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ともだちだった怪獣たちへ

母が一月に亡くなった。
父と弟と後処理をするために、ちょこちょこと実家に帰ることが増えた。家探しをしていると懐かしいものが出てきた

1991年8月1日講談社より発売
責任編集・監修 円谷プロダクション
※大人になってから調べたが、
本来はカラー写真の付いたカバーがあったようだ

僕が幼い頃、母がバザーで買ってきてくれた『ウルトラマン大図典』だ。ガムテープとセロハンテープの補強が痛々しい。
「10円で買ってきた」
母が買い物上手なのは知っていたが、天才だとは知らなかった。幼心に思った日だった。
この頃は事情があって一人でいることが多かったので、この本に大層慰められたことを思い出す。


僕が産まれたばかりの時から、父は借金を返す為に、東京に出稼ぎに行っていた。
大人になって思ったことがある。
平成の世に「出稼ぎ」なんてワード使うんやなと思った。
少なくとも他所の家庭で出稼ぎした話は聞いたことがない。
もう30年も前の話だが、今思い出してもあの時の寂しさが甦ってくる。

6、7年間母と二人暮らしだった。
夕方、保育園のお迎えはいつも居残り組で、最後の一人か二人になるまで残っていた。
小学校にあがると、鍵っ子デビューをした。
洋画なんかで必ずパパママが送り迎えしているシーンを見ると、当時の自分との格差に驚く。

母が帰ってくるまで、とにかく退屈だった。
何をして暇を潰していたかは、正直全てを覚えていない。
ただウルトラマンや怪獣のソフビで遊んでいたことだけは覚えている。
当時リアルタイムでウルトラマンシリーズのテレビ放送はなかった気がするが(知らないだけであったかもしれない)
父の影響でウルトラマンやゴジラやガメラが好きになったのだ。
特に怪獣が好きだった。
ウルトラマンは強くてかっこいいが、色も形もほとんど同じで、子供目線でもワンパターンな造形だと感じた。
それに比べて怪獣は角があったり、羽があったり、牙があったり、炎を吐いたり、冷凍光線を吐いたりオプションてんこ盛りなのだ。
僕は怪獣に夢中だったし、大事なともだちだった。

そんな時にこの本を与えられた。

初代『ウルトラマン』の怪獣達。
何話登場、人間と対立する理由、身長体重、
細かく書いている。


ウルトラマンの前身番組『ウルトラQ』から、当時の新しい作品『ウルトラマン80』『ウルトラマングレート』までの怪獣が何百体も載っていた。
当時の僕はこれを気が狂ったように読んだ。

全作品の放映リストまで載っている。

これを見てたくさん怪獣の絵も描いた。
これを見て親族や父に怪獣クイズを出したような気もする。
今思えば怪獣が、僕にとって人生初めての「推し」だったのかもしれない

父が出稼ぎから帰ってきて、一緒に暮らせるようになってとても嬉しかった。
当時は平成ゴジラ、平成ガメラの映画が大人気だった。
いつも父と観に行った。
そこでも怪獣クイズを父に出した。
近くの席の子が僕の怪獣クイズを盗作して、その子のお父さんに出題していたので
「真似せんといて!」と怒った事も懐かしい。
パンフレットも全て買ったし、まだ実家に保管してある。
当然パンフレットも気が狂うほど読んだ。
僕と父と怪獣は、セットで思い出になるようになった。

小学校高学年の時、『ゴジラVSデストロイア』でゴジラが死んだ。
ゴジラが死ぬことなんてあんのかよ、とショックを受けた。
まだ身内が死んだ事が無かったので、何かが終わると言うことを、ここではじめて実感したかもしれない。
平成ガメラも『ガメラ3』で終わってしまった。
怪獣クイズを出した愛宕町の映画館ももう無い。
遊んでくれたソフビ達も、あの頃流行ったゴジラの指人形も、夏休みに親父が段ボールで作ってくれた1メートルのガメラもどこかに行ってしまった。
10円で『ウルトラマン大図典』を買ってくれた母ももういない。

普通は高いもんを威張るのに、10円で買ったもんが誇らしいのがウチらしいかもな。
プレゼントの価値は値段じゃないと、あの頃から僕は母に教わっていたのだ。

今、父は白内障の手術で入院をしている。
本当は母が送り迎えをする予定だった手術である。
今週は右目、来週は左目の予定だ。
母が死んだ時、強面の父がボロボロ泣いていたのを思い出す。
目の手術をしたら、前よりもっと泣いたり、逆に涙が止まったりするんかなと、くだらない妄想をしながら、今現在『ウルトラマン大図典』のページをめくっている。

僕と弟は実家を出て暮らしている。
母が死んで父は一人暮らしになってしまった。
幼い頃僕が夕方に感じた寂しさを、父は何日も感じているのだろうか。この先何ヵ月も感じるのだろうか。
弟はどうだろうか。
正直僕も立ち直っていない。

母が買ってくれた『ウルトラマン大図典』の表紙をさすりながら思う。
立ち直るしかないのだ。
幼い頃、物悲しい夕方に怪獣たちにパワーをもらって寂しさを跳ね返したように、なんでもないことや、くだらないことをエネルギーにして立ち直るしかないのだ。
6歳の自分にできた事だ。
29歳と37歳と66歳でもできるはずだ。
空元気でも元気だ。
熱線を吐き出す前に背びれが青白く光るゴジラをイメージする。
甲羅の穴という穴から光を発しながら、高速回転をして飛び立つガメラをイメージする。
怪獣たち、久しぶりに僕に元気を分けてくれ。

明日はこの本の破れているところにテープを貼る。
来週、両目の手術が終わった父に見せよう。
その時に昔お母さんが買ってくれた事も伝えよう。
お母さんが10円で見つけた事を伝えたら、笑うだろうな。それとも覚えてるかな。
手術をして綺麗になった目から、涙が出ないことを祈る。
もし泣かないまま笑ってくれたら、その時は怪獣たちに感謝を伝えないと。
寂しかったあの時も、今も、そばに居てくれてありがとうって。




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