8月15日 親に会いにいこうの日 【SS】勘当されたけど
日々設定してある記念日の中から一つを選び出して、その記念日から連想した内容でショートショートを綴ってお届けしています。今日の選ばれし記念日はこちら。
【今日は何の日】- 親に会いにいこうの日
大阪府大阪市中央区に本社を置き、「還暦祝い本舗」「プレゼント本舗」「手元供養本舗」などのサイトでメモリアルギフトの販売を手がける株式会社ボンズコネクトが制定。
日付は8月15日を「0815」として「親(08)に会いにい(1)こう(5)」と読む語呂合わせから。核家族化が進んで親と会う機会が減少している今、親に会うきっかけの日としてもらうことが目的。記念日は一般社団法人・日本記念日協会により認定・登録された。
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【SS】勘当されたけど
「勘当だ。この家から出ていけ。二度と戻ってくるな」
五年前、父親にこう言われて引くに引けなくなり、家を飛び出した。二十五歳の時だった。父親は生粋の料理人で、老舗の寿司屋に弟子入りし、その真面目さが買われ、三十歳の時に暖簾を分けてもらい独立した。息子の晴太は気が強く、父親譲りの頑固者でもあったため、よく父親と衝突していた。これからの寿司屋は昔ながらのやり方だけではダメだというのが晴太の考え方、一方、伝統を頑なに守ることが教えてくれた師匠への忠義だと一歩も引かない父親。どちらも、店のことを思っての発言だが、相入れることはなかった。
母親は黙って父親についてきたおとなしい人だったため、二人を取りなすこともできず、ただオロオロするばかりだった。そして、突然、禁句である「勘当」が父親の口から飛び出してしまったのだ。売り言葉に買い言葉、お互い後には引けなくなり、晴太は家を飛び出したという訳だ。
晴太は父親がお世話になった寿司屋を訪ねてみた。当たり前だが、父親の師匠に当たる人はすでに亡くなってしまっている。今は父親と一緒に学んだ師匠の息子である純平が店を切り盛りしている。
「おや、一徹さんの息子さんの晴太さんじゃないかい。たしか、お父さんの下で修行しているんじゃなかったかい」
「はい。そうだったのですが、度重なる意見のぶつかりで、遂に勘当されてしまいました」
「おや、一徹さんと喧嘩別れしてしまったのかい。それはいけないね。私の方から電話してあげようか」
「いえ、それよりも出来ることなら、ここで働かせていただけませんでしょうか。もう一度、自分を見つめ直してみたいと思っているのです。ご迷惑とは思いますが置いていただけないでしょうか」
「おや、そういうことでしたか。あまり無下にはできないようですね。では、しばらく私の隣で仕事をお願いしましょう。ただ、私の方からの手解きはないと思っていてくださいね」
「ありがとうございます。お邪魔にならないように努めますのでよろしくお願いします」
晴太は、これまで父親とぶつかっていた経営方針などはとりあえず忘れ、父親が学んだ環境に身を置くことで父親を理解しようと考えたのである。どうしても父親と一緒にいると口答えをしてしまうのだが、父親が学んだ環境に身を置けば、余計なことは言わずに学べるだろうと考えてのことだった。父親が修行をした店は、固定客が多く、そのほとんどは裕福な方々だった。そんな環境で仕事をしていると、お客様一人一人の顔と名前を覚え、それぞれの好みや嫌いなものも否応なく把握してしまう。そして、お店に入ってきた時の態度や顔色で、何を握ってあげればいいかとか、何を勧めた方がいいかということがわかるようになるのである。晴太にとってはかなり新鮮な体験だった。父親が始めた寿司屋は、近所のごく普通の家庭を対象にした店だった。子供連れで入ってくるお客様が多く、できるだけ安く提供することを懸命に考えていたが、ここでは違うと感じていたのである。
晴太は、口答えをすることもなく、前にしゃしゃり出ることもなく、黙々と純平を助けることに努めた。そして晴太の存在がいつしかなくてはならないものにまでなっていった。修行を始めてから五年が過ぎた頃、店主の純平から話を切り出された。
「晴太くん。実はね、二駅向こうの駅近くに居抜きで使える物件が出たらしいんだよ。ここに来ていただいているお客様も何人かはお住まいになっている駅だ。どうだ、暖簾を分けてあげるから独立しないか」
「え、私が独立ですか。まだ考えてもいませんでしたが」
「まぁ、晴太くんと娘の春奈のことがなければ話はしなかったかも知れないがな。ははは」
「え、あっ、申し訳ありません。春奈さんのことまでご心配をかけてしまっていたのですね」
「いやいや、春奈のことは冗談だよ。晴太くんの腕がいいから、ちょうどいい物件も出たことだし、春奈を嫁に出す時期としてもちょうどいいかなと思った次第だ。店の開業資金は持参金代わりに私が出してあげるよ。ただし、暖簾を汚さないということが条件だ」
「あ、ありがとうございます。あまりの嬉しさで言葉もありません」
こうして晴太は、春奈と一緒になることを認めてもらい店まで出すことになった。家を飛び出してから母親には時々状況報告をしていたが、父親とは電話すらしていない。しかし、結婚式に出席してもらうためには、一度挨拶に行かなければならないと思い、お盆のお墓参りに合わせて実家に戻り、父親に報告とお願いをしようと考えた。もちろん、春奈の紹介も兼ねてのことだった。
「母さん、ただいま。随分と長い間、申し訳ありませんでした」
「晴太かい。会わないうちに立派になったね。見違えたよ。こちらが春奈さんね。よくいらっしゃいました。こんな息子ですが、よろしくお願いしますね」
「お母様、こちらこそよろしくお願いします」
今日は、お盆で店もお休みだ。家の中には父親も待っているはずだ。晴太は少し緊張気味に春奈を伴って、座敷の方に上がっていった。
「父さん、ただいま。長い間、親不孝をしてしまいました」
「少しは腕も上がったみたいだな。純平から連絡があったよ。全くお前ってやつは。よりによって、純平を頼っていくとは。そんなところだけはしっかりしているな。しかもお嬢さんまで味方につけちまったんじゃどうしようもないな。春奈さん、晴太はわしに似て頑固者ですが、よろしくお願いします」
「お父様、こちらこそよろしくお願いします。晴太さんからはお父様から勘当を言い渡されたと伺っておりますが、今日から勘当を解いていただけますでしょうか。私と父に免じてどうぞよろしくお願いします」
深々と頭を下げる春奈をみて、一徹は、了承するしかなかった。最も、もっと早くに撤回したかったのだが、いじっぱりの父親にいじっぱりの息子で、元の関係に戻るのに五年もかかってしまったようだ。今回は、春奈が楔役となってくれ、両家参加の結婚式も滞りなく執り行われた。そして、二年後には待望の孫も生まれ、一徹と晴太の関係も完全に打ち解けていったようだ。
月日は流れ、一徹の寿司屋は晴太の息子、つまり一徹の孫が引き継ぐべく、一徹の下で修行を始めているようだ。
了
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