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6月1日 氷の日 【SS】現場

日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。


【今日は何の日】-氷の日

日本冷凍倉庫協会が制定。
一方で、記念日を制定した団体は日本冷凍事業協会との情報もある。また、下記のリンクは日本冷蔵倉庫協会となっている。
日付は江戸時代、加賀藩が将軍家に旧暦の6月1日に氷を献上し「氷室の日」として祝ったことから。


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【SS】現場

 富士山の麓には一年を通して氷が溶けない洞窟がある。夏場に行くとひんやりして気持ちがいい。そんな氷室的な洞窟巡りを好む青年、洞山巡太郎ほらやまじゅんたろうは、今日も洞窟巡りを楽しんでいた。彼の移動手段はもっぱら使い古されたオフロード用バイクだ。車だと止める場所に苦労するがバイクなら比較的洞窟の近くまで行ける。

 季節は初夏、街中はすでに真夏のような暑さになっている。こんな時には洞窟に限ると思い、右手首を回してアクセルを効かせる。気持ちいい風がヘルメットの下から入り込みこもった暑さを逃がしてくれる。久しぶりに富士山の麓までやってきた。やはり、暑い時はここが一番いいとばかりに走り慣れた道を駆け抜けた。

 バイクを降りると、途端に暑さを感じる。急いでヘルメットを脱いで、バイクのバックミラーに無造作に被せた。ヘルメットも傷だらけなので持っていくやつはいないだろうとまるで無防備だ。そして、バイクブーツを履いたまま洞窟の方へ足を運んだ。洞窟の入り口までは草や小枝が落ちて踏み固められたように獣道のようになっている。今日はなんとなく湿っぽいなと感じながらもあまり気にすることなく洞窟に入った。

 ひんやりとした心地いい空気を感じる。そのまま進んでいくと氷が見えてきた。目を凝らしてよく見ると、誰かが倒れているように見える。そばに行ったら案の定女の人がうつ伏せになって倒れているではないか。巡太郎は、急いで駆け寄り声をかけた。

「どうしました。何かあったのですか」返事はない。

 近づいて体をゆすってみるが反応がない。すでに死亡しているようだ。よくみると背中に刺し傷もある。巡太郎は急いで洞窟の入り口まで出て、警察に電話をかけた。洞窟の中では電波が届かないのだ。現在場所を通知するのに、巡太郎は座標で連絡した。一番正確だからだ。程なくして警察がやってきて、現場検証が始まった。やってきた刑事が会話していた。

「何者かに刃物で殺されたようだな」

「そうですね。ここなら人に見られる心配もないですからね。しかし、心臓と背中と刺してますね、ひどいな」

 それを聞いていた巡太郎は腑に落ちないことがあったので刑事に話しかけた。

「あのー、この人はここで殺されたんじゃないと思うんですけど。ほら、着ている服が前側だけ濡れているじゃないですか。もし、この中で殺されていたら、こんなに前だけ濡れることはないと思うんですよ」

「ん、そんなことは君に言われるまでもなくわかっているさ。でもここで殺された可能性だってあるだろ。それも合わせて検証してるんだよ」

「いや、それはありません。だって、この人は刺されて亡くなっているのに血液のシミが地面にありません。これは別の場所で殺害されてここに運ばれてきたということを物語っています」

「お、おう。我々もそう思っていたよ。しかし、君は怪しいな。もしかして君が犯人なんじゃないか。第一通報者は怪しいからな」

「刑事さん、僕は今ここにきてすぐ電話したんですよ。死亡推定時刻を確認すればわかることでしょう」

 刑事と巡太郎が言い合いをしている間に、警察の鑑識がきて入り口付近を調べていた。どうやら入り口には引きずった後はないが、地面の濡れ方が異常だというのだ。まるでバケツで水を撒いたくらい濡れていると。巡太郎は独自の見解を再度刑事に話した。その時は鑑識の警官も聞いていた。

「洞窟の入り口に薄い平らな氷を敷き詰めて、この洞窟に運び込むための氷の道を作ったと仮定したら、死亡している人の前だけが濡れていて洞窟への入り口までも湿っているというのは説明がつきます。そして運ぶために敷いた氷は溶けて水になったので、入り口付近は湿っているのではないでしょうか。もしかすると引きずった時に氷についた血痕が採取できるかもしれません」

 巡太郎の説明をもとに事件は急展開した。最寄りの道路のタイヤ痕が調べられ、軽四輪のタイヤの跡だと判明し、近隣の車が調査された。該当する車は夏の営業に備えるために動き回っていた氷屋の軽トラックだった。当時、この軽トラックを運転していたのは、従業員の白井雪雄しらいゆきおという二十八歳の男性だった。早速任意同行での事情聴取が始まった。

 雪雄は、全く知らないとシラを切っていた。ちょうど別室で巡太郎が発見時の状況を再確認を含め説明していた。その時、巡太郎は、事情聴取が終了した時、自分なりの仮説をを刑事に話していた。

「こんだけふんだんに氷を使えるのは氷を商売にしている人ですよね。僕から見れば、女性がうるさく結婚か何かを迫って男性が氷を運ぶ時に使う手鉤てかぎで刺したんじゃないかと思うんですよね。それに背中の部分のところの服が上に引っ張られたようになってました。きっと遺体の背中を刺して氷のように引きずったんじゃないかなって思ったんですよ。流石に仰向けでは引っ張れなかったんじゃないでしょうか。」

 この仮説を聞いた刑事は、すぐさま氷屋にある手鉤を調査した。血痕がついている手鉤が軽トラの座席下から見つかった。これを証拠として突きつけられ白井雪雄は全てを自供した。巡太郎が推理した内容と全く同じだった。動機は子供を身籠ったことにより結婚を迫られたことだった。

 白井は、店の平たい氷を洞窟の入り口まで敷き詰め、軽トラで運んだ女性の遺体の背中に手鉤を刺して敷き詰めた氷の上を引きずって洞窟に運んだのだった。洞窟に運んだのは、冷蔵庫に入れるようなものだから死亡推定時刻を誤魔化せるのではないかと思ったことと、人が訪れることもないので発見は遅れるだろうと思ったということだった。敷き詰めた氷は時間と共に消えるから、引きずった跡のない道にすることができると思ったということだった。なかなかの知能犯である。

 警察からは巡太郎に感謝状が贈られ、その推察力を高く評価され、今後の捜査でも必要な時には協力してほしいという依頼まで貰ってしまった。巡太郎は、その依頼に対し、明確に回答していた。

「氷に関する事件に限定していただければ喜んで協力します」


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