第5シリーズ|AI時代の採用論:AIで差がつかなくなった、は本当か?― ESは、そもそも何を見ていたのか ―
AI時代の就活について、すでに学生向けには「AI時代の就活戦略」
のなかで、
「自分の歴史の因果を一本線で語れ」
と書いた。
一方で、企業側が直面している問題は、まったく別の場所にある。
学生は“中身”を出せば差がつくのに、企業は長い間、“中身ではなく文章の綺麗さ”だけを見てきた。
だから今、「AIで差がつかなくなった」と言われて戸惑っている。
でもそれは、AIが悪いのではない。
企業が “外側” しか見てこなかった事実が、ただ露呈しただけだ。
学生と企業、立場は違うのに、行き着く解は同じ。
AIが表面を均一化した今、どちらも “中身” を見ない限り、採用は成立しない。
このシリーズは、その企業側の問題を、本質から捉え直していく。
──そしてここからが本題。
「そもそもESは、何を見ていたのか。」
生成AIの普及によって、エントリーシート(ES)の文章が均質化し、
企業が学生の違いを見分けられなくなった―
という説明だ。
一見すると、もっともらしい。
けれど、この説明には、どこか引っかかるものがある。
本当に、AIが“差”を消したのだろうか。
それとも、もともと見ていた“差”が、
実はかなり限られたものだっただけなのではないか。
ESは「能力評価」だったのか?
そもそも、ESは何のために存在していたのか。
多くの人は、
「学生の能力や個性を見抜くため」
と答えるかもしれない。
だが、現実の運用を見ると、
ESが担ってきた役割は、もう少し現実的で、
そしてずっと不完全なもの。
ESは本来、
大量の応募者を、次のステップに進めるための“交通整理ゲート”
だった。
全員を深く評価するための装置ではない。
「この人は、次に進めてもよさそうか」
を、大づかみに判断するためのものだ。
だから、ESは最初から“完璧な評価”を目指していなかった。
むしろ、不完全であることを前提に成立していたと言っていい。
第一志望じゃないESも、通っていた理由
よく考えてみると、
企業側もそのことを分かっていたはずだ。
ESを読んでいれば、
「この学生、うちが第一志望ではないな」
と感じることは、昔からあった。
それでも企業は、
必ずしもそこで切り捨ててはいなかった。
なぜか。
それは、ES以外の要素――
面接での受け答え、
思考の組み立て方、
現場との相性、
伸びしろ、
そうした別の判断軸を、
次のステップで見ることができると分かっていたからだ。
つまり、
ESは完全な選抜装置ではなかった。
でも、それでよかった。
AIは「不完全さ」を壊したのではない
ここでAIが登場する。
AIは、ESを“完璧”にしたわけではない。
むしろ逆だ。
AIが得意なのは、
・それっぽく整える
・破綻を隠す
・平均点を量産する
つまり、
ESが本来持っていた“不完全さ”を、
不完全だと気づかせない形にしてしまうことだ。
以前のESは、
粗さがあった。
雑さがあった。
思考の浅さが、文章の歪みとして見えていた。
それが、
AIによって滑らかに整えられる。
結果として起きたのは、
「差がなくなった」のではなく、
「粗さが見えにくくなった」という変化だった。
差がつかなくなったのは、どこなのか
ここで、一つの問いが浮かぶ。
「AIで差がつかなくなった」と感じたとき、
私たちは、いったい何を見ていたのだろうか。
もし、
文章の綺麗さ
構成の整い方
語彙の巧みさ
そういった部分で差をつけていたのだとしたら、AIがそこを均質化するのは、むしろ当然だ。
だが、
判断の理由
迷い方
前提の置き方
失敗の捉え方
入社後の具体的な想像
こうしたものは、文章が整っても、簡単には消えない。
AIが消したのは「個性」ではない。
もともと“文章”に寄せすぎていた評価軸を、
一気に露出させただけなのかもしれない。
ESは壊れたのではない
ここまで整理すると、少し見え方が変わってくる。
ESは、AIによって壊されたわけではない。
もともと不完全な役割を担っていたものが、
AIによって“それっぽく完成してしまった”。
だから今、企業側は戸惑っている。
学生側も戸惑っている。
だが、この戸惑いは、
「AIが悪い」という話ではない。
ESに、何を期待していたのか。
どこで判断していたのか。
その前提が、問い直されているだけだ。
次に問われるのは「見る場所」
ここから先に進むために必要なのは、
AIを止めることでも、学生に努力を強いることでもない。
必要なのは、
どこを見るのかを、はっきりさせることだ。
次回は、
「なぜESが均一化していったのか」
その構造を、学生側の現実から見ていく。
学生は、怠けているのか。
それとも、そうならざるを得ない構造の中にいるのか。
この話を避けたまま、
AI時代の採用は語れない。
※学生視点からの“就活攻略の本質”は、こちらの別マガジンで整理しています
▼ AI時代の就活戦略(学生向け)はこちら
https://note.com/oneforward/m/mc69578357379
▼ AI文化論はこちら(第4シリーズ)
https://note.com/oneforward/m/m56d76524fd25
▼ 僕の世界観の中心はこちら(第1シリーズ)
https://note.com/oneforward/m/m11ada02b9313
▼ もっとライトに読める短話はこちら(小ネタ集)
https://note.com/oneforward/m/m9e9742efde9b
