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モズになったツバメ〜名もなき優秀機、五式戦

 前回からの話の続きで、液冷エンジンの開発が大幅に遅延して、首なし機体の飛燕がずらりと並ぶ状況になってしまった川崎工場。
 この事を非常事態とした軍部と、設計主任の土井武夫氏が編み出した空冷エンジンの換装化開発。簡単な開発で思わぬ高性能になった陸軍最後の戦闘機。今回はその話を。

◆実は空冷エンジン化の話は前からあった

 この飛燕ですが、実は空冷エンジンを換装させる案は、正式採用になった年の年末には早くも持ち上がっていました。
 やはり戦地での整備の大変さ、エンジンの生産遅延を考慮してのことでしたが、やはり液冷エンジンの開発は、当時の日本では基礎技術が不足していたようです。
 また土井氏にしてみれば、心血を注いで一生懸命液冷エンジンを生産している仲間たちへの人情なのか、なかなか空冷エンジンに踏み切る決断ができませんでした。
 そうこうしている内に、事態は刻々と悪化していきます。海軍の液冷エンジンアツタ21型にも同様の問題が出ており、「彗星」艦上爆撃機は一足先に空冷エンジンに換装することが決定します。この情報も空冷化への後押しとなりました。
 そして1944年の10月、ついに軍部も土井氏も空冷エンジン、1500馬力級のハ112-Ⅱ(金星62型)を搭載することを決断します。

◆空冷化への課題

 さて、実際に空冷化へ着手するには数々の技術的な問題が生じます。
 爆撃機である彗星は、元々胴体の直径が大きいのでエンジンの換装には特に問題はありませんでしたが、戦闘機である飛燕は大問題が生じます。飛燕は元々液冷エンジン用に絞りきった細い胴体。大きな空冷エンジンとの段差がどうしてもできてしまうのが課題でした。

渦流が生じ、空気抵抗が増大することになります。

 胴体を絞った飛燕の胴体では、段差が20cmほど生じることになります。この段差は気流の乱れとなり、渦流が発生し、大きな空気抵抗を生み出します。これを解消するための板(フィレット)を付けるのが簡単でてっとり早いのですが、大幅な重量増となりますので、ここはなんとか避けたい所。
 そこで、参考にした戦闘機が、当時テスト機としてドイツから日本に来ていたFw190A−5でした。

◆百舌鳥の愛称を持つ機体 フォッケウルフFw190A

 ドイツ語でヴュルガーWürger(モズ)と呼ばれたFW190Aは、空冷エンジンの機首からキュッと絞りきった胴体を持つ独特のスタイル。

Fw190A 上からみると頭でっかち丸わかり

 頭でっかちのモズを連想させるにふさわしいデザインになっていると思います。百舌鳥(もず)という小鳥。頭が大きくてフォルムが丸くてカワイイですよね。

かわゆい(*´ω`*)

◆最小限の改造で、優秀な機体に生まれ変わる

 設計担当の土井技師は、この機体を参考にしてとあるアイデアを思いつきます。それは空冷エンジンと胴体の段差を逆に利用するものでした。

取り入れたアイデア

 土井技師は、この段差部分に排気の推進力を利用する推力式排気管を組み込み、渦流の解消とついでに速力アップも図ります。一石二鳥のすごいアイデア。これはFw190、零戦も52型以降採用された方式でした。速度が15~30km/hほど上がるデータがあるとのこと。

五式戦の正面。空冷エンジンと胴体のつなぎが不自然な感じがしますね。

 設計変更部分はほぼ胴体前部のみということもあり、正式発注からわずか3ヵ月後の12月末には既に設計完了し、1945年2月には初飛行に成功します。
 これだけの短期間での開発ながら高性能が認められ、2月中には五式戦闘機として採用されることになります。

 こうして首無しで放置されていた飛燕を含め、現存のエンジンの調子の悪い飛燕も改修されることになり、これの改造も含め、大増産が開始されることとなります。また、多くの三式戦闘機装備部隊が五式戦闘機に機種改変も行われ、各パイロットたちからも高い評価を得ています。
 改修のついでに、さらりと風防も視界の悪いファストバックスタイルから水滴型風防に。どんだけ水滴風防好きなんだと思います(笑)

五式戦。ファストバックスタイルから水滴型風防へ

 こうして、飛べないツバメは頼りになるモズへと華麗なる変身を遂げたのでした。
 結局、新基軸の液冷エンジン→安心信頼の空冷エンジン、斬新な高速型のファストバックスタイル→いつもの水滴型風防となり、気づいてみれば一周回って、いつもの日本機スタイルに戻っただけなのですが、その間に苦労して得た経験は決して無駄ではなかったと思います。
 その証拠に土井武夫氏は、戦後は戦後初の国産輸送機/旅客機「YS-11」の開発に貢献したり、長年の技術者の育成にも力をいれ、これらの功績を政府より認められ、科学技術長官賞も受けています。
 個人的には、ドイツの双璧の戦闘機、液冷エンジンのBf109と空冷エンジンのFw190Aの両者の技術を取り入れた形になっていて、面白いなぁと思ってしまいます。

 


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