メガネが曇りそうな湿度と気温のラーメン屋に飛びこむ。
注文するのは、塩ラーメン。ただし、バターはもりもりで。
淡泊な塩ラーメンに、濃厚なバターをおとしこむなんてギルティーといわざるをえないが、健康にデンジャーなものを食したときにこそ、人間の脳から幸福な波紋がひろがる。
なお作中では、性行為をいたしたあとにバターたっぷり塩ラーメンを食べること、と条件がつけられている。
冒頭からつづく文章の行間からは、バターのこってりとした湿潤にとんだ、あのかほりが、たちのぼってくる。
作品に登場する人物のひとりはいう。
低カロリー、淡泊、淡麗、なにがたのしくて、そんな薄っぺらなものを食べなければならないのか。
美食を追求しない人生のなにが楽しいのか。
おいしいもの、それも、安くておいしいものを食べたいと常々かんがえているおれは、いちもにもなくその人物の意見に賛同した。
さて、本質的に『BUTTER』は、女性の物語である。
男であるおれは女性の生きぬくさは想像できる、けれども実感はできない。
なので、『BUTTER』についての感想を書く資格がないのかもしれない。
それでも筆をとったのは、いま生きていて、息苦しい、ふとした瞬間に違和感をおぼえる、仕事の悩み、女性の生きるヒントがあちらこちらに埋めこまれていたからだ。
たとえば、日本の男、いや、世界の男たちがもつ痩身信仰。
女性は、痩せていなければならない。
その信仰に苦しめられている女性はおおいと思う。
過酷な食事制限、あやしげなサプリ、脂肪吸引。
世の中には、たくさんのダイエット方法が紹介されている。
下手したら東京の夜空に燦然と輝く天ノ川の星よりもおおくのダイエット手段が存在しているかもしれない。
そんなとき、なぜ痩せるのか?
自分の軸がどこにあるのか?
いちど見直してみようぜ、と作者はメッセージをこめられているように感じた。
適切・適度が大事だぜと。
自分の理想の体型をもとめるために、ダイエットや運動にはげむのであればいいだろう。
ただただ、男性にもてたいからと病的に痩せるのはどうだろうと疑問をなげかけられているようにも感じられた。
瘦身信仰は、男たちが作りだした負の遺産でもある。
よく芸能人とかを見て、ふとった、でぶったと男たちは軽口をたたく。
それを聞いた女性は、あれで太っているのかと驚き、もしかしたらとお腹の肉をつまむかもしれない。
それが、好意を寄せている男が発したのであれば、女性は必至でダイエットにはげまれるだろう。
人の美醜、体重についてはお口にチャックをしましょうね、男性諸君。
そのようなことを考えていると『BUTTER』のなかの男たちのほとんどが、ダメンズであり、ドメスティックな傾向をもつクズばかりだったなと気づいた。
物語の終盤に主人公にお呼ばれする男たちは、寛容さ、度量があり、過ちをしっかりとうけとめ、謝罪できる誠実さがあった、
男が幸せに生きていくために必要なものも作中に書かれていた。
なんにせよ、いま悩んでいる、苦しんでいるのであれば、まわりにいる誰かにたよってみる。
拒絶されることもあるかもしれない。
状況が改善しないかもしれない。
そんなときは、自分が逃げこめる場所を作る。
人生の嵐から逃げこむことができる避難所を見つける。
避難できる場所を見つける、作りあげるのはむずかしいことではあるが。
また困ったことに、その逃げ場所に依存してしまうかもしれない。
いろいろと考えた結果、やはり自分でどのように生きるか決めるしかないんだぜ、という結論に落ちつくしかないのかもしれない、人生ってやつは。
ほかほかの白米、茹でたてのパスタに、どれだけのバターをのせるのかは、あなたが決めること。
