開業ぶっちゃけトーク 番外編「開業って、今ぶっちゃけどうなの?」― 新規開業・承継・地縁・落下傘、結局どれがいい?
「開業って、今どうなんですか?」
開業を考えている先生から、よく聞かれる質問です。
新規開業と承継、どちらがいいのか。
地元で開業した方がいいのか。
それとも、縁もゆかりもない場所で開業しても大丈夫なのか。
私自身は、地縁なし・患者さんの引き継ぎなしで新規開業しました。
だからこそ、いろいろな形で開業した先生の話を聞くと、それぞれのメリットと大変さがよく分かります。
今回はメインの開業トークの番外編を"ビールなし"でお届けします。
私は「ゼロからの開業」だった
私の場合、開業前から診ていた患者さんを連れてきたわけでも、勤務先から患者さんを紹介してもらったわけでもありません。
本当にゼロからのスタート。
当然ですが、最初は集患に苦労しました。
クリニックを作ることと、患者さんに来てもらうことは全く別です。
ホームページを作り、看板を出し、地域の方に知ってもらい、少しずつ患者さんが増えていく。
この「患者さんを集める」という部分は、新規開業の大きなハードルだと思います。
早く黒字化した先生が羨ましかった
以前、郊外で開業された先生とお話しする機会がありました。
コンサルタントから、
「周囲に競合がない」
「ここなら絶対に患者さんが来る」
と勧められて、その場所で開業されたそうです。
実際、患者さんは早い段階から集まり、黒字化までの期間も短かったとのこと。
新規開業で集患に苦労した私からすると、これは正直、かなり羨ましかったです。
ところが、さらに話を聞いてみると、その先生は夜遅くまで診療し、土日も診療しているとのこと。
それを聞いて、
「患者さんが来れば、それでいいというわけでもないんだな」
と思いました。
さらに印象に残ったのが、先生ご自身は都内に住んでいて、クリニックは都外にあるということでした。
毎日、車で1時間ほどかけて通勤されているそうです。
縁もゆかりもない土地での開業です。
私だったら、開業場所を考えるとき、まず「自宅から通いやすいか」をかなり重視していました。
子育てとの両立も考えていましたし、子どもが小学校から帰って、習い事に行く前の時間に立ち寄れるような、いわば**「サテライト」のような位置づけ**になればいいなと思っていました。
そのため、自宅と学校、そしてクリニックの位置関係は、私にとってかなり重要な条件でした。
ところが、その先生は、
「高速を使えば自宅からのアクセスも悪くないし、これまで大学病院に勤務していたことを考えれば、1時間くらいの通勤はそれほど苦ではない」
と話されていました。
なるほど、そういう考え方もあるのか。
自宅の近くで開業することを最初のスタートラインにしていた私とは、発想が180度違いました。
その先生が開業するにあたって、譲れなかった条件は、
「絶対に経営難になりたくない。儲かりたい」
ということだったそうです。
これも、私にとってはかなり目から鱗でした。
私自身は、「どういうクリニックを作りたいか」「どういう働き方をしたいか」というところから開業場所を考えていました。
一方で、その先生は、
「患者さんが来る可能性が高く、経営として成立する場所なら、多少通勤時間がかかってもいい」
という考え方。
どちらが正しいということではありません。
むしろ、開業にあたって何を一番大切にするかは、人によって全く違うのだと思います。
私たちは開業場所を考えるとき、
「自宅から近いか」
「土地勘があるか」
「知り合いがいるか」
という視点で考えがちです。
でも、それだけではなく、
「どれくらい患者さんに来てほしいのか」
「どれくらいの規模にしたいのか」
「どこまで働くことを許容できるのか」
「経営上、どこまでの収益を目指すのか」
という視点も必要なのかもしれません。
もちろん、その先生のように長時間診療や土日診療をすることが、自分にとって良いのかはまた別の話です。
結局、
自分のクリニックをどこまで大きくしたいのか。
どこまで働きたいのか。
どこまで通勤時間を許容できるのか。
そして、経営に対して何を求めるのか。
そこまで含めて考えないと、単純に
「患者さんがたくさん来る=成功」
とは言えないのだと思います。
そして何より、この先生とお話しして、
