見出し画像

駐在員あるある|日本人なのに、日本でインバウンド客になった話

日本人なのに、免税カウンターに並ぶ

海外駐在中、日本に一時帰国すると、少し変なことが起きる。

日本人なのに、日本で爆買いする。

しかも、インバウンド旅行客に交じって免税カウンターに並ぶ。

大きな百貨店やショッピングモールで買い物をして、レシートをまとめて、パスポートを出す。もちろん、日本国パスポートである。

周りには外国人観光客が並んでいる。その列に、日本人の自分も普通に混ざっている。

何をしているんだろう、と思う。

ただ、駐在中は日本の非居住者扱いになるため、条件を満たせば消費税の免税を受けられる。制度としては正しい。

でも、絵面がおかしい。

日本人が、日本で、日本国パスポートを出して、外国人旅行客に交じって免税処理をしている。

完全に、インバウンド客側である。

買っているものは、ブランド品ではない

しかも、買っているものは別に華やかではない。

高級ブランド品ではない。厚手のTシャツ、気の利いた文房具、生活雑貨、調味料、ユニクロ、Loft、ダイソー。

日本に住んでいれば、ただの日常の買い物である。

でも、海外に住んでいると、それが一気に補給物資になる。

日本に帰ったら、まず買う。持って帰れるだけ買う。スーツケースに入る量を考えながら買う。

この時点で、買い物というより補給計画である。

Tシャツは、意外と大事だった

ASEANで売っているTシャツは、薄い生地のものが多かった。暑いし、湿度も高い。薄い方が涼しいし、値段も安い。

それはそれで合理的だと思う。

ただ、私は厚手のTシャツが好きだった。ペラペラの生地がすぐテレテレになるのが、どうにも苦手だった。

首元が伸びる。生地がよれる。洗濯すると、急にくたびれる。

それが地味にストレスになる。

だから、日本に帰るとTシャツを買っていた。別におしゃれをしたいわけではない。ただ、ちゃんとした厚みのあるTシャツが欲しかった。

海外生活で困るのは、特別なものがないことだけではない。

普通に使いたいものが、普通の品質で、普通の値段で手に入りにくい。

これが地味に効く。

Loftとダイソーは、補給基地だった

文房具もそうだった。

日本の文房具は、地味にすごい。ボールペン、ノート、付箋、ファイル、クリアケース、小物入れ。

ひとつひとつは小さい。でも、使いやすさがかなり違う。

海外にも文房具はある。ただ、日本の文房具の「ちょうどよさ」は、なかなか代替しにくい。

だから、Loftに行くと危ない。

あれも使える。これも便利。これ、現地にない。これは買っておこう。

気づけば、かごの中身がどんどん増える。

ダイソーも危ない。

ひとつひとつは安い。だから油断する。でも、駐在員がダイソーに行くと、買い物ではなく仕入れになる。

これも要る。あれも要る。これは現地で探すと面倒。

気づけば、100円商品でスーツケースの一角が埋まる。

ダイソー、恐ろしい。

ベトナム製なのに、日本で買う方が安い

もちろん、最近はユニクロもダイソーも海外に進出している。

だから、現地でも買えるものは増えている。

ただ、問題は値段である。

海外でユニクロを見ると、日本より高いことが多い。体感として、倍くらいすることもある。

しかも、タグを見るとベトナム製だったりする。

ベトナムで作っている。でも、日本で買う方が安い。それをベトナムに持って帰る。

なんなんだよ。

もちろん、理屈は分かる。流通経路も違う。販売国のコストも違う。関税や店舗運営費もある。

それは分かる。

分かるが、感情としては納得しにくい。

ベトナム製なのに、日本で買って、ベトナムに持ち帰る。

このねじれが、駐在員生活にはよくあった。

店はないのに、みんな着ている

私がベトナムにいた頃、まだ現地にユニクロの店舗はなかった。

その後、2019年にベトナム1号店がホーチミンにできたらしい。ただ、私がいた時期にはまだなかった。

それなのに、冬になるとハノイでは、ユニクロのウルトラライトダウンを着ている人をよく見かけた。

ホーチミンは常夏に近い。でも、ハノイには普通に冬がある。しかもバイク社会なので、朝晩にバイクに乗るとかなり寒い。

薄くて軽いウルトラライトダウンは、ハノイの冬にちょうどよかったのだと思う。

ただ、店はない。

でも、みんな着ている。

なんなんだよ。

当時は、ベトナムの工場で検査に落ちたB級品のようなものが、道端の店で安く売られているらしい、という話を聞いたことがあった。

本当かどうかは分からない。

ただ、その話を聞いたとき、妙に納得感はあった。

店はない。工場はある。でも、みんな着ている。

グローバル流通の裏側を、道端の冬服売り場で見た気がした。

日本は、故郷であり補給基地でもある

海外に住んでから日本に帰ると、日本の見え方が少し変わる。

日本は故郷である。家族がいる。友人がいる。懐かしい場所がある。

でも同時に、日本は巨大な補給基地にもなる。

Tシャツを買う。文房具を買う。生活雑貨を買う。調味料を買う。ユニクロを買う。ダイソーで細かいものを買う。

そして、それを海外に持って帰る。

一時帰国は、休暇でもあり、仕事でもあり、家族に会う時間でもあり、補給作戦でもある。

駐在員のスーツケースには、その人の生活の足りない部分が詰まっている。

日本を、外から使うようになる

免税カウンターに並んでいると、少し不思議な気持ちになる。

自分は日本人である。日本に帰ってきている。でも、手続き上は非居住者であり、外国人旅行客と同じ列に並んでいる。

日本国パスポートを出して、免税処理を受ける。

制度としては正しい。

ただ、気分としては少し変だ。

日本に帰ってきたはずなのに、日本を外から使っている感じがする。

そして買っているものは、ブランド品ではない。

Tシャツ、文房具、ダイソーの商品、調味料、日用品。

日本に住んでいれば、ただの日常品である。

でも海外に住むと、それが宝物になる。

駐在員は、帰国すると買い出し部隊になる

海外駐在というと、どうしても仕事の話になりがちだ。

現地法人、異文化、マネジメント、語学、ローカルスタッフ。

もちろん、それらは大事だ。

ただ、実際の生活はもっと地味で、もっと具体的だ。

Tシャツが欲しい。文房具が欲しい。子どものものが欲しい。調味料が欲しい。ユニクロを日本価格で買いたい。

そういう小さな欲求が積み重なって、日本に帰った瞬間に爆発する。

そして、外国人観光客に交じって免税カウンターに並ぶ。

日本人なのに、日本でインバウンド客になる。

海外に住むというのは、外国で暮らすことだけではない。

日本を、外から使うようになることでもある。

日本は、懐かしい場所であり、便利な場所であり、補給基地でもある。

だから駐在員は、日本に帰ると爆買いする。

そしてスーツケースに詰める。

また海外へ持って帰る。

その繰り返しで、海外生活はなんとか回っていく。


いいなと思ったら応援しよう!