「自分にとっての理想の開業」と「他の先生にとっての理想の開業」は、全く違うんだな
と改めて感じました。
承継はやっぱり強い。でも、承継だから安心でもない
最近、大学の先輩が開業されました。
大学の先輩が診療していたクリニックを承継したため、開院日に30人ほど患者さんが来たそうです。
さらに大学病院からも近く、患者さんを紹介してもらえる。
新規開業でゼロから患者さんを集めた私からすると、これはかなり羨ましい環境です。
一方で、その先生も、
「毎日、夜遅くまで仕事が終わらない」
と言っていました。
承継には、患者基盤という大きなメリットがあります。
でも、それだけで経営が安泰とは限りません。
実際、別の先生から聞いた話では、お父様の代から続くクリニックを承継したものの、経営に苦戦しているケースもありました。
都心ではあるものの駅から遠く、一般内科が中心で、現在の院長先生自身が打ち出せる専門性もあまりない。
そこで美容皮膚科を標榜し、自費診療も始めたものの、なかなか集患につながらない。
予約表を見ても空きが多く、最終的には倒産の危機にあると聞きました。
もちろん外から聞いた話なので、そのクリニックの事情をすべて知っているわけではありません。
ただ、少なくとも、
「承継=成功」ではない
ということは分かります。
結局、大事なのは「どんなクリニックを作りたいか」
いろいろな先生の話を聞いていると、結局ここに行き着きます。
新規か承継か。
地縁か落下傘か。
それぞれにメリットがあります。
でも、それ以上に重要なのは、
「自分はどんなクリニックを作りたいのか」
だと思います。
患者さんをたくさん診て、大きなクリニックにしたいのか。
診療時間を抑えて、家族との時間も大切にしたいのか。
専門性の高い診療をしたいのか。
地域のかかりつけ医になりたいのか。
自分が毎日診療しなくても回る組織を作りたいのか。
ここが曖昧なまま開業すると、診療だけではなく、採用・労務・集患・広告・資金繰りなど、勤務医時代には経験したことのない仕事に忙殺されることになります。
その結果、
「こんなに大変なのに、思ったほど採算が合わない」
「こんなはずじゃなかった」
となってしまう可能性があります。
だから私は、
「勤務医が辛いから開業する」
というのは、少しリスクが大きいと思っています。
開業は、勤務医から逃げるための場所にするには、背負うものが大きすぎます。
それでも、開業には勤務医にはない面白さがある
一方で、開業して良かったと思うこともたくさんあります。
一番大きいのは、
「自分で決められる」
ことです。
診療内容も、診療時間も、クリニックのコンセプトも、設備も、スタッフも。
もちろん法律や経営上の制約はありますが、それでも勤務医時代とは比べものにならないほど、自分で考えて決めることができます。
そして、私にとって一番嬉しいのは、
大学病院のブランドで患者さんが来ているわけではない
ということです。
地縁もなく、患者さんを連れてきたわけでもありません。
それでも、私たちが考えて作ったクリニックの理念や診療方針に共感して、
「ここで診てもらいたい」
と来てくださる患者さんがいる。
これは、勤務医ではなかなか経験できない喜びです。
開業に決まった正解はない
新規開業がいいのか、承継がいいのか。
地縁があった方がいいのか、落下傘でもいいのか。
私は、全ての人に当てはまる正解はないと思います。
ただ一つ言えるのは、
開業する前に「自分は何をしたいのか」をできるだけ明確にしておいた方がいい
ということ。
そのビジョンがあれば、開業後に大変なことがあっても、
「自分はこれをやりたくて開業したんだ」
と思える。
そして何か大変なことがあってもブレない。
逆に、そこが曖昧なまま「勤務医が辛いから」という理由だけで開業すると、想像以上の経営の仕事に追われたとき、
「こんなはずじゃなかった」
となってしまうかもしれません。
私自身、地縁なし・患者なしの新規開業で、集患には苦労しました。
それでも、自分たちの理想を形にして、それに共感してくださる患者さんが少しずつ増えていくことには、大きな喜びがあります。
だから私は今のところ、
「開業して良かった」
と思っています。
次回は
開業準備 第三章|物件選び
――自分らしく、長く続けられるクリニックをつくるために
を近日中に公開します。
